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VI-6幸・不幸

・・・




 ・・・・・・・パシャ・・・・・・



       ナンの  オト    だろ?


 ピチャッ・・・・


          ・・・ハ ネ た ?



      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



  ・・・ナガれル  おトが  する・・・


 ・・・ナ ガ レ・・・ミズ    の―――





 ―――バシャッ!!



「ふわぁ!?」



 突然、フワフワした所から、パッと引き出された。

 ボーっとしている頭をハッキリさせようと、目を擦る。

 気のせいか、足下には草が生えていた。

 そして辺りを見渡し―――

「・・・・・・・!」


 ―――また目を擦った。


「ここ、どこ?」


 あの砂の台風だか、竜巻だかに吹き飛ばされたのに、まだ気絶しているけれど全員が(クダラと荷物も含めて)いる。

 それに、ここは・・・

「オアシス・・・?」

 わたしの髪は少し濡れていて、それのあった所には清らかな川が、さらさらと心地良い音を立てていた。頭上には紅葉した木々が葉を揺らしていて、足下は鮮やかな銀杏色・もみじ色・青さを残した草の色で敷き詰められていた。まるで、秋の一景のように・・・。

 わたしは急に喉の渇きを思い出して、ごくごく川の水を存分に飲み下した。

 満足のいったわたしは、やっと皆を起こす事に想いが回った。まず手始めに、うつ伏せでわたしの服の裾を掴んでいたウェーアを。

「ウェーア!ウェーア!!起きてー!!水があるよー?」

 何度呼んでも、何度体を揺すっても、彼は死人のごとく動かなかった。もしかして、本当に死んでるんじゃ…?って、確かめてみると――――あぁ、ちゃんと息してる。

 困ったわたしはちょっと考えて、一番初めに目に入った水で試してみる事にした。

 手で水をすくって、ぐっすり寝ている彼の耳へ――

「――!?」

――掛けたら、飛び起きた――までは良かったんだけど。よほどびっくりしたのか、わたしの眉間の目と鼻の先には淡く赤にきらめく銀の切っ先が・・・。


「「あっ・・・」」


ハッとしたウェーアと、驚いたわたしの声が重なった。

「・・・おはよう」

目の前にいる人が敵ではないと確認した彼の口からは、まだ寝ぼけているような言葉が出された。

「えっと・・・おはよう?」

とりあえずお返事して、

「なんか、助かったみたいだよ。私たち」

目線で周りを見るように促がすと、ウェーアも上を見上げて不思議そうに呟いた。

「の、ようだな」

やっと剣をしまう気になって、水を被った耳をこする。

「水、飲んでなよ。わたしナギ達起こしてくるから」

「ああ。それにしても・・・酷い起こし方してくれたな」

寝起きの悪いウェーアは、不服そうに眉をひそめた。

「んー?でも、ちゃんと呼んだり揺すったりしたんだよ?――ナギー?ナーギー!!お・き・てっ!」

 結局、ナギもフォウル兄妹も水を掛けるまでピクリともしなかった。


 「――っくーぅ〜!生き返るさ〜!!」

顔ごと突っ込んで喉の渇きを潤していたロウちゃんは、顔を上げるなり水しぶきを飛ばしながら叫んだ。

「親父臭い。うるさい」

服に付いていた砂や葉っぱを、神経質そうに払っていたウェーアがぼそりと言うと、また言い争い――って言うよりロウちゃんが一方的にわめくだけだけど――が始まった。

 まぁ、いつもの事なので、わたしはそのやり取りを眺めるだけ。で、なぜが話はウェーアの年齢の方向へ。物腰といい、雰囲気といい、やっぱり年相応に見えてなかったみたい。そうしたら、アルミスさんも意外と若かったからおどろいちゃった。

「今日は飲もうか」

アルミスさんの肩をポンッと叩いたウェーアは、溜め息混じりに言う。

「ウェーアさん?お酒は十八になってからだと、何度申し上げればよろしいのでしょうか?」

間髪いれずに、ナギの恐ろしくて優しい声が彼の背中に突き刺さった。

「別に、ほんの少しぐらいいいじゃないか。あと半年ぐらい・・・。そ、それに、美容にもいいんだぞ?ナギも飲んでみるか?」

ナギはニッコリ微笑み返すと、ウェーアの荷物(いつの間にか持ってきていた)をあさって、酒瓶を取り出す。

「では、これはお預かりしておきますね」

「お、おい待て!治療にも使うんだぞ?」

「その時は私がお渡ししますから、どうぞご心配なく」

言い訳がましく手を伸ばすウェーアに、ピシャリと笑顔で言いつけた。


 その後、ここで一夜明かすことにした私たちは、アルミスさんから“ここはノースかもしれない”という話を聞いた。

 何でも二年前、つまり砂漠が広まってきた頃のことだ。生まれ故郷からレイタムへ逃げる途中、砂漠の猛威に負けて倒れたそうだ。そして気が付いたときには、見たこともない植物の中に二人で倒れていたとか。その時の雰囲気がここと似通っているみたい。

「で、色々見て回ったのか?」

「いえ。何が出るのかわからなかったんで。その時もこうして水辺にいて、食べ物は周りにたくさんなっていたものですから」

「今いる場所とは違っていたのですか?」

「はい。けれども、同じ感じがします。確か・・・木の葉がこんな色はしていなかった。もっとこう・・・若々しいと言うか、芽吹いたばかりと言うか。そんな感じでした」

「ん・・・。ま、今は悩んでも仕方がないだろう。食料も手に入った事だし、今日は早めに休むか?」

と言って、ウェーアはウトウトしているロウちゃんを横目で見た。

 賛成した私たちは、川の近くで採ってきた果物を胃に収めた。もう日が傾いていたから、それは夕飯になった。


 その晩。

 疲れ果てて早めに寝入ったわたしは、誰かの話し声にふと目を覚ました。と言っても、体はだるくてまぶたも上がらない。耳だけをそばだてた。

「――って、よく誰かに似ていると言われませんか?」

アルミスさんの声だ。

「そう、だな。お前は誰に似ていると思ったんだ?」

応じたのはウェーアだった。

 さわっと風が吹いて、お酒の臭いを運ぶ。懲りない奴。まだどこかに隠し持っていたみたい。

「えっ?自分ですか?・・・いいえ、言うのは止めておきます。あっ、悪い意味ではありませんから」

アルミスさんは慌てた様子で弁明する。ウェーアは気にも留めずに別の話に移っていった。

 ウェーアって、誰に似てるんだろう?わたしに言ってもわからないだろうけど、ちょっと気になる。

 彼らのボソボソ声を聞いているうちに、またフワフワした感覚に包まれて、わたしは夢も見ないほど深い眠りについた。



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