IV-17新たな出会い
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彼はラルクとしばらく話していたけど、私たちには「ふざけるな!」ぐらいしか聞こえなかった。ラルクの声も、電源を切られたみたいに全く聞こえてこなかった。
「ウェーア!」
彼はラルクの首から飛び降りると、崩れるように膝を付いた。わたしはびっくりして、大急ぎで駆け寄った。
「大丈夫?足、酷いよ?」
「すぐに治療したしませんと」
ナギも傍らに膝ま付き、ウェーアの顔を覗き込んだ。
「ラ、ラルク様!どうして俺だけ出られないんですか!?」
わたしとナギがあわあわしていると、後ろの方でドンドン壁を叩く音がした。そういえば、何かと文句をつけてくる奴がいない。
『二人、ティーイア・ケイ持ちいたるが故、我が膜、破れたり。今し方解く』
スイシュンも加わり、ウェーアのマントや荷物から薬とかを取り出しながら彼に指示を仰いだ。けどウェーアは、自分でできるからって、勝手に一人で治療を始める。
『・・・そちの足ならば、二人が持つケイより治るやもしれぬ』
グイッと頭を下げてきたラルクが、そんな呟きを頭に送ってきた。
「本当?」
わたしは期待を込めた眼差しで銀色の目を見上げる。ケイで治るんだったらそんな楽な事はない。
『むう。我、試みしことあらんばかりに、真 治るとは言えぬ』
「んー・・・。ま、何事もやってみなきゃね?」
ニッコリ笑って懐からワグナー・ケイを取り出した。
「お、おい!俺を実験台にするな。ラルクは治るかどうかわからないって言っているんだぞ?余計に悪化したらどうするんだ!?これぐらい平気だから、頼むから変な事はしないでくれ!」
ウェーアは危険を感じたのか、慌てた様子で早口にまくし立てる。そんな暴れまくる彼を、ナギとスイシュンとラルクの手と爪ががっしりと押さえつけた。
「ねえ、どっちがいいと思う?」
ティーイア・ケイとリーブズ・ケイを手に取り、首を傾げる。
「放せ!――ラルク、腹に爪が立っている!貴様俺の傷を増やす気か!?」
「そうね・・・私はセリナの判断に任せるわ」
「って、ナギ!セリナなんかに任せるな。何をするのかわかったもんじゃない!」
ラルクに文句を言っていたウェーアは、ナギのそれを耳にすると今度は彼女に矛先を向けた。わたしはそんな彼をちらりと見ると、二つの石をよく見えるようにかか掲げて、
「まあ、こんな時は両方だね」
と、満面の笑みでケイを火傷の負った足へ近づけた。
「悪くなったら一生祟ってやるからなセリナ!」
「治ったら一生感謝してね、ウェーア」
わたしは彼を軽くいなし、どうすればいいかわからなかったから、とりあえずケイを足に当ててみた。
すると、途端に傷口が淡く光り出す。
ウェーアはうめきを洩らし、私たちはそれぞれの反応を示した。
光は、ケイを離した今でも輝きをやめることはなかった。
『む。暫し待つが良い。さすれば、ヘーリ消え、傷、癒されると・・・』
ラルクがそう言うと、ナギが“ヘーリとは何ですか”と尋ねた。
「ヘーリって言うのは、今の言葉に直すと“光”だ。かなり昔に使われていたものだから、知っている奴はほとんどいないだろうな」
ラルクの代わりにウェーアが答えた。
「そうなのですか。ラルクさん、ラルクさんもやはりここから外へ出る事はできないのですか?」
またナギが質問する中、ウェーアはまだ光っている足を気味悪げに見ながら座り直し、上のシャツを脱ぎ始めた。
『む。ナギが言うこと真なり。よって、我、時を持て余すこと暫し。されど、巨大なる力、我に外界を――』
「うわっ。ウェーア背中も酷いじゃん。よくそんなんで平気って言ってられるよね。――あー。血が出てるー。気持ち悪い・・・」
「嫌ならどっか向いていろ」
