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XIII-3暗黒の島




「「え?」」






 突然落ちたかと思うと、わたしは岩だらけの地面に座り込んでいて、そして―――


「ナギ!!」「セリナ!?」


 私たちは座り込んだまま何日振りかの再会を果たした。

 ひとしきり再会の喜びを分かち合うと、やがて自分達のいる場所を確認し始めた。

 岩の天井、岩の柱にごつごつとした床。人工的に作られた洞窟のようだ。今まで何も見えない暗闇にいたから、薄闇でも十分に明るく見える。

「ここ、どこだと思う?」

「わからないわ。どうして突然こんな所へ来てしまったのかしら」

「闇の精霊が確か……“お前達を試す”とか何とか……」

「ためす?」

「うん、“どんな事があってもケイを集める!”って言ったらそう……」

「じゃあ、進むべきなのかしら」

「だね。でも、どっちに……?」

微かに右は上りで左は下りの一本道。辛うじて見える柱の向こうには、また闇が広がっている。岩でできた回廊に、突然投げ出されたのだから、自分たちが来た方向なんてわからない。とりあえず立ち上がり、傍らに転がっていた荷物を拾い上げる。―――と、


「あっ!?」


ドンッ!と押されてバランスを失ったわたしは、柱に手をついて肩越しに後ろを振り返る。

「な――」

「大丈夫?セリナ」

“何すんの!”って言おうとしたら、ナギは離れた所でキョトンとしていた。

「何って……ナギが押したんじゃないの?」

「あなたが勝手によろめいたのよ」

「?」

どういう事だ?わたしは確かに誰かに押されたのに……。

―――トントン

「―――?」

膝裏を叩かれた。

 人の指先のような感覚。今度こそ、本当に誰も居ないはずなのに……と思いながら足元を見る―――スッと黒い塊が動いた気がした。

「――ん?」

と、柱の向こう側、つまり道の切れ目から何かが見えた。

「ナ、ナギ!ちょっと来て!」

「なあに?」

 膝を付いて下を覗き込む。

 ここが大きな空洞の壁際だという事に気が付いた。岩のスロープは、下に向かって壁伝いに螺旋を描いている。そして、その中心には―――

「あれは……」

「街の光……?」

今はまだ、ほのかに瞬く光の粒にしか見えないが、広範囲に渡るそれは、街の大きさを物語っていた。

「こんな地下に?」

「明かりがあるんだから人もいるんでしょ?行ってみよう!!」


 蛇のような道だ。

 光源もないのに、同じ暗さで周囲の影が動く。

 断続的に続く柱。

 寸分の狂いもなく開けられている間隔。

 足裏に伝わる、ゴツゴツとした岩肌……。

 私たちは周りの闇に呑み込まれないように、強く手を繋いで進んだ。

 指から、掌から互いの温もりが伝わる。たったそれだけの事でも、恐怖や不安が緩和される。

 人工的な光に照らされた、地下の街がかなり細かいところまで見えるようになってきた。

 大きな町だ。

 お椀型に窪んだ地面に沿い、中央に向かってキノコのごとく家が生えている。あれじゃあ、家が傾いてて住めないと思うんだけど……。

 街の中心には高い五角柱の変った塔があった。5面全てに時計があり、針が今の時刻を指している――が、

「何?あれ」

文字盤に数字はなく、かわりに12時の所に太陽が、6時の所に月のマークが描かれていた。今針は、太陽と月の、丁度真ん中をさしている。

「変った塔ね」

「うん」

けれども、ここの人達にとってはこれが普通なんだ。つくづく常識とは何なのか疑いたくなる。

 さらに進んで、やっと街の入り口に着くことができた。―――で、すぐさま第1町人発見!

「あのー」

「――!?何だお前達はっ!?」

一目見て、何故だか拒否られた。素早く後退りして、ジロジロ見られる。

「……?うわぁ〜、ディムロスがいっぱいだぁ」

第一町人の騒ぎを聞きつけて、他の人達が集まってきた。彼らは皆、ディムロスと同じように肌が白く、絳い瞳を持っていた。

「お前達は何者だ?」

「肌の色が違うぞ」

「髪も。見て、あんなに闇色」

「外の奴らじゃないのか?」

「まさか。今までここに来た者はいないわ」




「じゃが、リーズ家の者は地上へ向かった」




 老人特有の渋い声に、辺りが静まった。1人の青年に付き添われて、杖を持ったおじいさんが群集の中から姿を現す。

「リーズ家って……あのリーズ?」

「知っておるのか」

「ええ。あなた方と同じ絳い目をした金髪の方です」

群集の影がどよめいた。

「金髪絳眼はリーズ家の証」

「奴らだ」

「本当に外へ出たのか」

「恐ろしい。罰当たりな」

「バチ当たり?どうして?」

「掟じゃ」

薄暗いためか、町人が1つの塊に見える。モゾモゾと動いて、今にも襲い掛かってきそうな。

「奴らは掟を破った」

「我らが神への侮辱よ!」

「神?」

「そう、我らが神“ハーディス”様だ。神は我々に闇と安息を与えてくださった」

“ハーディス様”?この島の名前と同じ……微妙に違うか?この島には闇の精霊がいる訳だから、彼のことかな?

「その神にお会いになった事はあるのですか?」

「あるとも!!」

何人もの人が力強く頷いた。

「神は時折我々にお顔を拝見させて下さる。そして―――おお!!」

驚きと敬意のさざ波が沸き起こった。人々が次々に(ひざまず)いていく。

「あ」

肩越しに振り返ると、闇の精霊が相変わらずの無表情で立っていた。

「ハーディス様!ハーディス様、どうか我らをお導き下さい!この子らは地上から侵入した様子。我々には判断が付きかねます。ご指示を下され」

長老っぽいおじいさんが代表してお伺いを立てる。なんだか、リーズ家の人達がここから抜け出した理由がわかる気がする。ディムロスの性格が遺伝的なものだとしたら、こんな所、すぐに出たがるはずだ。

「この子供らは……」

崇められる精霊は、口をほとんど動かさずに言葉を発した。町人は一言も聞き漏らすまいと顔を上げ、彼に注目していた。

「アルケモロスとその見届け人。我がワグナー・ケイをとりに来た」

「ルイラート・ケイをですか!?」

驚きと怒りの波が立った。チクチクと、痛い視線が突き刺さる。

「後はお前達に任せる」

言うだけ言ってすぅっと、闇の中へ消えてしまった。途端に、ザッと立ち上がった薄暗がりの塊は、ジリジリと迫る。

「我らが神の所有物を奪いに来たのか!?」

「えっと……」

「私たちは訳あってケイを譲ってもらいに来ました。けれども、決して奪いに来た訳ではありません!!」







「捕らえろ!!」








「「ええ!?」」



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