VII-6罠
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泥人形を足止めしてから、なだらかな登りが長く続いていた。おそらく、出口に近いのだろうが、どこに出るのかわからない。もしかしたらまた砂漠へと舞い戻るかもしれないし、ファタムの森の中に出るかもしれない。どちらにしろ、早く外へ出られるのならば、嬉しい事だ。再び泥人形が襲い掛かってこないとも言い切れない。
角を曲がった途端に、あまりにも強く喜ばしいその刺激に目が眩んだ。徐々に慣らすために手をかざし、叫びながら飛び出していくロウの後に続いた。
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急な登りを必死に登っていました。
道はくねくねと曲がり、空気の流れを感じるようになってきました。たぶん、もうすぐ外へ出られるのでしょう。
私はアルミスさんの様子を窺いながら、一刻も早く外へ出られるように速さを上げました。
やがて、光の眩しさに目を細め、私は光の縁に手を掛けました。
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わたしは跡形もなくなった白い花畑の真ん中で、ボーっと座っていた。
白昼夢から戻って来れたのはよかったけれど、ここがファタムのどこなのか、皆がどこにいるのか全くわからなかった。ただ、なんとなくここに居れば皆に会えるような気がした。勝手な希望かもしれないけれど、とりあえず待ってみる事にした。
「早く来ないかなー」
何度目かの愚痴をこぼすと、
「セリナお姉様ぁ〜!!」
ロウちゃん特有の叫び声がして、駆け寄ってきた彼女を迎えた。その後ろからはウェーアがゆっくりと歩いてくる。
「お姉様〜。もう死んじゃうかと思いましたよぉ。変なヤツ出てくるし、赤目菌なんかとずーっと一緒だったしぃ〜」
半泣きのロウちゃんが言うと、半笑いのウェーアがそれに応えるように言った。
「いや、本当に大変だった。泥人形を足止めできたのはよかったんだが、中にいる間ずーっとこいつの小言を聞かなきゃいけなかったし、相手をしてやらなきゃ喚き散らすし…」
「何さ、赤目菌のくせに!!」
「ああ、わかったわかった。――それよりセリナ。どうやってここに?フォウルとナギは?」
わたしは頷いて、今はもう土になってしまった花達の上で話し始めた。
ウェーア達が落ちてすぐにわたしも落ちたこと。何事もなく横道を抜け、ここで白昼夢を見たこと。不思議な声のこと。
「それからずっとここにいたんだけど…たぶん、ナギとアルミスさんも、もうすぐ来ると思うよ」
「なぜそう思う?勘か?」
言ったわたしに、ウェーアは少し楽しそうに聞いた。
「ん………わからないけど、なんとなく」
感じたままを口にすると、彼はじっと見つめて、
「そうか…。なんだか、変わったな。いや、いい意味でだぞ?」
「何言ってんのさ。セリナお姉様はセリナお姉様さ」
珍しくボソッとロウちゃんが言う。ウェーアは鼻で笑って、わたしは目を細めながら彼女の頭を優しく撫でた。
「お前も、色々と経験した方がいいぞ?いろんな事を知って知識を豊富にすると、世の中もだいぶ違って見えてくる。世の醍醐味がわかってくるんだ。人生の意味も、な」
「…………やっぱり、赤目菌の言うことって、あんましわかんないさ」
ロウちゃんは難しい顔で呟く。わたしも同意して、
「そうだね。けど、きっとその内わかるよ。――それにしても…やっぱりウェーアって、歳ごまかしてない?」
「何を失礼な。ごまかしてなどいない!!」
女2人でウェーアをからかっていると、
「アルミスさん、大丈夫ですか?外に出られましたよ」
聞きなれた声が、前方の地面から聞こえてきた。
「ナギ!お疲れ様」
「兄さー!!ナギお姉様ー!!」
私たちは2人に駆け寄って、再会を果たした。
・・・
「そうだったの。けど、皆無事に出られてよかったわ」
夕闇の下、私たちはそれぞれのエピソードを語った。
「それにしても、あの泥人形はなんだったんだろうな」
皮膚が泥でできていて、顔には大きな口だけ。頭から生えた触角の先端に目玉のある、出来損ないの泥人形。わたしは見ていないからよくわからないけれど、相当気持ちの悪いモノだって事は容易に想像できる。
「ファタムに土の神様がいるという昔話がありますけど、それでしょうか」
「あー!聞いたことがあるさ!ゆーめーだよね?」
フォウル兄妹が言うと、
『そーなんだな!“どろぎょん”はオイラが造ったんだな!!』
どこからか、少年のような声がした。
「誰?」
辺りを見回しても、誰の姿も見られない。
「ここなんだな!!」
「なっ!?」
突然土埃が舞い上がって、一番近くにいたウェーアがまともにそれを喰らった。
そして・・・
「「………………」」
土の中から飛び出してきたのもに、全員が沈黙した。
楕円形の平べったい手足。テディベアーのような顔に、水色のヘアーバンド。その上から四角いフレームのゴーグルを付け、赤いエプロンみたいな服を着ている、背丈30センチの物体だった。
「オイラ、ノーム!よろしくなんだな!!」
物体が、喋って片腕を上げた。
私たちは依然として沈黙を守り、不意にウェーアが口を開く。
「…あー、さて。今日は皆疲れたろ。さっさとメシ食って寝るか」
「うん、そうだね。あ〜疲れた疲れた」
「ええ、本当に。今日はとても大変な1日でしたね。明日のために早く休みましょうか」
「賛成〜!あたい、水浴びしたいさー」
「どこかに川か何か、ありませんかね」
みな口々に言って、その場から遠ざかって行く。
「ちょ、ちょちょちょと待つんだな!なんでオイラを無視するの!現実逃避はよくないんだな!」
ノームと名乗ったぬいぐるみは、慌てて私たちを追って来た。
「オイラ、お前さんたちを招待しに来たんだな!オイラの家に泊まっていってほしいんだな!!」
「……浴室はございますか?」
ナギがノームに応えて振り返った。
「ナギ、知らないぞ。そんな人形の言うことを聞いてひどい目にあっても」
けど、押し留めようとしたウェーアは、
「人形じゃないんだな!オイラの家に来ればご馳走があるよ。お肉もあるんだな!」
「…ま、たまには騙されるのもいいか」
と、あっさり折れた。
確かに、抗いがたいお誘い。それに、このぬいぐるみが本当にノーム(土の精霊)だとしたら、なおさらついて行かなくちゃ。
結局、誘惑に負けた私たちはノームの家へ招かれて行った。




