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第十九話 収穫祭

 アモン達の逃走から三ヶ月が過ぎた。

 秋も駆け足のように過ぎ去り、ノーザリア教会の窓の外には小雪が舞っていた。

 都市ノーザリアの司教、スリストンは暖炉の炎によって温められた私室で机に向かって座っていた。向かいには燃えるような赤い長髪をバッサリと切ったランカが立っていた。


「ランカ君、あれから三ヶ月経ったが、何か成果が上がったのかね?」


 スリストン司教の穏やかだが、強く問い詰める口調に対し、ランカは直立不動のまま司教の背後の壁に掛かっている教会のタペストリーを見つめ答えた。


「いえ、老人の確保後は一切何もございません」


「そうですね。あの老人の逮捕以外は何も進捗ありませんね。老人の証言通り、あそこから北方を探しましたが、何一つ手掛かりが見つかりませんし、何か隠しているのかと思い、逮捕して尋問しても何も知らないと言っていますし。君は逃げられたあの少女の重要性を分かっているのですか?あなたの失態のおかげで、私も枢機卿猊下からお叱りをいただきました。何としてもあの少女を探し出さなくてはいけないのです」


 スリストンは椅子から立ち上がり、机を回ると、ランカの背後へと歩いて行った。


「その前に、来週の収穫祭であの老人を反逆罪で処刑しようと思います」


 スリストンの言葉にランカは息を呑んだ。


「あのご老人をですか・・・」


「そうです。この失態、何もしないでいては私の立場が危ういのですよ。そこであの少女と最後に関わったであろうあの老人を処刑するのです。枢機卿猊下にも報告済みです。あなたには会場の警護をしていただきます。詳しくは追って連絡しますので、ノーザリアで待機していなさい」


 そう言うと、スリストンはランカを退室させた。

 窓辺まで行くと、外の景色を眺めながら呟いた。


「あの老人め、絶対何か隠している」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 



 収穫祭の日が来た。

 収穫祭は第三季に行われる。一年を4つの季節に分け、年始から三番目の季節が第三季である。第三季はこちらで言うと秋にあたり、太陽の恵のおかげで無事作物を収穫できたことを祝い、感謝するのが収穫祭であった。この祭りでは太陽神に叛いて、殺人や強盗を犯した者、教会に反抗した者、科学技術の研究を行った者などをこの日に処刑するしきたりであった。処刑はノーザリアの地方庁舎の中庭で行われる。この日は快晴で、気温も少し肌寒いくらいであった。庁舎の中庭には処刑台が設置されており、その上に二人が目隠しをされ、棒に縛り付けられていた。

 スリストン司教は庁舎の2階のベランダでノーザリア市長と並んでいた。ベランダからは処刑場が一望出来、二人は片手にワイングラスを持ち、チビチビの口をつけながら眺めていた。

 ランカはと言うと処刑台の向かって右側に側近の者と並んで立っていた。腰にはレイピアをつけ、教会の紋章の入ったハーフマント着ていた。ランカの後ろには側近が二人、長剣を付け、したがっていた。ランカは時折、処刑台の上を見ては教会のしようとしていることに対する疑問と、何もできないやるせなさとが入り混じり、吐き気がし倒れそうであったが、しっかりと足を踏ん張ると立ち続けていた。


「只今より罪状を読み上げる。まず向かって右の男性。この者は禁じられている拳銃の改造を行った。その意図は王国の転覆を目的としていることは明らかであり、よってここに処刑を行う。左の男性。この者は教会を侮辱し、虚言で民を惑わそうとした。教会に対する反逆罪でここに処刑を行う」


 処刑官が声高に罪状を読み上げた。すると空に向かって空砲が三発発射された。処刑が行われる合図である。


「構え!」


 処刑官が罪人の向かいに立っている銃兵に号令を掛けた。

 銃兵は傍に備えていたマスケット銃を持ち上げると、銃口を二人に向け構えた。

 

「撃っ」


 処刑官が発砲の合図を言おうとしたその瞬間、


 バン、バン


 と言う音とともに銃兵のマスケット銃が宙を舞った。

 それとほど同時に庁舎の表門からトラックがものすごい速度で突入してきた。


「その処刑、ちょっと待った!」


 トラックの運転席の屋根に乗ったオリバーが叫んだ。


「貴様ら、何者だ!」


 処刑官が叫んだ。

 ランカは咄嗟にレイピアを抜くと、処刑台を守ろうとトラックの前へ躍り出た。

 トラックはランカの目の前で左にハンドルを切った。タイヤが砂埃を立て、辺りの者が一瞬目をつぶった時、オリバーは処刑台へ飛び移った。そして素早く老人の元へ行くと、後ろ手に縛ってあった縄を切り裂いた。


