表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/110

IV-17新たな出会い

□□□


  彼はラルクとしばらく話していたけど、私たちには「ふざけるな!」ぐらいしか聞こえなかった。ラルクの声も、電源を切られたみたいに全く聞こえてこなかった。


 「ウェーア!」


 彼はラルクの首から飛び降りると、崩れるように膝を付いた。わたしはびっくりして、大急ぎで駆け寄った。

「大丈夫?足、酷いよ?」

「すぐに治療したしませんと」

ナギも傍らに膝ま付き、ウェーアの顔を覗き込んだ。

「ラ、ラルク様!どうして俺だけ出られないんですか!?」

 わたしとナギがあわあわしていると、後ろの方でドンドン壁を叩く音がした。そういえば、何かと文句をつけてくる奴がいない。

『二人、ティーイア・ケイ持ちいたるが故、我が膜、破れたり。今し方解く』

スイシュンも加わり、ウェーアのマントや荷物から薬とかを取り出しながら彼に指示を仰いだ。けどウェーアは、自分でできるからって、勝手に一人で治療を始める。


『・・・そちの足ならば、二人が持つケイより治るやもしれぬ』

グイッと頭を下げてきたラルクが、そんな呟きを頭に送ってきた。

「本当?」

わたしは期待を込めた眼差しで銀色の目を見上げる。ケイで治るんだったらそんな楽な事はない。

『むう。我、試みしことあらんばかりに、真 治るとは言えぬ』

「んー・・・。ま、何事もやってみなきゃね?」

ニッコリ笑って懐からワグナー・ケイを取り出した。

「お、おい!俺を実験台にするな。ラルクは治るかどうかわからないって言っているんだぞ?余計に悪化したらどうするんだ!?これぐらい平気だから、頼むから変な事はしないでくれ!」

ウェーアは危険を感じたのか、慌てた様子で早口にまくし立てる。そんな暴れまくる彼を、ナギとスイシュンとラルクの手と爪ががっしりと押さえつけた。

「ねえ、どっちがいいと思う?」

ティーイア・ケイとリーブズ・ケイを手に取り、首を傾げる。

「放せ!――ラルク、腹に爪が立っている!貴様俺の傷を増やす気か!?」

「そうね・・・私はセリナの判断に任せるわ」

「って、ナギ!セリナなんかに任せるな。何をするのかわかったもんじゃない!」

 ラルクに文句を言っていたウェーアは、ナギのそれを耳にすると今度は彼女に矛先を向けた。わたしはそんな彼をちらりと見ると、二つの石をよく見えるようにかか掲げて、

「まあ、こんな時は両方だね」

と、満面の笑みでケイを火傷の負った足へ近づけた。

「悪くなったら一生祟ってやるからなセリナ!」

「治ったら一生感謝してね、ウェーア」

 わたしは彼を軽くいなし、どうすればいいかわからなかったから、とりあえずケイを足に当ててみた。

 すると、途端に傷口が淡く光り出す。

 ウェーアはうめきを洩らし、私たちはそれぞれの反応を示した。

 光は、ケイを離した今でも輝きをやめることはなかった。

『む。暫し待つが良い。さすれば、ヘーリ消え、傷、癒されると・・・』

ラルクがそう言うと、ナギが“ヘーリとは何ですか”と尋ねた。

「ヘーリって言うのは、今の言葉に直すと“光”だ。かなり昔に使われていたものだから、知っている奴はほとんどいないだろうな」

ラルクの代わりにウェーアが答えた。

「そうなのですか。ラルクさん、ラルクさんもやはりここから外へ出る事はできないのですか?」

またナギが質問する中、ウェーアはまだ光っている足を気味悪げに見ながら座り直し、上のシャツを脱ぎ始めた。

『む。ナギが言うこと真なり。よって、我、時を持て余すこと暫し。されど、巨大なる力、我に外界を――』

「うわっ。ウェーア背中も酷いじゃん。よくそんなんで平気って言ってられるよね。――あー。血が出てるー。気持ち悪い・・・」

「嫌ならどっか向いていろ」

「あら。ウェーアさん、一人ではお辛いでしょう?お手伝いいたしましょうか?」

「ナギさん、こういう奴はほっといても死にませんから大丈夫ですよ。それより、見せたい物があるんです。来てもらえませんか?――いいですよね?ラルク様」

『む、むぅ・・・』

 言葉を濁すラルクを尻目に、ナギとスイシュンはどこかへ行ってしまった。わたしはウェーアのマントを被って二人を見送る。マントは丁度いい冷気を放っていて、ヒンヤリ気持ちいい。いや〜、極楽極楽。

