XII-11白銀の島
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1ヵ月後、やっと傷口も塞がり、自由に動けるようになった。わたしが負った傷は相当深いものだったらしく、こちらの人達と血液が違うこともあって、回復が遅いみたい。けど、生きてる。
「いつでもいい。今日中に1人で俺の所に来てくれないか」
と、ディムロスに呼び出されていたので、ナギがディスティニーの所に避難しているエナさんに話す順番を考えている間に足を運んだ。
―――コッ―――
「っ!!」
ノックした途端に扉が開いたので、危うく叫びそうになった。脅かさないでよと口を尖らせると、そろそろ来る頃だと思って、と声を上げて笑われた。
「それで?溜まった仕事片付けるのに必死なエウノミアル様はわたしに何の御用ですか?」
ソファーに腰掛けて彼の机を見ると、書類の束がうず高く積み上げられていた。
「いや、これは決してやりたくなくて放って置いた訳ではなくて……い、いや、話したいのはそんなことじゃないんだ」
同じソファーの肘置きに軽く座ったディムロスはコホンと咳をして、態度を改めた。
「実は、君が回復するまでの間に、ナギがあの詩の謎を解いてくれてな。もう解読は完了しているんだ」
「本当!?すごいなぁ、ナギ。そういえば、それらしい事はちらほら言ってた気もするけど」
「ああ。それで、次に出てきた問題は、“どうやってそこまで行くか”だ」
「……はぃ?」
話が矛盾してない?光と闇の精霊の事がわかる場所への暗号を解いたんじゃなかったの?
「まあ話を聞いてくれ。ナギは完全に詩を解読した。これだ」
と、彼は一枚の紙切れを手渡した。そこには、
・物知り達が集う場所 → ディムロスさんの書斎
・目に見えない形の無い、自由なもの → 風
・彼らの後を追う → 風上から風下へ
・八つの絳 → 八つの赤い何かを向き合わせる(?)
と、記されていた。
「へぇー、風だったんだ。―――って、これのどこが問題なの?」
「君はどうやって風の後を追って行くつもりだ?」
質問を質問で返された。わたしはしばらく考えてから、
「さらさら軽い砂を高い位置から撒いて、なびいた方に進む?」
「この雪国に軽い乾いた砂があると思うか?」
「じゃあ、指なめてかざしてみるとか」
「今年はいつものように強い風が吹かない。君は微妙な変化を感じ取れるのか?」
「じゃー、薄っぺらい紙でひらひらと……」
「多少は効果があるとはあるだろうが、確立は低そうだな」
「うぅ……。なら……ディムロスって風を操れるんでしょ?ディムロスが案内する!!」
「悪いが、俺が手を貸すと自動的に扉が閉まってしまうらしい。一生開かなくなってもいいというのなら、案内するよ」
「なんで〜ぇ?それじゃあ風の後なんて追えないよぅ」
「その方法を何とか見つけてくれ。ナギからの言付けだ」
「…………」
やられた。
もしかしたらこのためにナギは、エナさんに現状報告をするとか言い出したのかもしれない。
「と、言うわけだ。大いに頭を使って考えてくれ」
「……やっぱこれも手伝ってくれないの?」
「そういう決まりだ」
わたしは部屋から追い出された。
「酷いよナギ〜。1番難しいのをわたしに押し付けて〜!!」
部屋に戻るなり、どうだった?と聞いた彼女は、勝ち誇ったような笑みだった。
「そう怒らないでよセリナ。私はあなたが寝ている間に詩を1人で解いたのよ?これでお相子よ」
「むぅ〜」
返す言葉が無い。もう腹を決めるしかないのかぁ。
諦めて溜息と一緒に肩を落とす。と、わたしのカバンが目に入った。いや、正確にはカバンに括り付けられているモノに、だ。
「これだ―――!!!!」
「え?」
・・・
「ずいぶん早かったな」
追い出されて間もないわたしが書斎に赴くと、書類に埋もれていた彼は本当に驚いた顔をしていた。
「えへへ。考える時間が省けてよかったよ」
「本当。あんな目立つところにあったのに、どうして気が付かなかったのかしら」
「近きはより見えずって言うしな。―――それで本当にいいんだな?」
「「問題なし!」」
「ん。じゃあ夕食後にな」
「って、今からじゃないの!?」
「こちらの都合も考えてくれ」
机の上のものを指した彼に、再度追い出された。




