表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/110

XII-2白銀の島






 「「ウェーア」さん!?」

「ディムロス様!!」









・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?


「「「え??」」」



 3人がそれぞれ叫んだ後、相手の言った言葉に疑問の声を上げた。

 わたしとナギが言ったのは“ウェーア”。

 おばさんが言ったのは“ディムロス様”。

 けれども、私たちの目の前に現れたのは、金髪絳眼の“彼”だった。


「意外と遅かったな。もう少し早く着くと思っていたんだが…。まあいい、上がってくれ。――シビア、俺の個人的な客人だ。案内を」

“彼”は何事もなかったかのように私たちに微笑みかけ、腰に吊った長剣を揺らして中へと誘う。が、

「ディムロス様!!どう言う事でございますかその格好はっ!!今までお仕事をなされていたのでは!?またこっそり抜け出して別館の方へいらしていたのですね?先程お呼びしてもお返事がなかったのは、お仕事に熱中されていた訳ではなかったのですか!ああ…感心していたわたくしが馬鹿でございました!せっかくお仕事の邪魔をしてはならないと―――」

「あぁ、わかったわかった。俺が悪かった。少し運動したくなったものだから…。たまには息抜きも必要だろう?――ああ、振ってきたな。早く入ろう」

嘆くシビアさんを耳栓していた彼が(なだ)めて、白の横切る中、唖然としている私たちを招き入れた。

「ディムロス様、先程からシャルナーゼ夫人とヴェルウィーズ氏がお待ちになられておりますよ」

大きな玄関をくぐり終えると、シビアさんは最初よりも柔らかな口調で伝えた。

「あいつらが…?わかった。飲み物と、何かつまめる物を用意しておいてくれ」

「かしこまりました」

ウェーア―――もとい、ディムロスは嫌そうな顔をして奥へと姿を消した。そちらとは別の方向に私たちは案内されて、愚痴を吐き出すシビアさんにこの部屋で待つようにと置いていかれた。戸惑いながらも扉を開けると、


「――おう、ディム……なんや、ちゃうやんけ。――ん?嬢ちゃんら、もしかしてアイツの“知り合い”か?」


中には、ツンツク頭で色黒・長身のおじさんがいた。30ぐらいかな?訛りからすると、エバパレイトの人っぽい。

「ええ、そうと言えばそうですが…。あの、あなたは…?」

「ワイは―――」

「トルバ・ウィザード。私のボンクラ兄弟子だ」

ツンツクおじさんを遮って、後ろのドアから現れたディムロスが紹介してくれた。

「なっ!ボンクラって何や、ボンクラって!!それが年上に対する態度か!?こいつひでーんやで?人が面倒見てやっ―――」

「紹介しよう。私の協力者で、アフェク・ヴェルウィーズ。それと、カデナ・シャルナーゼだ。こちらはエバパレイトへ行く途中で会った――」

「ナギです」

「えっと、セリナです。よろしく」

私たちはエウノミアルの後ろにいた、淡い紫のオカッパ頭の男性と、軽くウエーヴのかかった長い緑髪の女性にあいさつした。と、

「ちょお待てや!何故に無視するん!?」

「貴様は黙っていろ」

「なっ!?きっ…!黙れって、ちと酷すぎるんとちゃうか!?ワイはなぁ、これが取り得でこれのおかげできゃーわいい奥さんと――」

「あぁ、そうだ。信じられないだろうが、彼はソイルで世話になったアシュレイの夫なんだ」

「ええ!?あのアシュレイさんの?」

「なんや。おうたことあるんか、譲ちゃん達」

「いつもの所でお前がしょぼくれている時だ」

「誰がいつしょぼくれとった!!」

怒りの声と共に、銀の閃光がわたしの頭上を通過する。

「9月18日。貴様がだ」

銀の線は真っ直ぐにディムロス目掛けて飛んでいき、たったの2本の指でそれ以上進むことを止めさせられていた。

「相も変わらずお前の初撃はお粗末だな」

ディムロスは人差し指と中指で捕らえたナイフをひらひらさせ、相手を挑発する。

「うるせー黙っとれ!わざわざ手ぇ抜いてやっとるのがわからんのか!?」

「余計なお世話だ。ああ、そう言えば負ける時はいつも手を抜いてやったのだと言い訳していたな」

「言い訳やない!!」

「では、本気とやらを見せてもらおうか」

「後悔しても知らへんで!!」

突如、トルバの姿が消えた―――と思ったら、彼はディムロスの足元に、踵で彼のあごを狙う体勢で現れる。

 ディムロスが高くバク宙し、着地する所をすかさずトルバが足払いをかける。が、それは先ほど自らが投げたナイフによって阻まれた。トルバは刃を、片腕を支点に回転して躱す。次いで飛び起き、ディムロスをドアに叩き付けた。