 「そういえば、あいつはずっとお前に仕えているのか?両親は・・・」

 二人の姿が見えなくなってからしばらくして、ウェーアが唐突に口を開いた。

『スイシュン、孤児なり。故に我が育てた』

「そうか。・・・もしかしたら、ナギに母親の面影でも見たのかもしれないな」

 ラルクがどうやって人間の子供を育てたのかはさて置き、あいつも結構苦労してるのかも。そう思うと、あのひねくれた性格にも頷ける所がある。

「俺は何度かエバパレイトに来たことがあるんだが・・・ラルク、町に入った途端いつもより暑い気がしたんだが、俺の気のせいか?」

『否。確かに、外が温度 上がりつつある』

「この辺りが暑いのはお前のせいでもあるんだろう?困っている人も結構いた。どうにかならないのか?」

 すごいな、たった一頭でこんなに広範囲の気温を上げちゃうんだ。

『むぅ・・・それが、何故か我の力、及ばず。我も頭を悩ませておるところ』

「制御がきかない?どういうことなんだ」

『我には、とんと・・・』

「そうか」

 二人とも考え込んで黙った。確かに、精霊の手を離れて気候が一人歩きし始めたとしたら、大変なことになるかもしれない。

「・・・最後に一つ聞きたいことがある。――ここは相当な暑さだよな?それなのにも関わらず、なぜこれだけの高温で服が発火しなかったり、楽に、それこそ外にいる時と同じように呼吸ができたりするんだ?」

『む。それは、そち等青が炎通り、我の所に来たが為』

「ああ、あそこのか?どういう仕組みなんだ?」

『仕組みは我にもわからぬ。ただ、そち等があそこ、通るが時に、そち等の体にちと細工をした、と考えるが妥当か』

「そうか」

『むぅ・・・。手を貸すか?ウェーア』

たぶんてこずっているんだろう。そんな彼を見かねてか、ラルクが声を掛けた。それに、

「どうやってだ?」

ウェーアは笑いを含んだ声で尋ねる。そしたらラルクは困ったように唸って、考え込んじゃった。わたしは小さく吹き出して、肩を揺らした。

『な、何故笑う』

ラルクが戸惑うから、わたしは余計に笑いがこみ上げてきて、しばらく発作が治まらなかった。


 「セリナ。あー・・・その・・・」

コトッと、ビンを置く音がして、やっと笑いが治まったわたしを呼ぶ声がした。

 まだナギたちは帰ってこない。

 何?って振り向くと、目が合って彼はなぜか慌てて視線をずらした。

『む。布、そちに巻いて欲しいと、か?』

ウェーアの代わりにラルクが言った。どことなく楽しそうな雰囲気で、ちょっと嫌味。

 それぐらい自分で言いなよ。

 そう思いながらも、マントを頭から被ったまま、彼の方へ行った。ウェーアの足は、いつの間にか光るのをやめていて、すごい事に焦げたはずのズボンまで元通りになっていた。

 「ねえ、他の傷にはケイを使っちゃいけないの?」

ふと思いついたわたしは、犬のように頭を前足に乗せて寝そべっているラルクに尋ねてみた。

『むう・・・おそらく効かぬと思いけるが。試みるか?』

「試すなよ」

ウェーアはそれを聞くとわたしから身を引いた。

 わたしは心の中で舌打ちをした。


 ウェーアの治療が終わって後片付けをしていると、やっとナギとスイシュンが帰ってきた。お帰りって言って、何してたの?って聞いたら、ナギは言葉を濁して後で、と言った。


 『ナギ、セリナ。我、そち等にケイを授けん。近こう寄れ』

 私たちが彼の前まで来ると、ポッと音を立てて小さな火が二つ、目の前に浮かび上がった。驚いて見ているとその炎はゆっくりと消え、中から深紅の丸い宝石が現れた。石の中ではそれ自体が生きてるのか、炎がちらついていた。