「あら。ウェーアさん、一人ではお辛いでしょう?お手伝いいたしましょうか?」
「ナギさん、こういう奴はほっといても死にませんから大丈夫ですよ。それより、見せたい物があるんです。来てもらえませんか?――いいですよね?ラルク様」
『む、むぅ・・・』
言葉を濁すラルクを尻目に、ナギとスイシュンはどこかへ行ってしまった。わたしはウェーアのマントを被って二人を見送る。マントは丁度いい冷気を放っていて、ヒンヤリ気持ちいい。いや〜、極楽極楽。
「そういえば、あいつはずっとお前に仕えているのか?両親は・・・」
二人の姿が見えなくなってからしばらくして、ウェーアが唐突に口を開いた。
『スイシュン、孤児なり。故に我が育てた』
「そうか。・・・もしかしたら、ナギに母親の面影でも見たのかもしれないな」
ラルクがどうやって人間の子供を育てたのかはさて置き、あいつも結構苦労してるのかも。そう思うと、あのひねくれた性格にも頷ける所がある。
「俺は何度かエバパレイトに来たことがあるんだが・・・ラルク、町に入った途端いつもより暑い気がしたんだが、俺の気のせいか?」
『否。確かに、外が温度 上がりつつある』
「この辺りが暑いのはお前のせいでもあるんだろう?困っている人も結構いた。どうにかならないのか?」
すごいな、たった一頭でこんなに広範囲の気温を上げちゃうんだ。
『むぅ・・・それが、何故か我の力、及ばず。我も頭を悩ませておるところ』
「制御がきかない?どういうことなんだ」
『我には、とんと・・・』
「そうか」
二人とも考え込んで黙った。確かに、精霊の手を離れて気候が一人歩きし始めたとしたら、大変なことになるかもしれない。
「・・・最後に一つ聞きたいことがある。――ここは相当な暑さだよな?それなのにも関わらず、なぜこれだけの高温で服が発火しなかったり、楽に、それこそ外にいる時と同じように呼吸ができたりするんだ?」
『む。それは、そち等青が炎通り、我の所に来たが為』
「ああ、あそこのか?どういう仕組みなんだ?」
『仕組みは我にもわからぬ。ただ、そち等があそこ、通るが時に、そち等の体にちと細工をした、と考えるが妥当か』
「そうか」
『むぅ・・・。手を貸すか?ウェーア』
たぶんてこずっているんだろう。そんな彼を見かねてか、ラルクが声を掛けた。それに、
「どうやってだ?」
ウェーアは笑いを含んだ声で尋ねる。そしたらラルクは困ったように唸って、考え込んじゃった。わたしは小さく吹き出して、肩を揺らした。
『な、何故笑う』
ラルクが戸惑うから、わたしは余計に笑いがこみ上げてきて、しばらく発作が治まらなかった。
「セリナ。あー・・・その・・・」
コトッと、ビンを置く音がして、やっと笑いが治まったわたしを呼ぶ声がした。
まだナギたちは帰ってこない。
何?って振り向くと、目が合って彼はなぜか慌てて視線をずらした。
『む。布、そちに巻いて欲しいと、か?』
ウェーアの代わりにラルクが言った。どことなく楽しそうな雰囲気で、ちょっと嫌味。
それぐらい自分で言いなよ。
そう思いながらも、マントを頭から被ったまま、彼の方へ行った。ウェーアの足は、いつの間にか光るのをやめていて、すごい事に焦げたはずのズボンまで元通りになっていた。
「ねえ、他の傷にはケイを使っちゃいけないの?」
ふと思いついたわたしは、犬のように頭を前足に乗せて寝そべっているラルクに尋ねてみた。
『むう・・・おそらく効かぬと思いけるが。試みるか?』
「試すなよ」
ウェーアはそれを聞くとわたしから身を引いた。
わたしは心の中で舌打ちをした。
ウェーアの治療が終わって後片付けをしていると、やっとナギとスイシュンが帰ってきた。お帰りって言って、何してたの?って聞いたら、ナギは言葉を濁して後で、と言った。
『ナギ、セリナ。我、そち等にケイを授けん。近こう寄れ』
