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XII-8白銀の島

 あらかた落ち着いて、セリナ嬢ちゃんの治療も終わった頃、ディムロスが相変わらずの無表情で嬢ちゃんが眠る部屋に来た。

「彼女は……?」

かすれる声でワイに聞く。嬢ちゃんを一瞥したその一瞬、酷く痛々しくなるような悲しい表情が見えた。

「奇跡的に急所は外れとったけど、致命傷には変りないて。いつ目ぇ覚ますかわからんし……。ワイらの血液とは違うらしいから、効くかはわからんけど増血剤打ったって。容体が変るようならすぐ呼べと。隣で休んどる」

「……ナギは?」

「ごっつう取り乱しててな、あんまり落ち着かんもんやから、さっき鎮痛剤打ってもろうて…。今は部屋で寝とる」

「そうか」

ディムロスはそれだけ言うと、寝台ン所に椅子を持ってきて座った。そのままじっとセリナ嬢ちゃんの顔を見つめて黙り込む。その手は、血管から栄養を送り込むために出されとる嬢ちゃんの右手を、固く握りしめていた。

「……そいやあ、カデナ。どうしたん?」

こいつが連れてったはずなのに、あれからずっと姿を見とらん。連れてかれる時のあいつの顔も気になったし…。

「思った、通りだった」

「は?」

「バタムラバと手を組んでいたのは予想外だったが、彼女は内通者だ。この家の構造を細かく調査し、警報装置の仕組みも知らせていたらしい。誰が各地の牢を開けさせ、犯罪者を使い、彼女らを襲わせたのかも……」

「アイツが!?吐いたんか?誰、なんや?」

「××××」

「――!?ち、ちょお待てやまさか、そんなこと・・・う、嘘やろ?だって、そいつ・・・・・・」

「カデナは嘘をついていなかった」

「せやかて・・・・・・」

エウノミアルの協力者であるカデナが裏切った事でさえビックリなのに、さらに衝撃的な事実や。――ん?待てよ?アフェクはディムロスが選んできた協力者やけど、カデナはいつの間にかアフェクにくっついとって、んでなんか知らん内に協力者っつうことになっとったんや!ディムロスは何も言わんかったけど、その分あんまし信用しとらん節があった。まさか、最初から――

「カデナは、おそらくこの家と財産が欲しかったのだろう。黒幕は、私がこの職に就いていることが気に入らなかったのではないか?よくあることだ・・・・・・」

言ったきり、こいつはもう何聞いても答えんかった。ワイは仕方なく、部屋を後にした。


○○○


 あれから3日経った。

 まだセリナは目を覚まさない。

「ディムロスさん、お食事お持ちしましたけど・・・・・・」

控えめに開かれた扉から、ナギが気遣わしげに軽食を持ってきた。

「いらない」

食欲などない。

 今、誰が何を与えてくれようとも、おそらく全ていらないと言うだろう。俺が望んでいるのはただひとつ。

「まだ、目覚めませんか・・・・・・」

「あぁ」

ナギの声は震えていた。彼女はここに来るたびに涙を流す。なのに、来ることをやめない。

「少しは食べて下さいね」

今朝の分が手付かずなのを見かねて、ため息交じりに呟いた。ナギも似たようなものだろうに・・・・・・。

 食事を入れ替えると、ナギは逃げるように部屋を後にした。


 夜、またトルバが様子を見に来た。アフェクは帰ったらしい。カデナはあの日、2度と来るなと外へ放り出したので、そろそろ港に着いているだろう。トルバにも帰りたければ帰ってもいいと言うと、もう少し居させてくれと椅子を引いて斜め後ろに座った。

「・・・・・・なあ、ディムロス」

しばしの沈黙の後、兄弟子は口を開いた。特別な仕事以外、こいつが口を閉じていられる時間は少ない。

「あんまし思い詰めんなや?」

「そんなつもりはない」

「この状況でよう否定できるなぁ。なあ、ディムロス。あんまり言いとうないんやけどな・・・・・・」

「彼女は助かる」

「せやけどな・・・・・・」

「まだ・・・・・・まだ、手は暖かい」

包んでいた手を、さらに強く握り締める。実際、顔色はひどく悪いわけではない。

「せやけど、物事は素直に受け取らなあかんで?」

「誰が!俺は今までずっと自分を信じてきた。物事は何でも疑ってきたんだ。誰が・・・・・・あきらめるものか!セリナはまだ助かるんだ」

「そう言える根拠はなんや?お前の勘か?それとも、ただの願いか?」

「貴様っ!!」

「現実見いや。目の前で人死ぬん見るの、初めてやないやろ?」

「黙れ!そんなこと・・・・・・そんな事ぐらいわかってる。だが、まだセリナは生きているんだ。セリナは・・・・・・」

「・・・・・・体、壊さんといてな?」

トルバは俺の肩を叩き、踵を返した。

 ゆっくりと扉が開かれた後、しばらくしてそっと閉じられた。

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