『我がワグナー・ケイ、ムレイフ・ケイなり』

ラルクが厳かに告げると、浮かんでいたケイは、すうっとわたしとナギの手の中に納まった。

 「そういえばラルクさん。なぜ精霊さん達は私とセリナの二人にケイをくださるのですか?セリナにだけで、充分なのでは?」

わたしがしげしげとムレイフ・ケイを眺めていると、俄かにナギが言った。

『む。故あるかな。我、二人が人間にケイ授けるべしと教わらん。何故なるかは我、知るすべ術なし』

「誰にそう教わった?」

ウェーアだ。

『・・・“巨大なる力”より聞き入らん』

まただ。また、巨大な力。いったい何なんだろう・・・

「ラルク様、その巨大な力ってなんですか?今日こそお教えください!」

「私からもお願い致します」

スイシュンに続いてナギが言うと、彼は赤い髪をうれしそうに躍らせながら彼女を見返した。けど、

『知る必要あらん』

そう短く発せられた言葉は、振り下ろされた氷の刃のごとく、容赦のない冷たさで私たちの脳を貫いた。

 場の空気がピンッと糸を張り、灼熱の暑さにもかかわらず背筋が凍るみたいだった。

 そんな中で一人――もとい、一頭は体を持ち上げると、

『我、港へ出る帰りが道、教えん。あそこより行くが良い』

彼の示した先には、横に広い洞窟があった。どうやらあの話はタブ−みたい。すっごく機嫌が悪そう。スイシュンに当たるようなことにならなきゃいいけど。

 「…じゃあ行くとするか。どちらにしろ、あまり長くいられるような所じゃないしな。――ああ、ラルク。傷、ちゃんと治療してもらえよ?」

 不安と戸惑いの中、ウェーアが荷物を持って立ち上がる。ついでに、わたしが被っていたマントも取られた。

『心配無用。我が再生力によれば とるにたらん』

ラルクはいくらか穏やかな声で尻尾を振って見せた。結構深く切れてたはずなのに、どこが切られたのかわからない。そして、やっと元の調子に戻って、

『ウェーア、ぬしは不羈ふきの才、多く持つる。体に気を使え。皆も、な』

「それはどうも」

「そんじゃ、バイバイラルク。石、ありがとね」

「さようなら、ラルクさん、スイシュン」

『む』

「ナギさん、さっきの事絶対忘れないでくださいね!」

 そうして、私たちはラルクの住家を後にした。


 ラルクが教えてくれた道は、三人横に並んでもまだゆとりのある広い洞窟だった。周りも入って来た時と同じような、緑色の光に照らされていたから進みやすかった。

「ねえナギ、あのスイシュンとか言う奴と何してたの?」

 しばらくして訊いた。ナギは少し笑って答えてくれた。

「あの子ね、私にヤコウ虫の群れを見せてくれたの。そこで、もしよければ私たちの旅が終わったら、私の家を訪ねていいかって、聞かれたの」

「へぇー、それで?」

「私は・・・私の家、両親が遠くへ働きに行っているでしょう?だから重いものを運ぶ時とか、大変なの。それで、男の子が一人いれば使えるし、エナお婆ちゃんも喜ぶかしらって思って。是非って、言っておいたわ」

 さすがはナギ。相手の気持ちを利用して役立てる気だね。ちょっとかわいそうだけど、あいつならОK。むしろ使っちゃってください。

「あのガキ、結構思ったことがすぐ口に出るようだな。もっと小さければまだ可愛げがあるが・・・」

「では、ウェーアさんとは正反対ですね」

ナギがクスリと笑う。ウェーアは少しむっとした顔でその理由を聞いた。

「あら、ご自分でわかっていらっしゃるのでは?」

「意地の悪い奴だ――っ!なんだ!?」

「きゃあぁぁぁああ!嫌ぁ!来ないでこないでこないで!」

 突如としてそこら中から甲高い、黒板を爪で引っかくような音がしたかと思うと、黒っぽい何かがこっちに向かって飛び出して来た。ウェーアに続いてナギが叫び声を上げて、わたしはパニックになり、自分が何をしているのかわからなくなった。

