第十一話 エルバンテ教会
「兄さん、これ付けて後ろ見ていて」
リンシャはアモンに暗視スコープを渡した。
アモンは暗視スコープを装着すると、窓から顔を出して後ろを見た。
「よし、追手は来ていないぞ」
「ありがと、そのまま監視を続けて」
そう言うとリンシャはアクセルを踏み、速度を上げた。
夜間の道のない草原は非常に危なかった。至る所に岩があり、ぬかるみがあり、時には驚いた小動物が飛び出してきたりし、いちいちそれらをかわしながら、できる限り先を急いだ。
しばらくすると夜の帳の中にぼんやりと黒い影が見えてきた。トラックが近づくにつれ物陰ははっきりとしてきた
。それは大きな建物だった。
「こんなところに建物か。これがエルバンテ教会かな」
運転席からリンシャが言った。
後ろを見ていたアモンも前方を見ると
「きっとそうだろう。ゆっくりと近づいてくれ」
と言い、隣で寝ているハナを起こした。
「ハナちゃん、教会についたよ」
「ほぇ、ありがとう、教会についたの」
「そうだよ、今、教会にトラックをつけるから待っててね」
リンシャは建物の周りをゆっくりを回ると、入り口と思しき場所にクラックを止めた。
建物は教会で間違いないようだった。
非常に大きい教会であった。壁は薄暗くはっきりとは見えなかったが、至る所が欠けており、長い間手入れがされていないようであった。上の方を見るとゆらゆらと揺れる明かりが見えた。
「こんなところに誰かいるのか」
アモンは大盾を身につけると、扉に近づいて行った。
「よし、開けてみるか」
持ち前の力で扉を押すと、鈍い音を立てゆっくりと開いた。
後ろからリンシャがランタンに火を灯し、中を照らした。
すると広い聖堂の中に朽ちた長椅子が多数散在していた。さらに一歩中に入り、周囲を照らした。その時、右手の暗闇から人の声がした。
「こんな時間にどなたじゃな」
声の様子は年老いた男のようだった。
リンシャは声の方向にランタンを向けた。
「ほっ、ほっ、ほっ。見ての通り老ぼれじゃ、警戒せんでええ」
そこには一人の老人がいた。
老人は顎髭を蓄え、うす暗いローブを身にまとい、攻撃する意思の無いように両手をあげていた。
「夜遅くにすいませんでした」
アモンは前に出た。
「こちらはエルバンテ教会でしょうか」
「そうじゃ、エルバンテ教会じゃ。して、エルバンテ教会だと知って訪ねてきたのかね?」
「はい、こちらの少女がここに用事があるとのことで、連れて参りました」
「ほう、その子がかい」
老人はハナの方を見た。老人の視線は優しそうであり、その中に鋭い眼光が見えた。ハナは視線を向けられるとアモンの後ろに隠れてしまった。
「ほっ、ほっ、ほっ。怖がらんでもいい。ここで話すのもなんだから、上へ行かんか」
そう言うと返事を待たずに、老人は明かりもつけず暗闇の中の階段へと向かった。
2階を過ぎ、3階へと登っていった。
そこには6畳ほどの小部屋があり、中央にはソファーが一式置いてあった。老人は三人に座るように促すと、暖かい紅茶を入れ差し出した。
「寒かったじゃろ、どうぞ召し上がれ」
三人が躊躇していると、
「大丈夫じゃよ、毒なんか入れておらんから」
そう言うと自分から紅茶を一口飲んだ。
それを見て三人も初めて口をつけた。
「で、ここに用事だなんて何かな。こんな打ち捨てられた教会に」
ハナはまだ怖がっていたが、おずおずと話し始めた。
「はい、実は、えっと、その、この、こちらの、荷物を、ここに、教会に、届け、来たのです」
例の小包を取り出した。
老人はその小包を丹念に調べると、そこに押されているハンコを見て驚いた。
「あんた、これをどこで手に入れたんじゃ」
先ほどまでのんびりした口調であったが、鋭いものに変化した。
ハナはびっくりしてアモンの後ろに隠れてしまった。
「えっと、その、私の、お仲間さんが、これを、届けに来る途中、追われて、はぐれて、それで、誰からかは、分からないけど、ここに、行くって、言ってたから、私が、持ってきました」
「おお、そうじゃったか、それは大変ありがたいことじゃ。非常に助かったよ。こいつは大切なものだ」
声をは再び穏やかな口調に戻っていた。
老人はハナの頭を撫でようと腕を伸ばしたが、ハナはアモンの後ろから動こうとしなかった。
「しかし、この荷物の最終地点はここじゃ無いんじゃ。ここから西に山脈があるんじゃが、そこに送らねばならん。ちょっと来てくれんか」
老人は一度廊下に出ると別の部屋へと促した。
そこはごく小さい部屋で、壁には部屋に不釣り合いな大きな暖炉があった。暖炉の向かい側の壁はなく大きく外へ開いていた。老人が暖炉の火を厚手の布で遮ると暗闇が襲いかかり、空には星空が広がった。
「ほれ、この先が西の山脈じゃ」
老人は暗闇の先を指さした。
「そして、ほら、見えるか、山の中腹に白く点滅している光が」
そう言われると真っ暗な山陰の中腹に白くきっちり1秒おきに点滅する光の点が見えた。
「あそこに荷物を届けたいんじゃ、お前さんら、行ってくれぬか。最大限の助力はするぞ。どうせ追われておるんじゃろ。この先行く当ても無かろうに。」
アモンとリンシャは顔を見合わせ、どうしようかと考えていた。
「そうだな、この先どうするかなんて考えなかったな。教会が相手じゃ逃げ切るのも難しいかも知れんな」
遥か彼方の白い光を見ながらアモンは言った。
「ま、乗りかかった船だし、最後までつきあおうよ」
リンシャが答えると二人は荷物の運搬を承諾した。
エルバンテ教会に到着した三人を待ち受けていたのは正体不明の老人であった。
さらに西の山脈へ行くことになった。
荷物の中身は何なのか。山脈には何があるのか。
まだ続きます。




