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XI-5高く古きものの島

○○○


 数日後。

 コダマに連れられて歩き回った私たちは、やっとのことで森を抜けることができた。

 ゆっくりと薄れていったコダマと別れ、光の下へ飛び出す。太陽の光をさんさんと浴びた砂浜はきらきらと輝き、海上には何隻かの舟がある。漁船のようだが、人影は見られない。

 高い陽の光を存分に浴びながら、ゆっくりと波打ち際を歩いた。ひどく久し振りに静かな心休まる時間に出会えた気がする。

 2人の間に会話は無かったけれども、ナギは穏やかな表情をしていた。きっと、わたしもそうなんだろう。


 しばらくすると、小さな集落が見えてきた。人間のシルエットもちらほら見受けられる。

「すみませーん」

せっせと大きな網を修繕していたおばさんに声を掛けた。おばさんは驚いてピタリと手を止め、まじまじと見つめてくる。

「私たち宿を探しているのですが、どこか安くて良い宿はないでしょうか?」

「あんたら、どっから来ただん?」

ナギの質問はそっちのけで、目をまんまるにして逆に尋ねてきた。

「えっと…ディバインのラービニから…」

「違う違う。あたンしが言いたいのは、どこを抜けてここまで来たってことだに。どこで舟降りたン?あんたらが来た方にゃ、船着場なん、ありゃせんに」

おばさんの表情が、徐々に変わっていく。驚きから、見てはいけないものを見てしまった恐怖・畏怖に。

「ええと…」

「森からかね。黒森から来たンかね」

戸惑っていると、おばさんは追い討ちをかけるように重ねて聞く。

 ウグトの森は確かに濃い木肌をしていた。たぶん、それを“黒”と言っているんだろう。そう思って頷くと、おばさんは飛び上がって、

「ちょっとぉ、あんたら〜!来んしゃい!早く、早く来りんてばっ!!」

点々と離れた所で仕事をしていたおじさん、おばさんが呼び声に集まって、あっという間に人だかりの完成だ。

「どーしただァ、トメさん」

「この子達が何かしたンか?」

「旅の子か?どっから来た?」

「あ―――」

「黒森抜けて来たって言ってンだよぅ、この子達はっ!あたしゃ、おそんがくておそんがくて…」*怖くて怖くて

「なんとまァ!黒森から!?こンりゃーいかん。あいつ呼べあいつ呼べ!!」

彼らはものすごいスピードと音量で喋るものだから、私たちが口を挟む余裕がない。今、事情を説明するのは無理そうだ。

「お・おーぃ!おぉーぃ!!ラーズローぉ!しーごとじゃ仕事―!!早よう来りん!!」

そうこうしている内に、スピーカ内蔵してるんですか?ってぐらい馬鹿でかい声のおじさんに応えて、遠くの方から返事があった。

「ちゃーんとやってるよーぉ!!」

「バーカ!本業じゃ本業!!さっさと来ンしゃい!!」

「……あ、あのう……」

「話したいことがあるんだろ?そりゃ、全部あいつに話しン。わしらは聞けん事になっとるで」

恐るおそるなナギに、1人のおじさんが優しく教えてくれた。

「なんでおじさん達は私たちの話を聞けないの?」

「おめーさんらー、アルケモロスじゃろ?」

「ここんとこ、なんかおかしいって思っとったがなァ…」

「言い伝え通りだねぇ」

「語り継がれてきたおかげで、わしらは命拾いするんじゃよ」

「年寄りの言葉は、馬鹿にするモンじゃねえなあ」

「んだんだ」

猟師さん達は言いたいことだけ言って、去っていった。入れ替わりに、三十代中ほどのおじさんがこちらへ向かってくる。

「ちわ」

背の高いおじさんが軽く手を上げて挨拶してきたので、私たちも返した。

「あの、あなたは…?」

「俺ァラズロってんだ。よろしく。おっちゃん達から話は聞いたぜ。黒森、抜けて来たんだって?」