「嫌!やだ!なにこれぇ!うわっ――うえぇ」

 逃げ惑う中、いきなり落ちてきた“それ”をグシャッと踏んじゃって、おまけに白い物が出てきたところを見ちゃった。

 黒っぽい光沢を持つ“それ”は、三十センチぐらいはあるゴキブリに、たくさんのムカデの足を付けたような奴で・・・ああ、だめだ。気持ち悪くてこれ以上見ていたくない。しかも全体に毛がモジャモジャ生えてるし〜。

 とかなんとか思ってるうちに、巨大ゴキブリもどきが正面から突っ込んできた。わたしはいきなりの事で何にもできず、迫ってくる触覚を――


「――え?」


目の前に銀の閃光が閃いた。かと思うと、さっきまでいたゴキブリもどきがいなくなっていた。

 

 ――ぐるるるるる・・・


 どこかで低いうな唸り声がして、片っ端からゴキブリもどきを倒していった。

「セリナ、ナギ!伏せろ!!」

 銀色の何かの姿をはっきり確認する前に、ウェーアの警告が洞窟に響き渡った。わたしはなるべくあれの死体が少ないところを選んで、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「いいかげん――消えろ!」

 ウェーアの怒号と共に、剣風がゴォッと唸った。

 そして、一瞬にして静寂が舞い戻って――来なかった。そろそろと頭を上げると、ゴキブリもどきの残骸の中、二つの影が対峙している姿が目に入った。その片方が、低く喉を震わせている。

「あ。あの時のワンちゃん?」

「イトレス・スビート」

すぐにウェーアに訂正された。

「・・・そうとも言うね」

「そうとしか言わない」

受け答えが冷たかった。ちょっと寂しい。

「セリナが助けたと言っていた、あの子供ですか?ですが、どうしてこのような所に?」

ナギが肩で息をしながら聞いた。彼女の周りには、ゴキブリもどきの累々がたくさん落ちている。カバンがその凶器だったのか、白いモノが所々に付いていた。最初の叫び声からしてナギも相当、こういうたぐい類の虫は嫌いみたい。

「さあな。けど、こいつはずっと俺たちをつけて来ていた。何か目的があるんじゃないのか?」

ウェーアはイトレス・スビートを睨み付けながら答える。なんとも言えない緊張感が、一人と一匹の間に生まれていた。彼は真剣そのものの顔つきだ。

 また、ぐるるるる・・・とイトレスが唸り声を上げる。と、

『獣、仇討あだうちと恩を返しに来たり』

いきなりラルクの声が頭の中に入ってきた。

「親の仇か。なら、しかたがないな」

ウェーアは火の精霊の、唐突な登場にも怯まず一人納得したように頷いた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!しかたがないって・・・どういうことなの」