「どぉや、ワイの本気は」

ディムロスの首筋に、柄の部分が輪になった手裏剣(?)を突き付けて、誇らしげに笑いながら無表情の彼を見下ろす。

「貴様の本気はこの程度か。で?これはどう説明するつもりだ?」

見上げる彼は冷静に、心臓の位置に突き立てられた長剣を視線で示す。

「首を切る方が速いやろ」

「貴様こそ、逃れられまい。―-――何なら、試してみるか?」

「え〜度胸やないか」

なんだか、内容だけ聞いていると物騒だけれども、それを除いてしまえばただの子供の喧嘩だ。ウェーアの時よりもずっと大人っぽいディムロスも、やっぱりまだまだ遊び盛りなのかな?―――と、

「喧嘩は止し給え。僕の美しいディムロス君の肌にそれ以上傷を付けて欲しくないよ。なあ、カデナ?」

「そうですわ、トルバ。わたくしのディムロスちゃんに傷を付けないで下さいませ。こんなにも綺麗なお顔をしているのですもの。もったいないですわ。ねえ、ディムロスちゃん?」

おかっぱ頭と緑の髪の女の人が間に入って止めて…くれたって言えるのかな?これ。

「(誰が貴様らのだ)……なぜあなた方がわざわざ尋ねてこられたのかは知らないが―――」

トルバが突然息を詰まらせて崩れ落ちた。ディムロスの膝が、鳩尾(みぞおち)に入ったみたい。

「――茶でも飲みながら話を聞こうか」

「お茶をお持ちいたしました」

軽いノックの後、白髪雑じりの髪を後ろで括った眼鏡のおじさんが現れた。


 ミルクティーのような濃厚な飲み物がそれぞれの前に置かれ、おいしそうな香りを漂わせるサイコロ形のお菓子も次々に並べられていく。

「ウォルター、そいつにはやらなくていい」

ウォルターと呼ばれた眼鏡なおじさんは、淀みなく動いていた手をトルバの前で止めた。

「おやおや、また喧嘩ですかな?」

「何や、ワイに負けた腹いせか?大人気ないなあ」

「負けたのは貴様の方だろう。それは下げていい」

ディムロスの口調は冷たかったけれど、キツイ感じはしなかった。ウォルターさんが困ったように溜め息を吐くと、

「ようこんなワガママな主人で我慢しとるなァ、ウォルターはん」

トルバが勝手に執事さんの手からカップとお菓子を取っていった。


「そういえば、この頃動いていなかったから下っ腹が出てきたそうだな、ウィザード」


 危うく噴き出しそうになった。ゲホゲホむせながらちらりと横を見ると、ディムロスは涼しい顔で口元に運んだカップの中身を嚥下している。わたしの視線に気付いたのか、ちらりと微笑んだ。

「なっなな何言っとんねん!ワイの腹は鋼鉄の鉄っ腹や!そっ、それに、動いてない言うたらお前さんの方が椅子に座りっぱなしやないか!!」

あぁ、図星なんだ……。トルバは顔を真っ赤にして、楽しそうにあるかなしかの微笑を浮かべる彼を指差した。

「頭を使っていると太らないんだ。知らなかったのか?」

カップから顔を上げて、口の端を吊り上げる。今度はからかうような笑みだ。

「なんやと〜!?ワイがバカや言いたいんか!」

「そう言っているのだが?」

また一騒動起こりそう。さっきやったばかりなのに…。

「も〜、人からかって楽しむの止めなよウェー…ディムロスさん。ウォルターさんがかわいそうだよ」

「「………………」」

四角いお菓子を口に放り込む。あっ、このお菓子口の中ですっと溶けておいしい。

「・・・あ、あれ?ちょお待ってや。かわいそうなん、ワイやないの?」

「え?何で?」

喧嘩のとばっちりを受けて一番困っているのはウォルターさんなのに、彼はどうして自分がかわいそうだと言うんだろう?