「そう、だけど…いけないことだった?」

「いいや。悪いことじゃねえんだ。むしろ良い事?――で、さ。森ン中で誰かっつうか、何かに会ったよな?」

質問…と言うより、確認作業のようだ。この人、何かを知ってる。

「なぜそう思われるのですか?」

ナギが訝しげに聞き返した。ま、あれだけ危ない目に遭ってきたんだから、警戒心は湧きやすい。けれども彼は、そんな事にはお構いなしで、さらに問い詰める。

「そいつに何か言われなかったか?言伝みてーな、さァ」

「なぜ、そう思われるのですか?先に答えて下さい」

あ〜…ナギさんちょいとキレ気味です。眉間にしわ寄せて、ムッとした顔でラズロを見上げてます。

「あーワリイ。先に話してくれないか?後でちゃんと説明すっからさァ」

彼は愛想のいい笑顔でナギの頭をぐしゃぐしゃにかき回す。すると、彼女はそっぽを向いてしまった。

「(あ〜ぁ…)言伝ならもらってるよ。ラズロはあの森に神様がいること、知ってるんだね?」

勝手に答えたから怒られるかな?って思ったんだけど、予想外にもナギは()ねているだけだった。

「おう。昔っからそういう話があるからな。それで…なんて言ってた?」

「えっとね…“人間が生きるために木も必要だという事はわかる。だが、我々が苦しんでいるのも事実だ。我々から奪った分、何らかの形で返して欲しい”って。やたらに森林伐採してるって怒ってたよ」

「あぁ。皆どうしちまったのか知ンねーけどさ、この頃利潤のことばかり考えて昔の教えを忘れちまってるみてーなんだ。うん。ちゃんと他の仲間にも伝えて対策立ててもらうからな。あンがとな。――しっかし、アルケモロスねえ…。ただの昔話だと思ってたぜ」

ラズロは無精ヒゲをさすりながら、うんうん頷く。

「ねぇ、ちゃんと説明してくれるんでしょ?このままじゃ、ナギむくれたままだよ?」

「セリナ!」

ずうずうしいと叱られた。話してくれないと怒るくせに……。

「わははははっ!おう、そいつぁー悪かった悪かった。えーっと……なにから話しゃいいンかな……」

「あ、あの…質問してもよろしいでしょうか?」

「おう!何だ?」

「先ほどの方達もおっしゃっていらした言い伝えとは、どのようなものなのですか?それとアルケモロスを知っていらっしゃるのは、関係があるのですか?」

彼女の切り替えは早い。挑みかかるように長身の、紺色の頭を見上げる。対する相手は人懐っこい笑みを浮かべながら答えた。

「そうだなァ。簡単に言っちまうと……森に大きな変化が現れる頃、アルケモロスっちゅーヤツが来て、誰も通り抜けたことのねェ黒森を抜けてくるんだ。んで、そいつは木の神から俺ら人間への伝言を頼まれてて、それをいっち番最初にエウノミアルに伝えなきゃいけねーンだと。そうしねーと、俺らにも他の島の連中にも災いが降りかかるンだとよ」

「エウノミアル……」

...って、なんだっけ?

「まあ!で、ではあなたはこの島の――」

「おう!キーリスのエウノミアル、ラズロ・アレクサンダーとは俺のことよ!!」

キョトンとしたわたしに対し、ナギは驚愕してオロオロ慌てだした。ラズロは豪快に笑いながら、“気にしない、気にしない”と非礼を詫びるナギの頭をぐしゃぐしゃなでる。

「ふうん…。エウノミアルって、偉い人なんでしょ?なんか…あんまりそうは見えないね」

「セ、セリナ!?」

「わははははっ!!正直者だなァ嬢ちゃんは!そりゃそうだ。俺、もともと漁師の息子で、今だって皆に混ざってそっちの仕事もしてんだ。じーさま連中にゃぁ、まだまだ子供扱いされてるんだぜ?偉い人の貫禄があるエウノミアルなんか、2・3人だぜ。堅っ苦しい性格のヤツとか、代々続いてるリーズ家とかよ」