私たちが彼の前まで来ると、ポッと音を立てて小さな火が二つ、目の前に浮かび上がった。驚いて見ているとその炎はゆっくりと消え、中から深紅の丸い宝石が現れた。石の中ではそれ自体が生きてるのか、炎がちらついていた。
『我がワグナー・ケイ、ムレイフ・ケイなり』
ラルクが厳かに告げると、浮かんでいたケイは、すうっとわたしとナギの手の中に納まった。
「そういえばラルクさん。なぜ精霊さん達は私とセリナの二人にケイをくださるのですか?セリナにだけで、充分なのでは?」
わたしがしげしげとムレイフ・ケイを眺めていると、俄かにナギが言った。
『む。故あるかな。我、二人が人間にケイ授けるべしと教わらん。何故なるかは我、知るすべ術なし』
「誰にそう教わった?」
ウェーアだ。
『・・・“巨大なる力”より聞き入らん』
まただ。また、巨大な力。いったい何なんだろう・・・
「ラルク様、その巨大な力ってなんですか?今日こそお教えください!」
「私からもお願い致します」
スイシュンに続いてナギが言うと、彼は赤い髪をうれしそうに躍らせながら彼女を見返した。けど、
『知る必要あらん』
そう短く発せられた言葉は、振り下ろされた氷の刃のごとく、容赦のない冷たさで私たちの脳を貫いた。
場の空気がピンッと糸を張り、灼熱の暑さにもかかわらず背筋が凍るみたいだった。
そんな中で一人――もとい、一頭は体を持ち上げると、
『我、港へ出る帰りが道、教えん。あそこより行くが良い』
彼の示した先には、横に広い洞窟があった。どうやらあの話はタブ−みたい。すっごく機嫌が悪そう。スイシュンに当たるようなことにならなきゃいいけど。
「…じゃあ行くとするか。どちらにしろ、あまり長くいられるような所じゃないしな。――ああ、ラルク。傷、ちゃんと治療してもらえよ?」
不安と戸惑いの中、ウェーアが荷物を持って立ち上がる。ついでに、わたしが被っていたマントも取られた。
『心配無用。我が再生力によれば とるにたらん』
ラルクはいくらか穏やかな声で尻尾を振って見せた。結構深く切れてたはずなのに、どこが切られたのかわからない。そして、やっと元の調子に戻って、
『ウェーア、ぬしは不羈の才、多く持つる。体に気を使え。皆も、な』
「それはどうも」
「そんじゃ、バイバイラルク。石、ありがとね」
「さようなら、ラルクさん、スイシュン」
『む』
「ナギさん、さっきの事絶対忘れないでくださいね!」
そうして、私たちはラルクの住家を後にした。
ラルクが教えてくれた道は、三人横に並んでもまだゆとりのある広い洞窟だった。周りも入って来た時と同じような、緑色の光に照らされていたから進みやすかった。
「ねえナギ、あのスイシュンとか言う奴と何してたの?」
しばらくして訊いた。ナギは少し笑って答えてくれた。
「あの子ね、私にヤコウ虫の群れを見せてくれたの。そこで、もしよければ私たちの旅が終わったら、私の家を訪ねていいかって、聞かれたの」
「へぇー、それで?」
「私は・・・私の家、両親が遠くへ働きに行っているでしょう?だから重いものを運ぶ時とか、大変なの。それで、男の子が一人いれば使えるし、エナお婆ちゃんも喜ぶかしらって思って。是非って、言っておいたわ」
さすがはナギ。相手の気持ちを利用して役立てる気だね。ちょっとかわいそうだけど、あいつならОK。むしろ使っちゃってください。
「あのガキ、結構思ったことがすぐ口に出るようだな。もっと小さければまだ可愛げがあるが・・・」
「では、ウェーアさんとは正反対ですね」
ナギがクスリと笑う。ウェーアは少しむっとした顔でその理由を聞いた。
「あら、ご自分でわかっていらっしゃるのでは?」
「意地の悪い奴だ――っ!なんだ!?」
「きゃあぁぁぁああ!嫌ぁ!来ないでこないでこないで!」