 ふと気付くと、ナギとウォルターさんは苦笑いをしていて、カデナとおかっぱは反応に困ったように顔を引きつらせていた。隣に座るディムロスは顔を背けて肩を震わせていた。わたし、何か変なこと言った?」

「ま、セリナに感謝するんだな、ウィザード。―――さて、そろそろ本題に入ろうか。ヴェルウィーユ、シャルナーゼ」

おかっぱアフェクとカデナは居ずまいを正すと、

「けれどもよろしいんですの?この子達、誰かに告げ口するかもしれませんわよ」

カデナが怪しげな笑みを浮かべ、わたしとナギに侮蔑の視線を投げかける。何かムカつくけど、大切なお話が始まるのなら私たちは退散した方がいいかもしれない。どうする?とナギに目配せすると、

「彼女達はそんなことをしない」

キッパリと、断言する声が聞かれた。

「おや、ずいぶんと信用を置いているようだね。たかが数ヶ月一緒にいただけなんだろう?」

おかっぱは流し目で値踏みでもするように私たちを眺める。ってか、キモイ。

「信用できるできないは私なりに見定めているつもりだ。彼女達は素性を明かさない私を信用してくれた。2人は信頼できるし、告げ口などする必要性がない」

なんだか、ここまでハッキリ言われると、嬉しい反面恥ずかしい。ナギも赤くなってモジモジしていた。

 アフェクは“いいでしょう”と肩をすくめると、集めてきたらしい情報を彼に伝えだした。

 それは主に世界的な異常気象・現象、犯罪者の動向などの報告だった。地震・津波を始め、豪雨、急激気温の変化、砂漠化、温暖・寒冷化。あと、盗賊・海賊の急増、動物・昆虫の凶暴化なども見られるそうだ。

「詳細はこちらに」

カデナが分厚い書類を渡す。ディムロスはそれにざっと目を通しながら、

「ソイルの砂漠化はもういいだろう。ウィザード、あと1・2年たてば元に戻ると伝えておけ。それまで持ち堪えさせるようにもな。賊や犯罪者は牢番の警護を強化――いや、そうだな…目撃情報を集めて顔絵を描いてもらえ。それを町人に配って顔を覚えてもらうんだ。そうすれば牢番人の目の届かない所でも発見できるだろう。町人の協力を仰いでくれ。――ザザンザ湖の汚染、か。原因がわからない以上対策の目処が立たない。周辺の町も含めて調査を急がせてくれ。どんな些細な変化も見逃すな」

と、次々に指示を飛ばしていく。わたしとナギは黙って座っていたけれど、これは居ても居なくても同じじゃないかなぁ…。

 ディムロスの話し方はハキハキしていて、人をひきつける感じがあるから眠くはならないけれど。

 話を聞いていると、この世界的な異状はここ半年で急に出てきたのもらしい。半年前って言うと…ああ、そっか。わたしとナギが旅に出てからもう半年経ってたのか。と、いうことは、もしかしたらこの異状はわたしがこちらに来てしまった影響かもしれない。なんだか…いままで自覚がなかったと言う訳ではないけれど、改めてわたしは危機感を覚えた。

「そういえば……ウィザード。前に、ちぐはぐな3人組の小悪党を捕らえたと言っていたな。出牢したのか?」

「あ?まだ入っとるはずやけど?」

トルバは口をモグモグさせながら答えた。この中で緊張感を感じていないのは彼だけだ。

「そのちぐはぐって…砂漠(ナシブ)で遭ったあの黄色いのとかの?」

「そうだ。このところ、脱牢している者が目立つ。この島ではまだ一度もないが……。確か、レイタム・エバパレイト・レジン・ミアル・テンペレット…ああ、ラービニでも2件あったらしい」

「まあ!どなたなのかご存知ですか?」

ナギが尋ねると、ディムロスはしばらく記憶の海に飛び込んでいき、

「何て言ったかな…1人はあのユーンなんだが…」

あいつ…脱牢したんだ…。

「ああ、ダーユ…だったかな。つい最近捕まったコーダの弟の」

「「えぇっ!?」」

なんであんな危険人物を逃がしちゃったの!