「ウィズダムのリーズさんにお会いしたことが……?」

「おう。有名だかンなー、あいつ。最年少にしてエウノミアルの座に就き、その功績は数知れず。加えて人望も厚いときた。俺なんか敵わねーよ」

「へぇ。すごいんだ?」

こちらにきて間もないわたしには、“エウノミアル”がどれだけ偉いのか、いまいち掴めない。かなり前にナギから聞いた話だと、この世界には七人のエウノミアルがいる。リーズと言う人はその中の1人だ。王様とは違った存在で、友達の中のリーダー格みたいな?人々の意見を聞いて、最良の方法や道を選ぶらしい。七大賢人みたいだね。

「まあ、そうなんだけどな……俺から見りゃ悲惨な人生だよ。あいつがエウノミアルになったのは、両親が殺されて1年ぐらい経った後なんだ。当時まだ12歳でだぜ?それからずーっと仕事に縛られてんだ。ま、ちゃっかり抜け出してどっか行ったりしるみてーだけど…。それでも、俺だったらあそこまで立ち直れねーだろうし、12でいきなり選ばれたら逃げるぜ?」

ラズロは同業者を労うように、同情するようにしみじみと頷いた。たぶん、彼らの苦しみは彼らが1番理解できるのだろう。

「……強いんだね」

「まー…そう、見えるわな。俺にはめっちゃ無理してるようにしか見えねーンだわ。長い付き合いだけど、しょっちゅう会ってる訳じゃねェからなー。本当はどうだかわかんねーけど」

「そう、なのですか。それであの……もうひとつお伺いしたい事があるのですか」

ラズロが先を促し、続けた。

「ここからウィズダムへ行く船はいつ頃着きますでしょうか」

「あー。小せぇ島だかンなァ。あと…4・5日待ちゃあ来ンだろ。―――急いでンのか?」

「う〜ん…とりあえず休憩してから、行けるモンなら行きたいなー」

今はとにかく疲れてる。早く行きたいのはやまやまだけど、体力が持ちそうにない。黒森の霧のせいでろくに休めなかった私たちは、精神的にも削られていた。

「なら、俺が乗せてってやろうか?狭っ苦しい舟でよけりゃ」

「ええ!?で、ですが…そんな……」

わざわざエウノミアルが送ってってくれるなんて。

「遠慮しなくていいって。どっちにしろ俺が世話するんだし」

「なんで?他の人は?」

「漁師町みたいなもんだかンなァ。お前ら2人をもてなすような家は俺ン家ぐらいしかねぇんだよ。住民は朝早くからずーっと海に出ちまうような奴ばっかだし」

「ふうん。けど、仕事はいいの?忙しくないの?」

首を傾けると、彼はもったいぶった口調で喋りだした。

「そう、問題はそこなンだよ。もちろん俺はメッチャ忙しい。机の上は書類の山だ」

「でしたら――」

「まァまァ、最後まで聞きなって。大半のエウノミアルはこういう用事――実際のところ重要なんだけど――は他の奴に言いつけて、仕事に専念すンだろう。けど、俺は心優しいエウノミアル。そんな仕事なんかいつでもできるっつって、嬢ちゃん達をウィズダムまで送ってってあげちゃうもんねー」

