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III-2決心

 帰路につきながら森の景色を楽しみながら歩いていると、

「おや、君は確かエナさんのところのお孫さんだね。お友達と散歩かな?」

ヒョロリというより、がりがりに痩せている背の高い男の人が違う道から現れた。

「「こんにちは」」

二人であいさつするとその人は微笑みながらわたしの方を見て、

「こんにちは。そっちの娘とは初対面だね。俺はダーユ。よろしく」

そう自己紹介してくれた。わたしがどうも、と頭を下げるとナギは、

「今日はお仕事お休みなのですか?」

と聞いた。すると彼はあたり前のようにさらりと答えた。

「俺はいつも通りの仕事だよ。これから一度家に帰ろうと思ってね」

「え?ですがダーユさんのお仕事は―――」

「そういえば、さっき滝の方が光ったような気がしたんだけど、何か見なかった?」

ナギの言葉をさえぎってダーユは目を細めた。下手に色々答えない方がいいよね。

「え?そうなの?私たち奥の方にいたけど、何にも見なかったよ?」

わたしはできるだけ、本当にそうだったとみえるように努めてみた。ばれなきゃいいけど・・・

「ふうん。じゃあ、俺の勘違いかな。呼び止めて悪かったね。じゃあ、また」

「あ、はい。さようなら」


 「ナギ、あの人嫌いなの?」

わたしは、彼の姿が完全に見えなくなるまで待って口を開いた。

「うーん。嫌い、と言うより・・・あんまりダーユさんのいい噂は聞かないものだから。その、少し変わった所があるみたいなの。思い込みが激しいと言うか、なんと言うか・・・」

「ふーん」

わたしの心の中で、何かが引っかかっていた。

 家に着き、ナギと話し合った結果、まずディスティニーの所へ行く事にした。ディグニさんと喋っている間に、いくつか聞きたい事が増えたからだ。

 そういえば、ナギも行くって言っちゃったけど、エナさんにはなんて説明するんだろ?ま、何とかなるかな?



                         ×××



〜いったい、どうすればいいんだろう。言ったとしても彼女は信じてくれるかな。許してくれるかな。

 私たちは黙したままそれぞれの部屋へ戻っていった。

 重い想いを背負って。どうしようかと、そればかりが頭の中で渦を巻いて・・・

 さっきまでは、こんなに悩んでなかったのに。〜




 昼過ぎ、予定通りタイレイム・イザーへ行った。壁には『ようこそ。前と同じように壁に手を』と刻まれていた。

 中に入って例のごとく真っ白な空間を進んで、突然現れた扉を開けると、そこには黄金に輝く草原――ではなく、今度はスカイブルーの海が私たちを迎えてくれた。

 わたしはその海が本物じゃない事を確認して、ぽつりと佇む彼を目指す。凪の海は、一歩足を踏み出すたびに小さな波紋が広がっていった。

「やあ、よく来てくれたね。ディグニから話は聞いてるよ」

彼はあいさつすると私たちに、またいつの間にか現れていた椅子を勧めた。さっそく精霊さんたちがどこに居るのか聞くと、ディスティニーはこれを見てくれないかな、と言ってパチンと指を鳴らした。すると、地面とは垂直に地図のような画像が現れた。そこには八つの大きな島と一つの大陸に名前が付いていた。

「ラービニはここだね」

と、地図(ラービニはディバインと書かれている大陸の隅の方にある)を指しながら続けた。

「それで、精霊達は大体この辺りにいるんだ」

また指を鳴らすと地図に赤い点が点いた。しかもそれは、てんでに散らばっている。

 わたしは溜息をついた。何年かかるかなあ。まあ、どこに居るのかわからないよりは――

「って、あれ?精霊って七人いるんだよね。・・・五つしかないけど・・・」

「うん、そうなんだ。光と闇の居場所だけわからなくってね。あ、そうだ、くどいようだけどこの印は大体の位置だからね。細かくはわからないから、その周辺って言う事でよろしく」

「なによそれー」

使えないやつ。わたしはそっと心の中で呟いた。

「なにか、手掛かりはないのですか?」

珍しくナギが焦っているみたいだ。

「うーん。正確に、とは言えないけど・・・」

ディスティニーがぐずるので、ついつい、大声で

「「何でもいいから教えて!!」」

と、二人で叫んだ。

 たじろいだディスティニーは落ち着いて、と言うと自信なさげに口を開く。

「一人だけ、知ってるかもしれない人がいるんだけど・・・。えーっと、たしか名前はディムロス・リーズって言って、この間話したノインさんの息子さんだと思うよ。ウィズダムに住んでると思うんだけど――」

「その方に聞けばわかるんですね?」

「いや、絶対って訳じゃあ・・・ウィズダムに行くしかないよ。行けば彼が知ってるのか否かわかるから」

「脅してでも聞き出さなきゃ!」

「また、過激なことを言うんだねセリナ」

ディスティニーはそんな私たちを見て苦笑いすると、不意に湖の底に沈んでいたモノをすくい上げた。

「ところでお二人さん。ナギのお婆さんはこの事を知ってるのかな?」

「あっ」

そうだった。エナさんはわたしの事を旅人だと思っている。それに、ナギはどうするんだろう?彼女がいなくなったら、エナさんは寂しがるだろうし、もしなにかあったら・・・

「一度、家に帰ってみたらどうだい?今後どうするかゆっくり考えてみて、旅に出る事にしたんなら、行く前にここに寄ってってよ。それだけの時間はまだあるし。ね?」

彼はなだめるように言いながら精霊たちのいそうな場所が印された地図をくれた。わたしは素直に頷き、それを受け取った。



「・・・ねえ、ディスティニーって、人間?」



勝手に口から言葉が漏れた。なぜかはわからない。




「僕は何処にでもいて、何処にもいない存在だよ」




わたしには、揺れる碧眼がひどく寂しそうに見えた。

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