「?知っているのか?」

「ええ、まあ…。アレを狙っていた方です。“あのお方”に渡すのだと喚いていました」

「“あのお方”?」

そういえば…今思い返してみるとケイを狙ってくる奴らは大体皆そう言っていた気がする。

「やっぱりさ、あいつら仲間なのかな?ガドガんとこの副船長とか」

「ええ、レジンの人形遣いさんとか、ミアルのラヌシーさん、パーラさんもそうでしょうね」

「ちょっと待て。何の話なのか全くわからないのだが」

「レーミルはどうなんだろ?あいつは自分のためにって感じだったね。関係ないのかな?」

「でも、“気の良い友達がたくさんいる”と言っていたじゃない。同じ情報を持っていたのだし、無関係とは言い切れないわ」

「お2人で考え中のところ悪いんだが、私にもわかるように説明してくれないか?」

困惑する彼に、テンペレットからの話をした。もちろん、他の人にケイのことはわからないように。

「アレを狙ってか…。確実に黒幕がいるな。その、他の者とは違っていたレーミルとか言う者はどんな奴だ?」

問われて、私たちは仕草や動作、印象などをできるだけ詳しく伝えた。すると、

「…レーシェルミルド…」

「え?」

「シャルナーゼ、2人の言う“レーミル”という人物と、あまりにも似通っていないか」

話し終えると俯いていた彼は急に顔を上げ、黄色の瞳と目を合わせた。カデナはふと目線を外し、

「確かに、似ているようですわね。けれども、わたくしの知っているレーシェルミルド様はそのように感情を出し、あまつさえ自ら手を出すような事をするお方ではありませんわ」

すっと、ディムロスに向き直りそう言った。彼は、“そうか”と言うだけだった。

「誰なの?そのレー……なんとかって言う人」

「レーシェルミルド。テンペレットのエウノミアルだ。私より何年か後にこの仕事に就いたのだが、なかなか頭の切れる男で…何故か私を嫌っている」

ディムロスはウェーアの時と同じ表情で、困ったと溜め息を付いた。

「おや。前に一度あった時、すごく仲が良さそうだったと、僕は聞いていたけれど?」

「傍目からはそう見えたかもしれないな。ま、この話はこの辺りで切りにしておこう。セリナ、ナギ、夕食後にでもまた聞かせてくれるか?」

「はい、喜んで」

「ありがとう。さて、私はそろそろ仕事を―――ウィザード!」

いつの間にかうたた寝していたトルバは、彼の一喝で飛び起こされた。

「何か聞きたいことがあればこいつに聞いてくれ。遊び相手にしてやるとこいつも喜ぶ。――トルバは信用できるから大丈夫だが、他の2人にアレのことは言うなよ?」

後の方はこっそり耳打ちした。わたしは、起きたもののぼーっと宙を見つめているトルバを見て心配になった。

「ウォルター、彼女達を部屋に案内してくれ。あなた達は…まあいつも通り勝手に選んでくれて構わない。くどいようだが、くれぐれも2階の部屋だけは選ばないよう。――じゃあ、また後でな」

彼はさっと立ち上がると、わたしの頭をポンと叩いて仕事部屋へ向かった。続いてアフェクとカデナもベチャクチャ喋りながら席を立つ。残った私たちは、トルバと一緒にウォルターさんに付いて行った。


「ねえ、ディムロス…サンって、いつもあんな感じなの?私たち、旅でのディムロスサンしか知らないからさ…」

道すがら、執事さんに尋ねた。

「大体あんなもんやなぁ。譲ちゃん達の前でどんだけ地ぃ出しとったか知らんけど、結構印象ちゃうやろ」

なぜかトルバが答えた。今まで寝ていた分の挽回(ばんかい)かな?

「そうなの?」

いつも1番近くにいるであろうウォルターさんの意見がどうしても聞きたくて、先導するおじさんを見上げる。彼は深みのあるグレーの瞳に優しい光を湛えて微笑み、

「ええ、そうでございます。ディムロス様は幼少の頃から勉強熱心で、よくイタズラもされておりました。それは今でもお変わりありません。ただ、この頃のディムロス様は少々……。よくボーっとされることが増えておりました」

「ふうん?あれかな。世界中で起こってる異状に頭、悩ませてるのかな」

「ええ、まあ……それもあるのでございましょう」

曖昧(あいまい)に頷いたウォルターさんは1つのドアを開けた。

「こちらのお部屋をご自由にお使い下さい。夕食のお時間になりましたらお伺いさせていただきます。それまで、家の中を探険されてもかまいませんよ。――それでは、また後ほど…」

丁寧にお辞儀して、執事さんは歩み去った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