「“送ってってあげちゃうもんねー”って…ただ単に、仕事したくないから送ってくれるだけなんじゃないの?」

「うっ!グサッときた!背中まで突き抜けた!!」

「セリナ!失礼でしょう!?」

また怒らせちゃった。

「だーって、ウェーアと一緒じゃん。仕事放り出してさ。あっちはもっと投げやりだったけど」

「ウェーア?」

同士に興味を持ったのか、わたしの反論に反応した。

「途中からソイルまでご一緒した方です。剣術がとても秀でていらっしゃって、何度も助けていただきました」

「へぇ。強ぇーのか。会ってみてーな。どんな奴?どこに住んでんの?」

「家は教えてくれなかった。格好はね…金髪に絳い眼、濃い緑の帽子とマント着てる奴」

「絳い眼…?」

ウェーアのルックスを思い出していたわたしは、ハッと息を呑む声に視線を戻した。

「どうなさったのですか?」

「知ってんの?」

「あっ!?あーいや、絳い眼なんて珍しいなァって思ってよ」

「あぁ、やっぱ珍しいんだ。まあ、わたし程じゃないだろうけどー」

「ラズロさ―――」

「いやあ、そうだよなー。嬢ちゃん真っ黒だもんなァ、うん。珍しい珍しい。天然記念人物ってやつか?」

「なによそれー」

「本っ当、セリナは天然だわ」

「あれ……?え?なんで怒ってんの?」


 ラズロの家は港町から離れた普通の森の、少し入った所に建てられていた。落ち着いた色合いの豪邸だ。けれども周りの木々に馴染んでいて、ひっそりと調和を保っている。

「たーだいまー」

 キョトキョトと落ち着かない私たちを尻目に、ラズロは案外普通に帰宅を告げた。

「お帰りなさいませ、ラズロ様。―――そちらのお嬢様方は?」

奥の方から執事さんらしいスキンヘッドの若い男の人が出てきた。日に焼けているラズロや漁師さん達よりも、ずいぶんと色白に見える。

「おう、客人だ。1晩泊める」

ラズロは短く言って、案内してやってくれと1人でどこかへ行ってしまった。その後姿に一礼して私たちに向き直った執事さんは、こちらへどうぞと丁重に客間へ案内してくれた。

 ふわふわのソファーに腰掛けてお茶とお茶請けを頂いていると、軽いノックの後にきちんとした服装のラズロが現れた。

「驚いたろ?」

出し抜けに、どこか皮肉げに口の端を吊り上げた。

「代々エウノミアルに継がれてきた家なんだ。でっかすぎて落ち着かねぇかもしンねーけど、そこら辺は勘弁してくれよ。部屋も今用意させてっから。――ってー事で、だ」

彼はそこで言葉を切り、パンッと膝を叩く。次いで目を輝かせて身を乗り出し、

「黒森、通ってきたんだろ?どんな所だった?木の神様ってどんな奴だった?」

宿代代わりに、私たちは主の心行くまで話してあげた。

 ディナーは、王様が食べるような豪華なものかと思いきや、意外と普通の量と素材だった。けれども味は格段にいい。こちらでは特別な事がない限り、豪華な食事はしないらしい。

 “存分に休めよ”って私たちの神をぐしゃぐしゃにするラズロと別れて、執事さんに部屋まで案内してもらった。事前に、一部屋づつ与えるかどうか聞かれたので、私たちは迷わず一緒の部屋にしてもらった。これだけ1つひとつの部屋が大きいと、ゆっくり休むどころか不眠症になる。

 執事シングフェルスさんに通された客室は、予想通り広かった。

「何か御用がありましたら、遠慮なくお申し付け下さい」

と、丁寧にお辞儀して彼が退室すると、入れられていた荷物もそのままに、部屋中の探検を始める。そして、クローゼットの中に女物の福が入っていたので、着ている物と替えを乾かさせてもらうことにした。なんせ、黒森の霧のせいでしっとり濡れてしまったから。

 ぐるぐる館内を巡って、丁度通りかかったメイドさんに尋ねた。

「それなら、ついでにお風呂に入ったらどう?お洋服、洗濯しておいてあげるわ」

優しい笑顔と誘惑の言葉に甘えてさせてもらった。

 久し振りに入る温かいお風呂を存分に味わい、不眠の心配をよそに私たちはすんなりと深い眠りについた。


○○○


 翌日、何時間も早く寝付いた私たちは、いつも通りの時間に起床した。

 メイドさんに呼ばれて食卓へ向かうと、すでにこざっぱりとした服装のラズロがお茶をすすっていた。

「「おはようございます」」

「おう!おはよ。ちゃあんと寝れたか?」

「はい、おかげさまで。ゆっくりと休むことができました。ありがとうございます」

朝食を頂きながら、ナギがいつ頃出発の都合がつくのか尋ねた。すると、意外にもすぐに行けるという返事が返ってきた。

「仕事は?本当にいいの?大変なんでしょう?私たち、4日ぐらい待ったっていいから――」

「遠慮すンなって。たまには息抜きもしねーと、過労死しちまうし。な?」

ラズロがいかにも頷いてくれという目で見るものだから、わたしとナギは頷かざるを得なかった。

 エウノミアルの斜め後ろで佇んでいるシングフェルスさんの表情を見ると、主人が仕事をサボろうとしていることに気付いている。言わなきゃいけないんだけど、言いたくない…そんな感じだ。彼も、誰よりもラズロのそばにいるから、その大変さがわかるんだろう。

