XII-6白銀の島
わたしは2人の凶賊の手から、雪に足を取られながらも逃げ回っていた。リビールの言葉を聞く限り、わたしとナギが殺される心配はないようだけど、捕まってしまっては意味がない。
「嬢ちゃん、加勢に来たで!!」
トルバがノルマを果たしてこっちに来てくれた。逃げるので精一杯なわたしは、ナギの安否を確認することはできない。けれども、彼が来たってことは大丈夫なのかな?
と、突然後ろで1人が倒れた。その背中には変な形の手裏剣が突き刺さっている。毒でも塗ってあるのか、その人は生きているものの、動けなくなったようだ。
「ありがとトルバ!わたしは大丈夫だから他の人を!」
1人だけなら、何とかなるかもしれない。
にじり寄っていた男の足が速度を増す。わたしも背を向け、改めて逃げ出す。
何かいい方法は――。
ふと、たくさんの足で踏み固められた雪の上に、誰かの剣の鞘が落ちているのを見つけた。ディムロスのじゃないな、と通りざま拾い、ついでにすっ転んだ。
「そろそろあきらめろよ」
男がイラついた表情で、雪に人型を作ったわたしに手を伸ばし―――
―――ゴッ
―――小気味いい音がした。
拾ったばかりの鞘で、男の顔面を横様に殴ったのだ。鈍い衝撃が手に伝わってきて、男はうげっと悲鳴を上げながらよろめく。片目と鼻に当たったようだ。そして追い討ちをかけるように、間を置かずに鳩尾へ一撃を放った。
肩で息をしながら、やっと気を失ってくれた男を見下ろして、鞘を握りしめたままの右手を見る。嫌な感触が、残っている。・・・・・・他の人は大丈夫だろうか。
「ひっひいィ!!」
引きつった悲鳴に、顔を向けた。アフェクが声と同様に引きつった顔で尻餅をついていた。命乞いをしているようだけど、声が裏返っているし、もともと高い声だから何て言っているのかはわからない。
反り返った剣を持つ男は、目だけを異様に光らせて、心底面白そうにアフェクを追い詰めていく。
背中が柵に当たって、青ざめていた顔がさらに絶望の色に染まった。
侵入者は大きく、アフェクに見せ付けるように刀を振りかざす。
もはや逃げる気力すら失った彼は顔を引きつらせ、ただただ目の前にいる死神を見上げた。
――――わたしは・・・見ているだけ?
カチッ
何かがはまった気がした。
周囲から音が掻き消える。
全ての動きがスローモーションになる。
視界は急激に狭くなり、前しか見えない。
そして―――
ドンッと、何かがぶつかった衝撃が体を揺らして、一瞬だけ音が戻って―――
全てが、視界に広がる闇と共に消滅した。