「叔父さん、助けに来ました」


 オリバーはそう言うと、もう一人の男のところへ行き、


「あんたも助かりたいか?」


 そう聞くと、男は頷いた。

 オリバーは男の縄も切り裂いた。


「お前ら、逃がさないぞ」


 ランカは砂埃の入った目を左手で擦りながら、右手にレイピアを構え処刑台に上がった。それに続いて側近の二人も長剣を両手に構え、ランカに従った。

 ランカ達三人はじわじわと陣形を広げ、オリバー達を囲むように動いた。それを見たオリバーは両サイドの側近の足元にナイフを投げつけ、動きを牽制した。

 オリバーの両手がガラ空きになった時、ランカは突撃を命じた。


「今だ、かかれ!」


 側近二人が飛び込んで時、処刑台に再びトラックが近づいて来て、何か大きな物体が飛び出した。


 カチン、カチン


 勢いよく振り下ろされた側近の長剣は何かに当たり、弾き返された。

 飛び出したのはアモンだった。アモンは大盾を構え、うまく2本の剣を受けた。

 突如現れたアモンに、ランカは驚いたが、すぐに気を取り直して、レイピアを前に構えた。


「お前達は何者だ。何をしたか分かっているのか。神の名の下で罪人を処刑しようとしていたのだぞ」


 そう言うと、ちらっとスリストン司教の方を見た。

 スリストン司教はグラスを落とし、口を振るわせていた。


「そんなこと、知ったこっちゃない。俺たちはこの人を助けに来ただけだ」


 オリバーが言った。


「何を、逃がさないぞ」


 ランカはレイピアを前に突きかかった。右へ、左へ、上へ、下へ。アモンの大盾をかわしてなんとか一撃を与えようと突きまくる。しかし、アモンはそれを全て受け流した。

 処刑台の上では一進一退の攻防が繰り広げられている。

 その間に、処刑官は銃兵にマスケット銃を拾わせていた。


「おっと、そこまでだ。ちょっとでも動いてみろ、この銃でお前達を、」


と、言いかけた時、今度は二つの銃声とともに再びマスケット銃が宙を舞った。


「兄さん、間に合ったみたいだね」


 もう一台車が入ってきた。オフロード用のバギーだった。その後部座席は運転席に対し少し高くなっており、そこにはリンシャがライフルを構えて座っていた。マスケット銃を飛ばしたのはリンシャの銃撃だった。


「リンシャ助かった」


 アモンが言うと、処刑台にはトラックが戻ってきて横付けしていた。オリバーは老人と男を乗せると、自身も乗り、アモンにも乗り移るように促した。

 しかし、アモンの前にはランカが構えている。隙を見せれば飛びかかってきそうだった。


「お前だけは逃がさないぞ」


 ランカはそう言うと、ジリジリと間を詰めていった。アモンも少しずつ後退し、トラックの手前まで来た。しかし、トラックまでわずかだが距離がある。このまま後退で乗り込むことは出来なかった。トラックの荷台ではオリバーがアモンが飛び乗った時に備えて身構えている。アモンの右足が処刑台の淵に掛かった。これ以上は後退できない。


「さあ、どうする。もう下がれないぞ。後ろのトラックまで飛び移るか」


 ランカはレイピアを中段に構えた。さらに間を詰める。剣先と大盾との距離はおよそ1メートルまで迫った。

 アモンが盾の上からランカを見た。

 その瞬間、ランカは地面を蹴り上げ、前方に飛び上がると右手をくるりと回転させ、レイピアを盾の上から滑り込ませるように突き出した。


 サクッ


 レイピアはアモンの左頬をかすめた。傷からは血が噴き出た。

 ランカは地面に着地すると第二撃を繰り出そうと、構え直した。


「ちっ」


 アモンは舌打ちをすると、大盾に身を隠し、両足に力をこめ盾を突き出した。


「シールド・バッシュ!」


 大盾は勢いよくランカにぶち当たった。盾をまともに喰らったランカは後方に吹き飛んで行った。その隙にアモンはトラックに乗り移り、リンシャのバギーと地方庁舎を後にした。

 


間が空いてしまいましたが、第十九話です。

教会の老人(オリバーの叔父)が処刑される寸前に助けに来ました。

アモンとランカの二度目の遭遇です。ランカはまたしてもアモン達を逃してしまいました。

この後、エルバート教会はどう動くのか。

老人と一緒にいた男は?

次はなるべく早く更新したいです。

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