第十四話 影の者
森の中は薄暗かったが、トンネルの中よりは気持ち良かった。
木々の間から溢れる光、鳥の囀り、時より吹き抜ける風。どれも新鮮に感じた。
「なんか、ピクニックに来ているみたいだね、兄さん」
リンシャは陽気に言った。
「おい、そんなこと言ってないで、ちゃんと周りをみろよ」
アモンに言われ、リンシャは渋々警戒をした。
「でも、なんか楽しいね。追われないって思うと、すごっく楽な気分になれる」
ハナの声は弾んでいた。10歳くらいの少女が大人に追われて、遠い距離移動してきたのだ。どれほど辛かったことか。それが追手はもう来ない。よほど嬉しかったに違いない。
森の獣に対するのは兄弟の役目だ。
時々、茂みから小動物が飛び出してくることもあった。その度、アモンは盾を構え、リンシャは銃をホルダーから引き抜きを繰り返しながら進んでいった。
森の中も道らしいものが続いていた。他の場所よりも踏みならされ、茂みもかき分けられ、何よりも目的の山の方角へと続いていた。
洞窟から出た翌日、太陽が中天に差し掛かろうとしていた。
ドサッ
アモンの頭上から何か降ってきた。それはアモンの頭部に落下すると、うねうねと伸び始め、頭に巻きつき始めた。
「うわ、なんだこれはっ」
アモンは盾を離すと、両手でそれを引き剥がし前方に投げ飛ばした。
それは着地すると紐のように長くなり、先端を持ち上げた。
ヘビである。
「おっと、こいつは毒もっていないよな」
アモンはそう言うと盾を拾い上げ、左手に持った。
次の瞬間、
ドサッ、ドサッ、ドサッ
三人の周りにヘビが次々と降りかかってきた。
「きゃあー」
ハナは悲鳴をあげ、前にいるアモンにしがみついた。
アモンはハナを引き寄せると、大盾を前に構え、自分と盾との間にハナを入れると、その場にかがみ込んだ。
リンシャは腰の拳銃を抜くと、ヘビの頭部目掛けて銃を撃つも、咄嗟の事と標的が小さく動く事とで、三発に一発しか命中しなかった。腰の拳銃二丁、胸の一丁、足につけていた一丁、計四丁の拳銃の弾を打ち尽くしてしまった。
その間も、頭上からはヘビが何匹も落ちて来ており、周囲は一面ヘビに埋もれてしまった。
「ちくしょう、こいつらめ」
威嚇をし、飛びかかろうとするヘビを蹴り飛ばそうとリンシャは奮闘するが、相手も素早くなかなかうまく行かない。
そのうち、リンシャは足を二箇所、アモンも腕を一箇所噛まれてしまっていた。
しばらくすると徐々にリンシャの動きが鈍くなってきた。
「しまった、こいつら、毒を、持って、いやがった」
バタン
リンシャが倒れてしまった。
「おい、リンシャ、大丈夫か」
アモンはハナを庇いながら、後方のリンシャに声をかけた。
しかし、アモンも毒が周りはじめ、徐々に意識が遠のいていった。
ついにアモンも力が抜け、倒れてしまった。ハナは何とかアモンと盾の下に潜ることが出来たが、周囲はヘビだらけであった。
「助けてーー」
大声で叫んだ。
次の瞬間、どこからかナイフが一本飛んできた。
グサっ
ハナを狙っていたヘビの首を切り裂いた。
すると、周りから次々とナイフが飛んで来た。
グサっ、グサつ、グサっ
ことごとくヘビに命中し、三人の周りのヘビはあらかた片付いてしまった。
木の枝から三人の男が飛び降りてきた。
「遅れて済まない。もう大丈夫だ」
その内の年長と思われる男がハナに声をかけた。
「二人はすぐに治療する」
そう言うと、アモンとリンシャをその場で上向きに寝かせ、荷物から注射器を出すと二人に注射した。
「これは解毒剤だから安心して」
それが終わると傷の手当てをした。
一時間ほど経ったであろうか。
まずアモンが目を開け、続いてリンシャが目を開けた。
「二人とも目が覚めましたかな」
二人はよろける上体を支えながら、何とか起き上がった。
「私はオリバー=オウル。『影の者』と呼ばれております。伯父上から連絡があり、三人をお迎えに参りました。遅くなって申し訳ない。そのこ少女の声を聞いて、ようやく探し出すことが出来た次第です」
オリバーは二人に言った。
「まだ完全に解毒できた訳ではないので、無理はなさらないで。歩けるようになりましたら、三人を本部にお連れします。我々が案内いたしますので、どうぞご安心を」
オリバーに付いてきた二人のうち、一人は周囲の警戒を、一人はハナと一緒に食事の用意をしていた。
さらに一時間が経過し、アモンとリンシャは立ち上がれる様になった。
「ありがとうございます。もうダメかと思いました」
アモンが昼食のスープを飲みながら言った。
「警戒はしていたのですが、頭上から突然だったのと、数が多くて、どうにもなりませんでした」
「いえいえ、あのヘビに不意打ちを喰らってはなかなか難しいですよ。集団で住み着いていて、さらに毒まで持っている。クマですら殺してしまいますからね。三人はちょっと道を外れてしまっていたのです。それで運悪くヘビの巣に迷い込んでしまったのでしょうね」
食事も終わり、準備ができると、荷物をオリバーのお供が持ち、ハナはオリバーがおんぶし、六人は山の中腹にある『本部』へ向かって出発した。
思いがけず『影の者』オリバー=オウルに助けられた三人。これから『本部』を目指すことになった。
『本部』とは一体何なのか。彼らの正体は。
次回、真相が明らかになる(かも)




