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X-8旅の途中で

―――ズウン・・・・




「うわー!」

「なな何だ!?」


 急に、本当に何の前触れもなく大きく船が横揺れした。

 床に押し付けられていたわたしは少し滑った程度で済んだけれど、他の人は踏鞴を踏み、中にはもんどりを打つ人もいた。もちろん、コーダも大きくバランスを崩し、わたしの顔を殴る機会を逃した。

 滑ったおかげでコーダの下から抜け出す事のできたわたしは、どこかへ行ってしまった荷物の現在地を素早く確認する。と、傾いだ船が、“オキアガリコボシ”よろしく、元の状態に戻ろうと反対側へ傾く。

 船は面白いほどやすやすと、わたしの体を滑らせた。

 足の先に、海が見える。わたしと海の間では、怒りに顔を歪めるコーダが立ち上がりかけていた。



 ニヤリ、と口の端を吊り上げるわたしと目が合った。



 その瞬間、彼は何て思ったんだろう。



 わたしは、必死にバランスを取ろうとしているコーダ目掛けて一際大きく、高く、



「お返し!!」



 叫んで、スライディング・キックをお見舞いした。


 ビタンッ!と、痛そうな音を立てて倒れたコーダは、そのまま手をストッパーにして、その場に留まった。その横をわたしは悠々と通り過ぎ、縁を足場に後から来た荷物を見事キャッチ!


 船は依然として大きく左右に揺れていたが、コーダは這いつくばってでも“お返しの仕返し”がしたいらしく、縁にしがみ付いているわたしに近付いてくる。次に、向こう側が高くなったら、突進してくるつもりだろう。

わたしは身構え、その瞬間を待った。


 ギギギ・・・


 船が呻き声を上げ、反対側へ傾く。

 コーダがうれしそうな嫌味ったらしい笑顔で甲板上を滑り降りてきた。そう、わたし目掛けて一直線に。

 彼は直前で体を起こした。ゾンビのように手を前に突き出し、その指はこの首を早く締め上げたいとうごめ蠢く。


 ちらりと背後を見やり、小さく頷いた。


 裏切り者の指が首に触れるか触れないかの瀬戸際、わたしは―――











 ―――バシャンッ!!




□□□




 「セリナ!?」




 私は丁度、セリナがコーダさんに追い詰められ、そして海へ落ちてしまった瞬間を見ました。

 揺れの小さくなった甲板を走り、コーダさんの横から覗き込みます。けれども、セリナの姿は見られませんでした。



「セリナ!セリナー!!」



 悪い可能性を否定したくて、力の限り叫びました。

 セリナを探す事に夢中で、私は裏切り者が隣にいることを忘れていました。彼は、

「うるせえんだよ!お前も一緒に落としてやろうか!?」

狂ったように口角泡を飛ばしながら、私の胸倉を掴み上げました。と、





―――ズウゥン・・・・






 また、船が大きく揺れ、コーダさんが体制を崩されました。そのおかげで私は開放されたのですが、残念ながら甲板に足を付く事はできませんでした。

 

 咄嗟に縁に捕まり難を逃れましたが…果たして私の力で上へ上がる事ができるでしょうか。

 怖くて足下で渦巻いている海を見ることができません。そうしている間にも、指の力はどんどん失われていきます。

 そこへ―――










「飛んで!!」










 突然響いた聞き覚えのある声に導かれて、私は恐怖を捨て、手を放しました。



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