第十七話 火薬主任
「それではこの基地をご案内いたしますわ」
そう語りかけてきたのは、最初グッドマンと会った時、その傍にいた美女だった。歳は30くらいであろうか、長身でスリムな女性だった。
三人に先立って部屋を出ると、廊下を進みある扉の前に来た。
「まずはこちらへどうぞ」
扉の脇にあるボタンを押すと、扉が自動で開いた。
中は広い空間になっていた。反対側の壁ははるか彼方に見え、天井も20mはあろうかかなり上の方に見えた。その中をあちこちがライトで照らされており、薄暗さはなかった。所々大型の物体、タイヤがあるところからすると車両なのだろう、があり、大勢の人がひっきりなしに作業をしていた。
三人+美女の計四人が入ってくるのを見ると、一人の男性が近寄ってきた。
「おお、ブルーム、そろそろ来る頃だと思っていたよ」
男は言った。
「遅くなってすいません、エドガーさん。グッドマン司令官のおっしゃっていた方々をお連れいたしました」
ブルームは答えた。
「始めました、私はここの技術主任をしておるエドガーだ。よろしく頼むよ。技術的なことだったらなんでも聞いてくれ」
エドガーは右手を着ていた白衣に擦ると、その手を差し出し、握手を求めた。三人は順にエドガーと握手し、一言二言言葉をかわした。エドガーは再びブルームに振り向くと、
「昨日はありがとな。あれのおかげで通信できそうだ。司令官に伝えて置いておくれ」
そう言うとさっさと壁に設置されている機械の方へと行ってしまった。
「すいません、エドガーさんはいい方なのですが、研究熱心で、今も昨日ハナさんに届けていただいたものを使って作業をしているのです。それでは次いきましょうか」
ブルームに促され、三人は部屋をでた。
その後、医務室、農業ブロックを周り、ある研究室の前にきた。
「次は火薬主任をご紹介します」
ドアをノックすると、
「ミハエルさん、入りますよ」
ブルームがそう言うと、ハナがピクリとした。
部屋の中には実験用のテーブルが多数あり、さまざまな機材が置いてあった。一番奥には白衣を纏った女性の後ろ姿が見えた。
四人が部屋に入ると女性が振り向いた。
「ママっ!」
そう叫ぶとハナは女性目掛けて走り始めた。
「ハナ?ハナなのかい!」
女性はハナの顔を確認すると、自分も走り出し、部屋の中央で抱き合った。
ハナの目には嬉し涙が溢れ、ママ、ママ、と繰り返し言っていた。
感動の再会が終わると、女性、ミハエルは立ち上がり、二人の方へと近寄ってきた。
「私は火薬主任のミハエルです。そして、ハナの母親です。よろしくお願いします。ハナをここまで連れてきていただいてありがとうございます。なんて感謝したらいいのやら」
ミハエルは何度も二人に頭を下げ、感謝の意を現した。
「立ち話もなんですから、あちらの部屋でお茶でもいかがですか」
ミハエルたちは隣の部屋へ移動した。
「すいません、この区画は火気厳禁ですので冷たい飲み物しかお出しできなくて」
部屋の奥にある冷蔵庫から瓶に入ったお茶を出すとグラスにそそだ。
部屋には棚がたくさんあった。そこには様々な火薬が使われるものが並んでいたが、そのうちの一つがリンシャの目に止まった。
「あ、これ、ブルーローズじゃないか!こっちも、こっちも!こんなにたくさんのブルーローズどうしたの。あ、こっちにはダーティーラットもある!すごい、すごい」
エルバンテ教会で見せた無邪気な子供のような反応で大はしゃぎした。
「ほほほ、それは私が作ったのですよ」
大喜びのリンシャを見ながらミハエルは言った。
「え、これおばさん、じゃなかった、ハナのお母さんが作ったの?でも、なんで両方あるの?」
「そうよ、どっちも私が作ったのよ。出来がいいものを『ブルーローズ』、いまいちのものを『ダーティーラット』としているの。それをちょこちょこと市場に出してお金にしているの。そして、正体不明の弾丸作家は両方とも、わ・た・し、って訳」
「すごいよ、おば、じゃなかったハナのお母さん。街じゃ最高級品だよ。なんで、なんでこんなに作れるの」
「それはね、この山で火薬の材料が取れるの。教会がどんなに火薬の流通を規制してもね、材料から調達できればいくらでも作れるの。それを自分たちで火薬を生成しているのよ。弾丸の品質についてはね、そうね、ひとえに私の腕かしら、ほほほ」
ミハエルは左手で口を押さえて笑った。
「リンシャちゃんは銃が上手なんだって?いくらでもブルーローズとダーティーラット使っていいわよ」
ミハエルの申し出にリンシャは大喜びした。
ハナが運んでいたものは通信に必要なものであったらしい。
そして火薬主任ミハエルはハナのお母さんであった。さらに謎の弾丸作家でもあった。
そして、基地の案内はもうちょっと続くw。




