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VII-11罠

○○○



 空は重く厚い雲で覆われ、細かな雫が天と地とをつなぎ止めていた。


 昨日は結局ウェーアに付きっきりで、1日中ウトウトしていた。



 今は、まだ起きない彼の傍を抜け出して、地上の木の下に隠れて手足を伸ばしてる。


 ふと、首に下がった袋を思い出して、服の下からそれを引っ張り出す。中には、新たに加わったワグナー・ケイがあった。




  『イバレン・ケイ』




 昨日、ナギは予定通りノームからワグナー・ケイを譲ってもらった。これでここソイルでの目的は果たしたから、ウェーアの容体が良くなればまた旅を再開する事になる。


 「……はーぁ……」


 今までちゃんと考えていなかった(って言うより、考えないようにしていたのかもしれない)けど、たくさんの疑問が浮かび上がっていた。


 どうしてわたしは、突然こちらに来てしまったんだろう。

 どうしてワグナー・ケイを集めれば元の世界へ帰れるんだろう。

 その保証はあるのかな。

 あの不思議な声の主は?

 この旅はいつまで続くんだろう。

 世界が消えてしまう前に、全てのケイを集められるのかな…。




 「わたしって…」




 自分は何なんだろうという考えが、脳裏をよぎる。

 別に、ネガティブ思考に陥っている訳じゃない。ただ単に、わたしって何者なんだろうと思っただけだ。“アルケモロス”とか呼ばれるし。



「セリナ」



 ノームのマンホールから、ウェーアが顔を出した。わたしは這い上がってきた彼が濡れてしまわないように、持っていた大きな葉っぱの傘をかざす。


「もう少し寝てなきゃダメダよ」

まだほんのりと赤い頬を見て、叱った。昨日よりはいいみたいだけど、また熱が上がるかもしれない。

「少しぐらい外の空気を吸わせろ」

ウェーアは家の中へ戻そうとするわたしをやんわり押し留めて、さっきまでいた木の下へ向かう。

「少ししたらちゃんと寝るんだよ?」

「ああ」






しばらくボーっとしていると、まだ治らない、掠れた声が静かに流れてきた。


「…あまり、急にいなくなるな。その………なかなか戻らなかったから……」


顔を上げると、顔を背ける彼がいた。どうやら、結構長い間わたしはここにいたみたい。


「…うん、ごめん。ちょっと…考え事をね」

正直に言うと、どうしたと言いたそうな表情でわたしを見下ろした。その視線に居心地の悪さを感じて、わたしは下を向いた。


「なんかね、わからない事が一杯ありすぎてさ、頭の中、混乱しっぱなしで…。今更なんだけどね。それに…わたしって、何だろうなーって」


 どうしてウェーアなら何でも話せるんだろう。彼は何も教えてくれなくて、ガードが固いのに…。ナギだと、ものすごく心配させちゃうから話せないのかな。




「…俺は、君のそんな顔は見たくない」




 ウェーアの怒ったような声に、再び顔を上げた。


「わからない事があるのなら、教えられる限り教えてやる。この世界に居場所が欲しいのなら、俺が作ってやる。君の存在を証明して欲しいのなら、俺がいくらでもしてやる。だから―――そんな顔をするな」


彼は正面を向いていた。珍しく、視線が逃げていない。


「…できるかなぁ」

なんだからしくないウェーアがおかしくて、わたしは笑いを含めていた。笑われた方は、横目でちらりとこちらを見て、

「君のためなら、できる」

ポンッと、わたしの頭にマメだらけの手を乗せた。いつもと同じ口調、穏やかな表情で。そして――



「――あー、いたいた!セリナお姉様、朝ご飯ですよぉ!!」



 ロウちゃんの顔がひょっこりと穴から出た。

 今行くよと返事をしたら、彼女は今ウェーアがいるって事に気付いたようで、よくわからない事を怒鳴り出した。

 わたしは、後ろで聞こえよがしに溜め息を付く彼と一緒に、家の中へ入っていった。





 まだ答えは見つからないけれど、ゆっくりと解いていこう。少なくとも、今ここにいる人達は、わたしの仲間なんだから。

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