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VII-1罠

 さらに数十日が経って、私たちはノースにお別れを告げた。

 どうやらノース専用の抜け道があるらしく、いつの間にか険しい山脈は背後にあった。

 代わりに、目の前には広範囲にわたる緑の海。爽やかな草の香りが漂い、緑の波は光に弾けていた。その奥には森がある。そこに土の精霊がいるんだろうか。


「さて、さっさと行くか。早く終わらせて、魚肉でもいいからあり付きたい」

 もちろん、食料がない訳じゃない。ノースにいる間、果物を乾燥させてチップを作ったり、日持ちのいい木の実なんかも集めた。

 けれども、残念ながら魚やお肉は手に入らなかった。ノースによると、普段は動物も魚もいるが、人間が入ると姿を隠すようになっているらしい。それはファタム・ゾウムでも同じ事。

“ファタムにいる間は動物を狩ったり、殺したり、傷つけてはいけない”

と言われた。だから私たちは、少しの間ベジタリアンでいなきゃいけない。ちょっと物足りない感じがするけどね。


 腰まである草を掻き分けながら、道なき道をクダラを引いて歩いていると、

「あれ?」

不意に、視界の隅で何かが動いた。音は、私たちの足音で消されて聞こえなかった。

「どうした」

先頭を行くウェーアが振り向いた。その時にはもう、わたしは列から外れていた。

「何かが動いた」

「セリナお姉様、私も見たいです!」

後ろにいたロウちゃんも飛び出すと、ウェーアが慌てた様子で追って、戒める。

「待て。何が出るのかわからないのに迂闊うかつに近付くのは―――」

ウェーアの言葉が途切れた。甲高い悲鳴と驚愕の呻きがそれを追う。

「ウェーア!?」

「ロウ!!」

アルミスさんとわたしの声が重なり、一瞬にして消えてしまった2人の所へ―――




「――っ!?きゃああぁぁぁ…………!!」




 突然の浮遊感の後、わたしは空がどんどん小さくなっていくのを見た。

















「……ん?うっ―――いっっったぁ〜」

気が付いたら、暗いところにいた。

「………どこだろ、ここ」

打った所を宥めながらどうにか立ち上がって、周りを見回す。

 わたしのいる所だけ、スポットライトのように照らし出されている。他は真っ暗。それでも、壁がそびえ立っているのは判別できた。


 上を見上げれば覗き込むように茂る草と、遥か彼方にある青い空。


 つまりここは穴の中。しかもかなりの深さだ。


 それに加えてわたしは独り。荷物は上で、ロープもない。


 壁を登ろうにも、土が軟らかくてすぐに崩れてしまう。


 

 ………いきなり、絶体絶命の大ピンチってとこかな




 ああ、遠くに居りますお父さん、お母さん―――







 ―――頭ん中、真っっっ白です。


□□□


 「セリナ!?」


 ウェーアさんとロウちゃんが急に消えてしまったと思ったら、今度はセリナがフッと姿を消してしまいました。

 そして、私が一歩踏み出した瞬間、


「――きゃっ!?」


 足元が抜ける感覚に襲われ、次いで背中を強打しました。しばらく背中と肺の痛みに息を詰まらせていますと、傍らからの呻き声を耳にしました。

「あ…、アルミスさん、ですか?大丈夫ですか?お怪我は…?」

「平気です。ただのかすり傷で」

とりあえず、ホッとしました。

 けれども、クダラは地上に残ってしまい、当然荷物も上です。何かあってはいけないと、食料と水だけは身につけていましたので、それに困ることはないと思いますが…。


 それにしても、

「落とし穴、のようですね。とても登ることはできそうにありませんし…」

「どうにか抜け出す方法を考えますか?」

そうおっしゃったアルミスさんに私は、ニッコリと笑顔でお返ししました。


「あら、考えるだけでは意味がありませんよ?ここは行動あるのみ、ということろでしょう?」



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