 彼がイトレスに何をしようとしているのかは、わかってる。けど、わたしは聞かずにはいられなかった。

「・・・・・・・・」

ウェーアは答えない。無言で銀色の毛並みを持つ獣を睨んでいるだけ。

「ウェーアさん・・・」

ナギが心配そうな声で彼に近づく。

「獣達の世界に綺麗事は通用しない」

きっぱりと言い切る。彼の足がジリッと間合いを詰める。


「やだよ」


「動くなセリナ」

ウェーアの鋭い眼光に射抜かれた。それでもわたしの足は止まらない。

「セリナ!」

 ゆっくりとイトレス・スビートに近づくわたしを止めようと、横から腕が伸びて来た。するりとそれを躱してわたしは一気にイトレスに飛びついた。

 銀色のワンちゃんは、ウェーアに襲い掛からないようにしっかりと抱きついたわたしに、困惑しているようだった。

「なんのつもりだセリナ!早く離れろ!」

 無言で首を振って答えた。

「ケガをさせられてもいいのか。そいつは一応君に恩を感じているようだが、いつ気が変わるかわからない。離れろ」

「やだ。この子はそんな事しない」

わたしは呪縛から逃れようともがくイトレスを必死に押えた。

「何を根拠にそんな事が言える。――ナギ、どういうつもりだ。君までこの獣を庇うのか!」

「私はセリナを信じます」

 チラッと後ろを見ると、ナギがわたしとウェーアの間に立っていた。ウェーアは煮え切らない表情でナギとわたしを交互に見ている。

「なぜ・・・・・もういい。これは俺とそいつの問題だ。そこをどけ!」

ウェーアが怒鳴りつけると、イトレスも後押しされるようにますます暴れ出した。

 わたしは腕を振り切られないように懸命にしがみ付いていた。

 ナギの悲鳴と、倒れ込む鈍い音がした。

 ウェーアの靴音が洞窟に反響する。

 イトレスがわたしの耳元で激しく吠え立てた。そして、


「セリナ」


 怒りを押し殺した無感情な声がすぐ後ろでした。怒鳴られるよりこっちの方が数倍恐い。


「やだよ」


暴れるイトレスに揺さ振られながら、わたしは震える声を絞り出した。

「頼むから」

「絶対やだ」

「どけ。退いてくれ」

「やだ」

「――っ!退けと言うのがわからないのか!」

「やだって言ってるのがわからないの!?」


 今にもこぼ溢れそうな涙をグッとこらえて彼を睨む。ウェーアは怒りに中に困惑を見せて、そこに立ち竦んでいた。


「絶対どかない。復讐なんてさせないから。戦わせたりなんかさせないから」

「…君の言っている事はたんなる戯言だ。奇麗事にすぎない」

わたしは答えず、イトレスの軟らかい毛並みに顔を埋めた。

「なぜそうまでして庇う」

また、硬い声でわたしを責める。

「庇いたいから」

「なぜ俺の邪魔をする」

「ウェーアにこれ以上、無駄に命を奪って欲しくないから」

「君は――!」


「いけない?」


 いくらか暴れるのを止めたイトレスから顔を上げて、わたしは珍しく苛付いている彼を見た。迷っているのか、困っているのか、怒っているのか。ウェーアは眉を寄せてわたしを見下ろしている。

「こうしなきゃいけないって、二人を戦わせちゃいけないって思ったから。それじゃあ、理由にならない?」

 子供の言い訳と同じ。何の理屈もない。けど、それは帰る事のできない事実で、もっと言っちゃえば体と口が勝手に動いたから。

 しばらく睨み合って、恐い顔をしているウェーアが何か言おうと口を開け―――


「――ひっ!」


 引きつったナギの悲鳴に阻まれた。

 


 いったい、どちらが先に動いたのか。


 イトレスがわたしの戒めから脱出するのと、ウェーアが迫っていた危険を察知するのがほぼ同時なら、双方の刃が“それ”に食い込むのも同じぐらいだった。

 巨大なそれは突然現れて、悲惨な事に一瞬にして葬られた。

 胴を切断されて、頭を噛み付かれたそれがドサッと倒れる。よくよく見ると怪物は、カマキリに良く似ていた。大きさは桁外れにでっかいけど。


「なんだ。二人とも息ピッタリじゃん」

「・・・・・・・・・は?」

倒れたカマキリもどきの前で見詰め合うウェーアとイトレス、そしてナギの視線がわたしに集められた。

「ん?だって、練習もしてないのに同じタイミングでそいつ倒しちゃうなんて。ねぇ?」

「え!?ええと・・・」

ナギに同意を求めたら、何でか知らないけど苦笑いされた。

「いや、セリナ、今のは――」

「本当は仲いいんだよね?」

「セリナ、人の話を――」

「さ、行こう。いつまでもこんな暑い所にいたらゆだっちゃうよ」

わたしは立ち上がって、先頭を行った。ウェーアが後ろから何か言ってきたけど、あえて無視。

 「・・・ラルク、今の話聞いていたな?こいつに伝えられるなら、納得のいくように説明してやれ。俺はもう、戦う気も失せた」

『む。承知した』

 ラルクのおかげでイトレスにも納得してもらい、妙な緊張感を携えたまま私たちは少し進んで、洞窟の中で一夜を明かした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