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X-4旅の途中で

 裏路地をこそこそ逃げ回り、別の通りに出た途端、人形に見つかった。

 相手は1体だ。彼は、私たちを捕らえるより先に仲間を呼ぶ選択をした。その隙に脱兎のごとくダッシュで逃げる。

 休んだとは言え、私たちの体力は確実に削られていた。それに比べて人形達は、燃料がなくならない限り動きつづける。詰まる所は疲れを知らず、と。・・・やばいかも。

 さっきの人形の通信に応じて、仲間が続々と集まってきた。

 前も後ろも退路を塞がれ足の止まってしまった私たちに、再度人形が飛び掛る。

「――うぇー」

 わたしとナギは、呆気なく地面に縫い付けられてしまった。

 懸命にもがく中、人形は器用に首からケイの入った袋を引きちぎって奪う。

「やめっ・・・返して!!」

わたしは人形の下から必死に手を伸ばした。が、


「『や、やっとてて・・・てに、手に入れた』」


 その手がケイに届く前に、ヒョロ長白衣が人形を抱え上げた。人形使いは袋を手に取ると、大げさな仕草でひどくゆっくり袋の口を開けていく。

 ようやく人形から開放された私たちは、男の動きに注意を払いながら、そろりそろりと後退る。

 男が、袋の口を完全に開けきった。


「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」


 1秒、また1秒と時が過ぎる。

 その間にも、私たちとの距離は15メートルほどになる。そして、


「『はやあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?ななななん、なんなんだここっこのこれはぁ!?たーだのいい石じゃ、石じゃないか―――!!』」



 ・・・遅っ


 実はさっき、袋の中身を摩り替えておいたのだ。我ながらいい考えだと思う。

と、男が遠く離れ、走り出していた私たちをキッと睨み付けた。怒りの為だろうか。人形使いの目が、イッちゃってる。

「セリナ、何をしているの!?早く行くわよ!」

ナギに急かされて、はっとした。そうだ、作戦が成功したのにここで逃げ切らなければ意味がない。わたしは慌ててスピードを上げた。

 全力疾走で逃げているのにも関わらず、小柄な人形使いはグングン距離を縮めてきた。

 だいぶ走って、だいぶ男の顔も疲労が色濃くなってきた頃、やっとガドガの船を見ることができた。

「お〜い譲ちゃん達〜!ちょーどえがった。そろそろ出港すっぞー!」

船員のおじさんの声がとても嬉しい。今、最後の積荷を積んでいる所だ。

「なーにをそんなにムキになっとるけー?走らんでも、じゅーぶん間に合うっぞー?」

「「・・・・・・・・・・・・」」

無言でおじさんの横を駆け抜けた。

「が、ガドガっ!ふね、船出してっ!今すぐ!!」

「お、おう?心配せんでも出すで。――おーい!綱ほどけー」


 甲板のヘリにもたれ掛かって息を整えていると、ゆっくりと船が動き出した。わたしとナギは、同時に胸を撫で下ろす。が、

「うわっ!?なっなんだあんた!」

船員の声に振り向くと、反対側の船べりに、あの男の手が縁にくっ付いていた。

「・・・諦め悪いなぁ・・・」

ボソリと呟く。すると、ナギが顔を上げて、面白半分に人形使いをはやし立てていた船員達に言った。

「その人は、今朝からずっと私たちを追いかけて来られるのです!どうか、船に乗せないで下さい!!」

彼女の必死そうな(実際に必死だったけど)顔を見た船員は、少し驚き、人形使いをジロジロ見て納得したように頷いた。そして、

「おう、そいつぁーいけねぇな」

1人のヒゲのおじさんが、ニヤリと頬を歪めた。他の人も心得たと頷いてくれる。

「ちちょ、ちょっと、ちょぉっと待ってよ。まままさ、まさか、ぼぼぼくっちをう、海に落とそうなんて事は、お、おも思ってないよね?そ、そうでしょ?そうだよね?そうだろ?そうだって言ってぇ〜!!!」

 男の憐憫れんびんを誘う表情も虚しく、彼の指は1本1本剥されていって――

「ねね、ねえ!たっ頼むから!お願いだからやや、やめっやめ―――!?」

その時が来て、


「――ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「あ〜ぁ」


大きな水しぶきが1つ、海面に花を咲かせた。



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