突如としてそこら中から甲高い、黒板を爪で引っかくような音がしたかと思うと、黒っぽい何かがこっちに向かって飛び出して来た。ウェーアに続いてナギが叫び声を上げて、わたしはパニックになり、自分が何をしているのかわからなくなった。
「嫌!やだ!なにこれぇ!うわっ――うえぇ」
逃げ惑う中、いきなり落ちてきた“それ”をグシャッと踏んじゃって、おまけに白い物が出てきたところを見ちゃった。
黒っぽい光沢を持つ“それ”は、三十センチぐらいはあるゴキブリに、たくさんのムカデの足を付けたような奴で・・・ああ、だめだ。気持ち悪くてこれ以上見ていたくない。しかも全体に毛がモジャモジャ生えてるし〜。
とかなんとか思ってるうちに、巨大ゴキブリもどきが正面から突っ込んできた。わたしはいきなりの事で何にもできず、迫ってくる触覚を――
「――え?」
目の前に銀の閃光が閃いた。かと思うと、さっきまでいたゴキブリもどきがいなくなっていた。
――ぐるるるるる・・・
どこかで低いうな唸り声がして、片っ端からゴキブリもどきを倒していった。
「セリナ、ナギ!伏せろ!!」
銀色の何かの姿をはっきり確認する前に、ウェーアの警告が洞窟に響き渡った。わたしはなるべくあれの死体が少ないところを選んで、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「いいかげん――消えろ!」
ウェーアの怒号と共に、剣風がゴォッと唸った。
そして、一瞬にして静寂が舞い戻って――来なかった。そろそろと頭を上げると、ゴキブリもどきの残骸の中、二つの影が対峙している姿が目に入った。その片方が、低く喉を震わせている。
「あ。あの時のワンちゃん?」
「イトレス・スビート」
すぐにウェーアに訂正された。
「・・・そうとも言うね」
「そうとしか言わない」
受け答えが冷たかった。ちょっと寂しい。
「セリナが助けたと言っていた、あの子供ですか?ですが、どうしてこのような所に?」
ナギが肩で息をしながら聞いた。彼女の周りには、ゴキブリもどきの累々がたくさん落ちている。カバンがその凶器だったのか、白いモノが所々に付いていた。最初の叫び声からしてナギも相当、こういうたぐい類の虫は嫌いみたい。
「さあな。けど、こいつはずっと俺たちをつけて来ていた。何か目的があるんじゃないのか?」
ウェーアはイトレス・スビートを睨み付けながら答える。なんとも言えない緊張感が、一人と一匹の間に生まれていた。彼は真剣そのものの顔つきだ。
また、ぐるるるる・・・とイトレスが唸り声を上げる。と、
『獣、仇討ちと恩を返しに来たり』
いきなりラルクの声が頭の中に入ってきた。
「親の仇か。なら、しかたがないな」
ウェーアは火の精霊の、唐突な登場にも怯まず一人納得したように頷いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!しかたがないって・・・どういうことなの」
彼がイトレスに何をしようとしているのかは、わかってる。けど、わたしは聞かずにはいられなかった。
「・・・・・・・・」
ウェーアは答えない。無言で銀色の毛並みを持つ獣を睨んでいるだけ。
「ウェーアさん・・・」
ナギが心配そうな声で彼に近づく。
「獣達の世界に綺麗事は通用しない」
きっぱりと言い切る。彼の足がジリッと間合いを詰める。
「やだよ」
「動くなセリナ」
ウェーアの鋭い眼光に射抜かれた。それでもわたしの足は止まらない。
「セリナ!」
ゆっくりとイトレス・スビートに近づくわたしを止めようと、横から腕が伸びて来た。するりとそれを躱してわたしは一気にイトレスに飛びついた。
銀色のワンちゃんは、ウェーアに襲い掛からないようにしっかりと抱きついたわたしに、困惑しているようだった。
「なんのつもりだセリナ!早く離れろ!」
無言で首を振って答えた。
「ケガをさせられてもいいのか。そいつは一応君に恩を感じているようだが、いつ気が変わるかわからない。離れろ」
