第十三話 洞窟
アモンの馬が走り出すと、リンシャも後を追って走り出した。
暗闇の中、星空の明かりだけが地面を照らす。そんな僅かな光量であったが、2頭の馬は行き先を失うでもなく、また地面の石や草などに足を捉われることもなく、ひたすら目的地へ向かって真っ直ぐ走って行った。
三人は最初こそ振り落とされまいと手綱をしっかりと握りしめていたが、馬達は乗り手に優しく、衝撃は最小限どにとどめ、いつしか手綱を握る手の力も緩み、心地よい上下運動の中、疲労に襲われ眠ってしまった。
「ん、しまった、つい眠ってしまった」
最初に目を覚ましたのはアモンであった。東の空には薄明かりが見え、周りからは水の流れる音がする。ハナが落ちないようにまず自分がゆっくりと馬を降りた。それからハナをおろし、近くにいた馬上のリンシャに声をかけた。
「起きろ、リンシャ。目的地みたいだぞ」
アモンは荷物を下ろすと、ランタンを取り出し火を灯した。薄明かりの中はっきりしなかったが、すぐそばに洞窟の入り口があった。
「これがあの老人の言っていた洞窟か」
アモンは中を照らしながら言った。
「よし、荷物をおろしたら、言われた通り、馬は解放しよう」
三人は黙々と馬から荷物を取り外し、洞窟の中へと運び込んだ。そして手綱と鞍を外すと馬の尻を叩き、解き放った。
「ここはどの辺なんだ。山が見えるからあっちが西だよな。んで、これからこの洞窟を通って森まで行くと」
リンシャは洞窟から一度出ると近くの丘を登り、はるか彼方に見える森林を見た。
「ウヒョ、めっちゃ遠いよ、兄さん。森がこんなに小さく見える」
そう言うと右手の親指と人差し指とを1cmくらい離して見せた。
「そんなに遠いのか。それを洞窟の中を踏破しなくちゃいけないんだな。何だって直接森に行かせなかったんだ、あの老人は」
アモンは愚痴りながらも荷物の整理をした。
整理が終わると、各々荷物を背負い、アモンが先頭、次にハナ、最後にリンシャの順に洞窟の中へと入っていった。
洞窟の入り口付近は非常に均されていて歩きやすかった。
奥に行くにつれ、険しくなると思われたが、そんなことはなく、どこまでも平らな地面が続いていた。
「おい、こりゃすごい。歩きやすいな。この先もずっとこうなのかな」
先頭を行くアモンが言った。
「その上、曲がり角も別れ道も無いぞ」
この洞窟はアモンの言う通り、ほぼ一直線で歩きやすいように地面は平らだった。自然に出来た物ではなく、人工的に作られた洞窟なのだろう。洞窟というよりもトンネルと言った方がいいのかもしれない。
「これなら思うよりも早く森に着けるかもしれないね」
最後尾のリンシャが言った。
三人は黙々としばらく歩いた。歩きやすいとはいえ、ずっと暗闇の中だと神経がすり減ってくる。いつ何が出てくるか分からないのだ。しかし、このトンネルには動物が巣を作るような小穴は一切無く、そのような心配は不要であった。昼ごろになったのだろうか、誰かのお腹が鳴った。
「そろそろ休憩するか。昨日の夜から動きっぱなしで疲れたろ」
アモンは荷物を下ろし、食事の用意を始めた。その間、リンシャは周囲の警戒をしていた。
「お兄ちゃんたち、ごめんね、こんなことになって」
ハナは申し訳なさそうに言った。
「ハナちゃん、気にしないでおくれよ。俺たちが勝手についてきているだけだから」
「そうだよ、それにスリリングで結構楽しいよ」
陽気にリンシャが答えた。
そんな間にも簡易な食事の準備が出来、三人は貪るように食べた。
食べ終わると、ハナを真ん中に休息を取ることにした。
「どうせ時間わかんないし、疲れが取れるまで休憩しようよ兄さん」
「そうだな、まず俺が見張りするからお前から休め、リンシャ」
どの位時間が経過したのであろうか。後から寝たアモンが目を覚ますと、リンシャとハナは出発の準備を済ませていた。アモンの身支度が終わると、三人は再び真っ暗なトンネルを歩き始めた。
時々、小休憩を取りつつも着々と進んで行った。二度目の睡眠を取り、三日目(?)の行軍を初めて間も無く遠くに光の点が見えた。
「おい、光が見えるぞ」
アモンの言葉に二人は元気付けられ、歩みが速くなった。それから一時間ほど歩くと、光は目の前まで近づいた。
「二人はちょっと待っていろ」
アモンはそう言うと、大盾を前に構えゆっくりとトンネルの出口に近づいた。
外からは鳥の囀りが聞こえた。さらに近づき、地上に顔を出した。
周囲を見回すと森の中の小さな広場になっていた。注意深く周りを観察し、攻撃性の動物がいないことを確認し、三人は地上にでた。
「さ、早く森に入ろう。日の下にいないように言われているから」
三人は森の茂みの中へと入っていった。
三人は森に到着した。しかし、まだ先は長く、その上森の中を行かなくてはいけない。
どんな困難が待ち受けているのか。




