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XII-10白銀の島

 





  ・・・・・・・・・・変な  ゆ メ


  ・・・?いまのは、夢だったのかな?


  けど、今こうして眼を開けて、さっきとは違う景色を見ていて、体の重みがあるってことは夢だったんだろう。

  それにしても・・・・・ここどこ?

  体はギシギシ軋んで動かせないし、家の天井って、こんなに高かったっけ?



 ―――コンコン…


 誰だろ?


「ディムロス、そろそろ交代せぇへん?このまんまじゃお前さんの方が――!!?」

ツンツク頭が顔を出した。必死でそちらを向こうとしているわたしと眼が合って、面白いぐらいに目が真ん丸になる。

「セ、セリナ嬢ちゃん、目ぇ覚めたんか!――おいディムロス!ディム……ダメか。ナギ嬢ちゃん呼んで来るさかい、ちょお待っとってな」

小さく頷くと、彼はうれしそうにニッコリ笑って部屋を出た。

 そうだ。トルバだ。

 遅れ馳せながらここがディムロスの家だということを思い出し、現実の世界だと確認した。そういえば、トルバが彼に話しかけていたけど……。ゆっくりとトルバが見ていた辺りに目を向ける。体をちょっとでも動かすと、胸の辺りが傷んだ。

「――――・・・」

わたしから見て右に、彼はいた。何か寝言を呟きながら、完全に寝入っている。―――って、あれ?

「―――ロ ス。ディム ロス?」

かすれる声で名前を呼ぶ。こんな所で寝てたら風邪引くのに。

 何度か呼んで、何故かしっかりと握られていた右手をモゾモゾ動かす。と、

「おはよ」

「あぁ、おはよぅ…―――!?」

やっと慣れてきたノドを震わせてあいさつすると、しょぼしょぼしていた目が一気に覚めたみたい。ぎょっとして固まった。

「おはよう」

「……ぁ……」

もう一度言うと、驚きの顔がやっと動いて、複雑な表情になった。

「……手」

しばらく待ってみても何も言わないので、未だに離さない右手の理由を聞こうと目線で示す。彼は慌てて手を離した。

「す、すまない……」

どうして謝るのかわからなくて首を傾け、ずっとそうしていてくれたの?と聞いた。すると、ごにょごにょ肯定の返事が返ってきた。

「ありがと」

「いや、その……」

口ごもるディムロスは視線を漂わせながら言葉を切り―――

「……よかった」

わたしの頬をそっと包んで、ふわりと微笑みながら呟いた。わたしは肌に伝わる温もりを感じ、安堵感が広がった。




 「セリナ!?」




 バーン!と勢いよく扉が開かれ、ナギが飛び込んできた。温もりが、パッと消える。

「セリナ…セリナセリナセリナ!!ああもう!心配したのよ?1週間以上も目を覚まさないんだもの。このまま眠ったままだったら私……私、どうしようかと……」

別の温もりをくれたナギは、寝ているわたしに抱きつくなり泣きじゃくる。ちらりと上に目を向けると、トルバとシビアさん、それにウォルターさんも来てくれていた。けど、いつの間にかディムロスの姿は消えている。

「うん……。ごめんね。もう、大丈夫だから。ほら、そんなに泣かないでよ。目、腫れちゃうよ?」

だって、だってと言いながらナギは、結局ディムロスが呼んできたお医者さんが来るまで離れようとはしなかった。


 「ほームほムほムほム。まさに奇跡じゃ。多少熱はあるが、この分なら順調に回復するじゃろう。えがったなあ、お嬢さん。あんたぁ、生死の境まで行っていたのじゃよ?」

お医者さんは脈や熱を測りながら、人懐っこい笑顔を絶やさず話す。

「うん、行ってたね」

「えっ……。ちょ、ちょっと待ってセリナ。それって……その、冗談よね?」

頭を動かすと、少々狼狽(うろた)えたナギが、顔色を窺うように覗き込んでいる。今、この部屋にはわたしとナギとお医者さんだけだ。トルバとディムロスは追い出され、ウォルターさんとシビアさんは何かと忙しくていない。

「本当のことだけど?」

お医者さんが帰った後、入れ替わりに入ってきたディムロスとナギにあの不思議な夢の話をした。

「“名も無き神”のようだな」

ポツリと物知りさんが口を出した。どういう神様なの?と聞く。そう言えば、お祝いの時にも聞いた名前だ。

「精霊や様々な神を統べる者だ。君が言ったように、姿がなく光に包まれているという話だ。様々な呼び名があるようだが、それは全て彼の姿を現すもので、結局“名も無き神”と集約されている」

「神様の神、と言うことですか?」

「それに近い。何者にも支配されず、何者にも侵されない存在だ」

「ふぅん……。って、それ、誰に聞いたの?」

彼は何故か困惑した。

「書物でなんだが……誰が書いたのか不明なんだ。いつ頃なのかも……。それに、どうやらこの本を持っているのはリーズ家だけらしい」

「では、ディムロスさんのご血縁のどなたかでは?」

その可能性もあるが……と、ディムロスは納得のいかない様子だ。

「違うの?」

「この家の者なら、自分が書いたと自己主張するはずだ。確かに秘密主義的な面は遺伝のように受け継がれているが、外に漏れても構わない事に対しては比較的主張する者が多い。それに――」

言葉を切る。自身もその問いの答えを見つけようとしているらしく、頭の中でいろいろ考えながら、口ではこう告げた。

「歴代のエウノミアルの筆跡と照らし合わせても、どれ一つとして同じものが無い。使われている用紙ににしても、用いた用具にしても、この世に存在するものではないんだ」



『様々な、ありとあらゆる物質と照らし合わせてみたが、どれ1つとして同じものはなかった』



そんな言葉がふっと浮かんできた。誰かがそう言っていた気がする。誰だっけ?

ナギとディムロスが夕食で席を外した後も記憶を辿ってみたが、結局思い出すことはできなかった。



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