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IX-3常磐の風の島

話の都合上、この回は短いです。

悪しからず。

○○○


 レーミルとの約束の店にいく前に、キーリス行きの船がいつ出るのかを調べに行った。港のおじさんによると、3日後あたりに来るそうだ。これなら充分に準備ができる。


 “フースー・ヒコメイ”という喫茶店に入ると、もう既にレーミルは来ていて、にこやかに手を振っていた。

「やあ、わざわざ来てくれてありがとう。ごめんね、迷惑じゃなかったかな?」

わたしは、“そんな事ないです”と否定するナギの横に座った。

「それで?私たちに聞きたい事って、何?」

「うん。君達、旅をしているんだろう?よかったら、今まで行った町の話とか、旅をする理由とかを聞きたいんだ。僕は滅多にテンペレットを出る事はないからね。他の島々の様子を知りたいんだよ。だめかな?」

 そんなものだろうか。ウェーアみたいに仕事サボってまで旅する人もいるのに、レーミルみたく土地に縛られている人もいるんだ。

 「いいえ、構いませんよ。ええと…どこからお話いたしましょうか」

「じゃあ、旅の目的から話してくれよ。2人とはいえ、大変だったろう?」

 レーミルは嬉しそうに聞き出した。反対に、私たちには不安が走る。もちろん、ワグナー・ケイの事やわたしの事を話す気はない。ラービニを出たばかりの頃は警戒心が薄かったし、ウェーアやフォウル兄妹は信頼できた。けど、付き合いの短い彼を信用しろと言うのは難しい。

「えっと…、私たちも他の島がどういう所なのか知りたくて旅をしているの。お金に余裕がないから、あんまりたくさんはいけないけど」

「へぇ。確か、ディバインからだったよね。何て言う町から?」

「ラービニです。そこからまず、エバパレイトへ」

と、彼が質問して、私たちが答えていった。

 ノウムハーバーへは偶然近道を知っている人に会って、教えてもらった。ソイルでは、2週間ほど親切な親子(アシュレイさんとトルア君)の家に泊めてもらった…などなど、色々と話したらやばそうな所は置き換えて語った。

 彼はやけに細かい事ばかりを聞いてきた。

 例えば、タイレイム・イザーにまつわる話とか、ファストにはどんな生物がいたのかとか、ソイルの昔話とか。その中でも特に、彼はウェーアに興味を持ったようだ。私たちは、彼がまだ十代だという事や、アライオスの血を継いでいるという事、科学者と仲がいい事などを言ってしまわないように気を付けた。理由は、ウェーアだったら他人にこんな事を話さないから。ただ、秘密主義で剣の腕がいいって事だけを伝えた。

「そういえば、こんな話聞いた事ある?」

と、レーミルが語り始めたのは、それぞれの島には神様が住んでいるというものだった。そして、その神様達はとても貴重な何かを持っているという…。この人、もしかして精霊の事を知っているんじゃないかって思ったほどだ。今まで会ってきた精霊の居場所や町の名前を上げては、そこにまつわる昔話をしてみせる。

 さすがに光と闇の精霊の事は知らないようだけど、それをきりにナギもより慎重に言葉を選び出した。

 「ラービニではね、あのタイレイム・イザーか、もしくは雲から湧き出ている滝の辺りが怪しいと思うんだ。けれども、今ひとつ確信が得られなくってね。あそこは神に関する話が本になっていないからね。わからないんだ。君達はどう?そういうの、聞いたことない?」

「いいえ、残念ながら。――レーミルさんは、どうしてそんなに他かの町の昔話ばかりを知っていらっしゃるのですか?滅多にここから出かけられないのでしょう?」

ナギが問い返すと、彼は得意げに答えた。

「僕にはね、気の良い友達がたくさんいるんだよ」


 レーミルと別れた後、夕方まではまだ時間があった。なので、1年のほとんどを雪に覆われているというウィズダムに備えて、温かい服を買って行った。

「ねえナギ……明日、本当に行くの?」

 レーミルとはまた会う事になった。何でも見せたいものがあるらしい。

 訳のわからない悔しさに苛まれていた。やりきれない思いが強い。まるで、避けようとして違う道を選ぶのに、何度替えてもその道へ行ってしまうような、離れなれない、避けられない道……。

「もう約束してしまったのだから、すっぽかす訳にもいかないでしょう?」

「ぅん……。ナギは、さ…あいつの事、何とも思わないの?」

レーミルに親しんでいる彼女に失礼な事だとはわかってる。けど、わたしは聞かずにはいられなかった。

「それは…・・・少しは怪しいところもあるけれど、神様の話だってたくさん調べればわかることだわ。そういう事に興味を持つのは、別に変ではないでしょう?セリナこそ、どうしてそんなに警戒するの?」

「・・・わかんない。わかんないけど・・・もう、あいつと会うのは止めた方がいいよ。そんな気がする。だから――」

「もういいわ。そんなに嫌なら、明日は私1人で行くから。それなら文句はないでしょ?」

彼女は刺々しく言うと、足早に去って行ってしまった。



「ナギ!!・・・・・・ナギ・・・・・・」



 街道を行く人々の脚は、次第に途絶えていった。



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