「やだ。この子はそんな事しない」
わたしは呪縛から逃れようともがくイトレスを必死に押えた。
「何を根拠にそんな事が言える。――ナギ、どういうつもりだ。君までこの獣を庇うのか!」
「私はセリナを信じます」
チラッと後ろを見ると、ナギがわたしとウェーアの間に立っていた。ウェーアは煮え切らない表情でナギとわたしを交互に見ている。
「なぜ・・・・・もういい。これは俺とそいつの問題だ。そこをどけ!」
ウェーアが怒鳴りつけると、イトレスも後押しされるようにますます暴れ出した。
わたしは腕を振り切られないように懸命にしがみ付いていた。
ナギの悲鳴と、倒れ込む鈍い音がした。
ウェーアの靴音が洞窟に反響する。
イトレスがわたしの耳元で激しく吠え立てた。そして、
「セリナ」
怒りを押し殺した無感情な声がすぐ後ろでした。怒鳴られるよりこっちの方が数倍恐い。
「やだよ」
暴れるイトレスに揺さ振られながら、わたしは震える声を絞り出した。
「頼むから」
「絶対やだ」
「どけ。退いてくれ」
「やだ」
「――っ!退けと言うのがわからないのか!」
「やだって言ってるのがわからないの!?」
今にもこぼ溢れそうな涙をグッとこらえて彼を睨む。ウェーアは怒りに中に困惑を見せて、そこに立ち竦んでいた。
「絶対どかない。復讐なんてさせないから。戦わせたりなんかさせないから」
「…君の言っている事はたんなる戯言だ。奇麗事にすぎない」
わたしは答えず、イトレスの軟らかい毛並みに顔を埋めた。
「なぜそうまでして庇う」
また、硬い声でわたしを責める。
「庇いたいから」
「なぜ俺の邪魔をする」
「ウェーアにこれ以上、無駄に命を奪って欲しくないから」
「君は――!」
「いけない?」
いくらか暴れるのを止めたイトレスから顔を上げて、わたしは珍しく苛付いている彼を見た。迷っているのか、困っているのか、怒っているのか。ウェーアは眉を寄せてわたしを見下ろしている。
「こうしなきゃいけないって、二人を戦わせちゃいけないって思ったから。それじゃあ、理由にならない?」
子供の言い訳と同じ。何の理屈もない。けど、それは帰る事のできない事実で、もっと言っちゃえば体と口が勝手に動いたから。
しばらく睨み合って、恐い顔をしているウェーアが何か言おうと口を開け―――
「――ひっ!」
引きつったナギの悲鳴に阻まれた。
いったい、どちらが先に動いたのか。
イトレスがわたしの戒めから脱出するのと、ウェーアが迫っていた危険を察知するのがほぼ同時なら、双方の刃が“それ”に食い込むのも同じぐらいだった。
巨大なそれは突然現れて、悲惨な事に一瞬にして葬られた。
胴を切断されて、頭を噛み付かれたそれがドサッと倒れる。よくよく見ると怪物は、カマキリに良く似ていた。大きさは桁外れにでっかいけど。
「なんだ。二人とも息ピッタリじゃん」
「・・・・・・・・・は?」
倒れたカマキリもどきの前で見詰め合うウェーアとイトレス、そしてナギの視線がわたしに集められた。
「ん?だって、練習もしてないのに同じタイミングでそいつ倒しちゃうなんて。ねぇ?」
「え!?ええと・・・」
ナギに同意を求めたら、何でか知らないけど苦笑いされた。
「いや、セリナ、今のは――」
「本当は仲いいんだよね?」
「セリナ、人の話を――」
「さ、行こう。いつまでもこんな暑い所にいたらゆだっちゃうよ」
わたしは立ち上がって、先頭を行った。ウェーアが後ろから何か言ってきたけど、あえて無視。
「・・・ラルク、今の話聞いていたな?こいつに伝えられるなら、納得のいくように説明してやれ。俺はもう、戦う気も失せた」
『む。承知した』
ラルクのおかげでイトレスにも納得してもらい、妙な緊張感を携えたまま私たちは少し進んで、洞窟の中で一夜を明かした。




