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XI-1高く古きものの島


 夢を見た。

 

 どこもかしこも真っ暗で


 自分の手さえも見えなくて


 広いような 狭いような




 そんな空間に


 たった独りで ポツリと





 取り残されていて・・・・・・・・・・・・

































「セリナ、起きて」

『寝ぼすけー』


 2人に起こされて、わたしは重いまぶたをこすった。

「しょーがないじゃん、疲れてたんだもん。それより、もう着いたの?」

 海の中はすっかり明るさを取り戻していた。色鮮やかな魚達が悠々と泳ぎ、海底の草木が心地良さそうに葉を揺らしている。オーケアニテスも、キラキラと陽の光を反射する白い砂に身を横たえ、海の樹海に溶け込んでいた。

『着いた。太陽が来るの、待ってた』

砂の上に置かれた泡の膜から、彼女の優しいエメラルドグリーンの瞳を見ることができた。その掌ほどもある大きな瞳で私たちを見つめ、“どうする?”と訪ねる。

 互いに顔を合わせた。まだ疲れは取れていないものの、先へ進む気持ちが強い。それに、あまりゆっくりしている訳にもいかないだろう。なんせ、いつ世界が崩壊してしまうのかわからないからだ。

 ナギは、浜へ連れて行って下さいと頼んだ。


 「色々ありがとね、オーケアニテス」

『セリナ、私 助けた。おあいこ』

「本当に、ありがとうございました。―――あの・・・どうか、人間を嫌いにならないで下さい。決して、あなたを傷付けようとする人ばかりではありませんから。どうか・・・」

人気のない砂浜に顔だけ出した彼女は、ナギの言葉にじっと耳を傾け、しばらく黙っていた。が、

『ごめん。人間 嫌い。私達、ずっと前からここにいた。人間生まれる前からずっと。今、人間 我が物顔で世界中、いる。私達、傷付けられる。居場所、追われる。――でも、セリナ ナギ 2人、好き。ディグニも言ってた』

「そっか・・・・・・。ディグニさんとはよく話すの?」

『うん。けど、会った事、ない』

「では、またお話する事がございましたら、無事旅を続けていると、お伝え願えますか?」

ナギは複雑な表情で遠慮がちに頼み、オーケアニテスと別れを告げた。

 私たちは、白い影が見えなくなるまでそこに立ち尽くし、彼女の尾が遠くで跳ねるのを見送り、踵を返した。


・・・


 キーリスは、島のほとんどを樹海が占めている。それだけに、海から180度景色を回転させるだけで、目の前に深い森がそびえていた。

 とりあえず道がなさそうなので、その辺の入りやすそうな茂みから森へ分け入る。


 しばらく道なき道を突き進んで、

「セリナ」

「ん?」

「私たち、どこへ向かっているの?」

「さあ?」

「“さあ?”って・・・あなた、適当に進んでいたの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、なる・・・のかな?」

「そうよ!ああ、どうして“どこに精霊がいるのか知らない”って言わなかったの!?てっきり私は、オーケアニテスさんに聞いていたとばかり・・・。これ以上進むのは危険だわ!元の浜へ戻って、町なり村なり探しましょう!」

「うん、けど――」

ナギが反転したところで足を止め、顔だけ肩越しに振り返る。






「帰り道、わかる?」






 ギーッギーッ と、高い鳥の声がこだました。












 「もう、どうしてこんな事になってしまうのかしら。――セリナ、あなたこの頃1人で突っ走りすぎよ。大体、私たちは2人で旅をしているのよ?これからは少しでも話し合って、それから道を決めましょう。ね?」

そう言う彼女は、怒りを撒き散らすように、木々の葉や草を掻き分けてどんどん進んでいる。もちろん、方角なんか決めてない。ただガムシャラに進んでいるだけだ。そんな投げやりなナギの後に、そうだねと相づちを打ちながら続いた。


やがて・・・


「・・・・・・なんか、霧が出てきたね」


 徐々にだが、周りが乳白色に包まれつつある。ただでさえ視界の悪い森の中で、霧まで出てこられては立ち往生しかねない。このままじゃ、余計に迷子になる。

 しかし戻るわけにもいかず、なおも草木を掻き分けて行くと、1メートル先も見えなくなってしまった。いつの間にか、森に住む生き物が全ていなくなったかのように、辺りはしん・・・と静まり返っていた。



 自分の足すら見えないほどの白の幕。


 異様な静けさの中に、わたしとナギは取り残されてしまった。



「・・・・・・・・・どうしよう」

「これ以上は進めないわね」

「・・・・・・・・・・・・ごめん」

急に申し訳なくなって、俯き加減に謝った。

「もう過ぎてしまったことでしょう?いまさら責めたっていたし方がないわ。それより、早く寝られそうな場所を探しましょうよ」



その日、心許無い明かりの元、木の根に開いた穴の中で一夜を明かした。



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