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VII-6罠

□□□


 泥人形を足止めしてから、なだらかな登りが長く続いていた。おそらく、出口に近いのだろうが、どこに出るのかわからない。もしかしたらまた砂漠へと舞い戻るかもしれないし、ファタムの森の中に出るかもしれない。どちらにしろ、早く外へ出られるのならば、嬉しい事だ。再び泥人形が襲い掛かってこないとも言い切れない。


 角を曲がった途端に、あまりにも強く喜ばしいその刺激に目が眩んだ。徐々に慣らすために手をかざし、叫びながら飛び出していくロウの後に続いた。


□□□


 急な登りを必死に登っていました。

 道はくねくねと曲がり、空気の流れを感じるようになってきました。たぶん、もうすぐ外へ出られるのでしょう。

 私はアルミスさんの様子を窺いながら、一刻も早く外へ出られるように速さを上げました。

 

 やがて、光の眩しさに目を細め、私は光の縁に手を掛けました。


□□□


 わたしは跡形もなくなった白い花畑の真ん中で、ボーっと座っていた。


 白昼夢から戻って来れたのはよかったけれど、ここがファタムのどこなのか、皆がどこにいるのか全くわからなかった。ただ、なんとなくここに居れば皆に会えるような気がした。勝手な希望かもしれないけれど、とりあえず待ってみる事にした。


「早く来ないかなー」


何度目かの愚痴をこぼすと、


「セリナお姉様ぁ〜!!」


ロウちゃん特有の叫び声がして、駆け寄ってきた彼女を迎えた。その後ろからはウェーアがゆっくりと歩いてくる。


「お姉様〜。もう死んじゃうかと思いましたよぉ。変なヤツ出てくるし、赤目菌なんかとずーっと一緒だったしぃ〜」

半泣きのロウちゃんが言うと、半笑いのウェーアがそれに応えるように言った。

「いや、本当に大変だった。泥人形を足止めできたのはよかったんだが、中にいる間ずーっとこいつの小言を聞かなきゃいけなかったし、相手をしてやらなきゃ喚き散らすし…」

「何さ、赤目菌のくせに!!」

「ああ、わかったわかった。――それよりセリナ。どうやってここに?フォウルとナギは?」

わたしは頷いて、今はもう土になってしまった花達の上で話し始めた。


 ウェーア達が落ちてすぐにわたしも落ちたこと。何事もなく横道を抜け、ここで白昼夢を見たこと。不思議な声のこと。


「それからずっとここにいたんだけど…たぶん、ナギとアルミスさんも、もうすぐ来ると思うよ」

「なぜそう思う?勘か?」

言ったわたしに、ウェーアは少し楽しそうに聞いた。

「ん………わからないけど、なんとなく」

感じたままを口にすると、彼はじっと見つめて、

「そうか…。なんだか、変わったな。いや、いい意味でだぞ?」

「何言ってんのさ。セリナお姉様はセリナお姉様さ」

珍しくボソッとロウちゃんが言う。ウェーアは鼻で笑って、わたしは目を細めながら彼女の頭を優しく撫でた。

「お前も、色々と経験した方がいいぞ?いろんな事を知って知識を豊富にすると、世の中もだいぶ違って見えてくる。世の醍醐味がわかってくるんだ。人生の意味も、な」

「…………やっぱり、赤目菌の言うことって、あんましわかんないさ」

ロウちゃんは難しい顔で呟く。わたしも同意して、

「そうだね。けど、きっとその内わかるよ。――それにしても…やっぱりウェーアって、歳ごまかしてない?」

「何を失礼な。ごまかしてなどいない!!」

 女2人でウェーアをからかっていると、


「アルミスさん、大丈夫ですか?外に出られましたよ」


聞きなれた声が、前方の地面から聞こえてきた。

「ナギ!お疲れ様」

「兄さー!!ナギお姉様ー!!」

私たちは2人に駆け寄って、再会を果たした。


・・・


 「そうだったの。けど、皆無事に出られてよかったわ」


 夕闇の下、私たちはそれぞれのエピソードを語った。

「それにしても、あの泥人形はなんだったんだろうな」

皮膚が泥でできていて、顔には大きな口だけ。頭から生えた触角の先端に目玉のある、出来損ないの泥人形。わたしは見ていないからよくわからないけれど、相当気持ちの悪いモノだって事は容易に想像できる。

「ファタムに土の神様がいるという昔話がありますけど、それでしょうか」

「あー!聞いたことがあるさ!ゆーめーだよね?」

フォウル兄妹が言うと、


  『そーなんだな!“どろぎょん”はオイラが造ったんだな!!』


どこからか、少年のような声がした。

「誰?」

辺りを見回しても、誰の姿も見られない。

「ここなんだな!!」

「なっ!?」


 突然土埃が舞い上がって、一番近くにいたウェーアがまともにそれを喰らった。

 そして・・・


「「………………」」


土の中から飛び出してきたのもに、全員が沈黙した。


 楕円形の平べったい手足。テディベアーのような顔に、水色のヘアーバンド。その上から四角いフレームのゴーグルを付け、赤いエプロンみたいな服を着ている、背丈30センチの物体だった。


「オイラ、ノーム!よろしくなんだな!!」


 物体が、喋って片腕を上げた。


 私たちは依然として沈黙を守り、不意にウェーアが口を開く。

「…あー、さて。今日は皆疲れたろ。さっさとメシ食って寝るか」

「うん、そうだね。あ〜疲れた疲れた」

「ええ、本当に。今日はとても大変な1日でしたね。明日のために早く休みましょうか」

「賛成〜!あたい、水浴びしたいさー」

「どこかに川か何か、ありませんかね」

みな口々に言って、その場から遠ざかって行く。



「ちょ、ちょちょちょと待つんだな!なんでオイラを無視するの!現実逃避はよくないんだな!」



ノームと名乗ったぬいぐるみは、慌てて私たちを追って来た。

「オイラ、お前さんたちを招待しに来たんだな!オイラの家に泊まっていってほしいんだな!!」

「……浴室はございますか?」

ナギがノームに応えて振り返った。

「ナギ、知らないぞ。そんな人形の言うことを聞いてひどい目にあっても」

けど、押し留めようとしたウェーアは、

「人形じゃないんだな!オイラの家に来ればご馳走があるよ。お肉もあるんだな!」

「…ま、たまには騙されるのもいいか」

と、あっさり折れた。

 確かに、抗いがたいお誘い。それに、このぬいぐるみが本当にノーム(土の精霊)だとしたら、なおさらついて行かなくちゃ。

 結局、誘惑に負けた私たちはノームの家へ招かれて行った。



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