表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/110

XI-4高く古きものの島




『早まるでない、ウグト』














「――えっ!?」

私は驚きのあまり、悲鳴のような声を上げて、低い声の発信源を探しました。

けいは―――』

ウグトさんもすっと目を細められ、少なからず嫌悪をにじませて私の腰辺りを見ました。私は、“まさか”と思いつつも腰の袋を外し、1つだけ光を発していた“ムレイフ・ケイ”を取り出しました。

「まあ!ラルクさんですか!?このような事も可能なのですね」

『む。久しいな、ナギ。が、挨拶は後に。――ウグト。よもやお主、謳を忘れた訳ではあるまい。しかしながら、何故そこまで意固地かや?』

『……………』

ウグトさんは眉をひそめたまま、何もおっしゃりません。私は、どうすることもできずケイを持ったまま、お2人の様子を窺ってました。それにしても…どうして急に話しかけてこられたのでしょうか?もし、ディスティニーさんのように私たちの会話を聞いていたのでしたら、もっと早く助けて下さってもいいのに…。

『何故応じぬ。我らが使命、忘れたもうか。破りしが時、己が命、無きものと思え』

『……全て、承知の上』

やっと口を開いたウグトさんの顔には、初めて感情が表れていました。それは怒っていらっしゃるような、悔いていらっしゃるような、複雑な表情です。

『ならば―――』

『私にも、人間のような思考が付いてきたのだろうか。運命に逆らってみたい。何かに従うだけの生は嫌だと…。だが、人間に対する怒りは変わらない。私は、人間を滅ぼしたい』

『主の心、わからぬ我ではない。我ら、全にして個。個にして全。人間にしろ、我らにしろ、限りあるもの。早まるでない』

『では、兄はこのまま黙って見過ごせと言うのか!世界各地で聞こえる私の友の悲鳴に耳を塞げと言うのか!!』

『未だ、機は熟せず』

『ではいつだ!』

『かの“力” なんと申しておる』

『“我が声に、従え”と』

『ならば、意のままに』

『……私には、兄のように非情にはなれぬ。友を失うのを黙っていることはできない』

『それも、また試練。我ら限りあるものの』

『……私は兄が嫌いだ。兄の心は解せぬ』

『それもまた、一興よ。ウグト、アルケモロス 開放せよ』

フツリと、お2人の会話が途切れました。まだムレイフ・ケイは赤い炎を宿しているので、ラルクさんはいるようですが…。

『時間を取らせた。ラルク』

『気に病む必要あらん。我、時が感覚 なきが故』

と、ウグトさんは無表情のまま、私の知らない言葉で何かを言いました。ラルクさんも同じ言葉でお返事され、ケイから光が消えました。

 お2人は、いったいどのような言葉を交わされたのでしょうか。とても、柔らかな口調でした。


○○○


 ………………………

 ……………………………………

 …………………………………ここ、は……



 気が付いたら、暗闇の中にいた。

 場所はたぶん、あの老木の虚。ナギのようにマユの中にいるんだ。

 何とかして出られないかと、わたしはツルを手探りで掴み、動かす。が、ビクともしなかった。

「う〜ん…」

どうしようかと悩んでいると、俄にマユ全体が脈打ち始めた。まるで、心臓のようにドクン ドクンとゆっくり波打つ。そのツルが、髪の毛のように細い先端をわたしの皮膚から中に侵入してきた。

「げっ」

その感覚が気持ち悪くて、引き出そうとツルを掴んだ瞬間、電気にも似た痺れが全身に走った。



 頭の中に、何かが入ってくる。




 バチバチはじける感じと、頭の中を引っ掻き回される感覚で変になりそうだ。



 腕も足も、もぞもぞと這い回られて、



 酷い不快感と恐怖とが入り乱れ―――






























―――叫んでいるのに、自分の声さえ聞こえない……




















 目が覚めた。

 一瞬のことのように思えるし、結構な時間が経ったようにも思える。

 相変わらず暗い中に閉じ込められていて、体に嫌な感覚が残っている。

 体は難なく動く。けれども今は、激しい脱力感に苛まれていて動く気力も無い。



 『平気か?』



 ナギ、大丈夫かな〜?とか考えていると、どこからか聞き覚えのある声がした。

 驚いてキョロキョロ辺りを見ると、ケイが入っている腰の袋が淡く光っていた。小さな口を開けると、精霊達からもらったケイの1つ、“ティーイア・ケイ”が青白く光っている。

「もしかして…ディグニさん?」

おそるおそる尋ねると、肯定の返事が返ってきた。彼女の声を聞くのはひどく久し振りだ。

『ウグトに捕らわれたそうだな』

「あぁうん。今、マユん中」

『気分は?』

「最悪」

しかめっ面で返した。ケイからは、笑い声が返ってきた。

「笑い事じゃないよぉ。本っっっ当に、死ぬほど気持ち悪かったんだから!」

『いや、すまぬセリナ。どうか、ウグトを許してやってはくれぬか。あれは、仲間に対する感情が激しい。今、ラルクが諭しているゆえ』

「えっ!?ラルクが?」

あの意地悪なラルクが人――もとい、精霊を説得するなんて…。想像できない。

「………ウグトさんは―――」

『ウグトは、元々感情に欠陥がある。怒りと悲しみという感情以外解せぬのだ。本当にこれでいいのか、相当悩んだはずだ』

「そっか…。まあ、仕方なかったんだね。自分の気持ち、上手く伝えることができないんじゃあ」

『本当に、すまないと思っている。ウグトには謝ることができないだろう。彼の代わりに侘びを入れたい』

「いいよそんな…。けど、ケイもらえるかなぁ?」

『うむ、少々手こずっているようだが………。ああ、終わったようだ。行きなさい』

ディグニさんの声に反応したように、わたしを包んでいたツルが緩み、外の光が差し込んだ。



『これだけは覚えておいて欲しい』

外に出た瞬間飛びついてきたナギは、わたしの腕にしがみ付いたままでウグトさんの話を聞いた。

『我々は人間を許しはしない。人間は我々の言葉を解せぬがために、我々の叫びが聞こえぬ。命を命と思わぬ者が多い。だが、我々にも意識はある。命がある。それを忘れないで欲しい』

そう言って精霊は、木のケイ“レストフォー・ケイ”を授けてくれた。そして、世界の人々への伝言を託した。

 『案内を付ける。ついて行けば、人間のいる所へ出られよう』

ウグトは膝の高さの…人形?を呼んでくれた。頭に双葉を生やしたこれは、コダマって言うそうだ。丸っぽい体は下に行くほど透明になっている。

『ラルクは気に入らないが、あやつの言うことには一理ある。お前たちの事も…全てが気に入ったわけではない。勘違いするな。――旅の無事を祈る』


『“無理矢理閉じ込めたりしてすまない”とでも訳してくれ』


ポソポソと、私達にだけ聞こえるよう、ディグニさんが通訳してくれた。

 頷いたわたしとナギは、歩き出したコダマの後を追った。追いながらウグトさんに手を振り、お礼を言うと、ぎこちなく手を振り返してくれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