 ま、そういう訳で、あまり迷惑ばかり掛けすぎないように、私たちの荷作りができ次第の出発となった。



 「よーぅし、だーすぞー!!」


 朝と昼の中間ぐらい。すっかり乾いてきれいになったいつもの服を着たわたしとナギは、ラズロと一緒にキーリスを出発した。

 舟が波に乗って落ち着いた頃、わたしは舵を取る海の男に尋ねた。

「ねえ、エウノミアルってさぁ、どうやってなるの?試験とかするの?」

「なんだ、知らねぇのか?」

彼は驚いたように片眉を上げて続けた。

「現エウノミアルが仕事を続けることができない状態になると、体にある刻印が消えるんだ。ンで、しばらくして別の人間に刻印が現れる。それを他の島のエウノミアルが認めたら、そいつはその日からエウノミアルを名乗るンだ」

「刻印とは、どのようなものなのですか?」

「うーん、そーだなぁ…俺の場合は前任者が降りてから1ヶ月ぐらい後に、右肩ン所に浮かび上がってきた。すっげー痛かったなー。ンで、どうやらエウノミアルによって刻印の形も場所も違うらしいんだ。今まで誰1人として被ったことねぇんだって。ちなみに俺のは――こんなん」

袖をまくって見せてくれた。刻印は、ラズロの性格をよく表していると思う。豪快で陽気な感じ。だけど、深くて綺麗な緑色のように、どこか安心させてくれる。

「ふうん。色も、人それぞれ?」

「おう。そんで、この刻印が消えるとエウノミアルの座を降りる。まーほとんどが年食ってだな。たまにやっちゃーいけねえ事したり殺されちまったりして強制的に消されるのもいるけど」

「殺されるって…強盗とか?」

「おう。だいたいな。全部が全部、エウノミアルの金じゃねぇンだけどさ、それでもフツーに暮らしてる人達よりは収入多いだろ?よく狙われるンだ。だから、牢番人とか雇う奴もいるよ」

「まあ…。名誉な職も大変なのですね」

「わははははは!!慣れりゃどーってことねーよ!」

 彼は、冷気を含み始めた風を吹き飛ばすかのように、豪快に、暖かい声を響かせた。


○○○


 「うわ寒っ!!」

 船内から厚手の服を着込んで出てきた私は、凍るような空気に身を縮めた。

「1年中雪積もってるような所だかンな。ここんとこ止んでたみてーだけど、また降りそうだなァ」

「それにしても…寒いとは耳にしていましたが、これ程までとは思いませんでした。たくさん積もるのでしょうか?」

「おう、結構積もるンじゃねぇか?風邪ひかねーように気を付けろよ?」

白い息を吐くラズロは、少し厚めの長袖を一枚羽織っているだけだ。その台詞、そっくりそのままお返ししたい。

「はい。ありがとうございます。――ラズロさん、本当にお忙しい中、いろいろとありがとうございました」

港の桟橋から、ラズロを見上げる。彼は気にするなと笑って、

「ディムロスはさァ、外っ面は堅っ苦しいけど、いい奴だ。きっと嬢ちゃん達の力になってくれっぜ。会ったらよろしく言っといてくれな」

「うん、わかった」

 エウノミアルの乗った舟は、ゆっくりと雪の島、ウィズダムを離れていった。


次回より、最終章突入です!物語も終盤!

居場所の特定できていない光と闇の精霊。その居場所を知っているかもしれない、ディムロス・リーズなる人物の住む島までたどり着いたセリナとナギ。彼女たちはその情報を聞き出す事ができるのか!? そもそも、本当に精霊の事を知っている人物なのか?

乞うご期待!

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