番外編〜ディスティニー〜
タイトル通りの内容です。
本編とは関係ないですが、せっかく書いたので、載せときます。
1
上も下もないここはどこだ?
外の映像ばかりが飛び交い
途方もない情報が送られてくる
周りには誰もいない
『独りで・・・・・』
頭の中に、そんな言葉が響いた
独りで…なんだろう
僕の声ではなかった
何と言いたかったのだろう
…それを考えるのも楽しそうだ
――始まりの終わり――
2
朝が来た
眠らない僕に夜はない
外の動物が動き出した
また“狩”というものをしに行くのだろう
毎日が同じことの繰り返し
けれどもそれは生きるために行っていること
僕は…?
僕は何の為に監視をしているのだろう
何か食べなくてはいけない事はないから
生きる為に何かをする必要もない
ただ此処に存在だけ
時間という感覚も解らないまま
ただ外を見ている
3
だいぶ外の生活は発展してきた
外の生物は自らを“人間”と呼び
他の生物にそれぞれ
“動物”“虫”など様々な呼び名を付けた
建物を建て、家畜を育て、植物を育て、
商売をする
同時に僕のいる此処を訝しむよ
うになってきた
だが
誰も調べられる者はいなかった
僕自身も自分の居る所を知りたかった
それなのに
誰も此処に触れることさえできなかった
誰かと話したい
外ではどんな生活をしているのか
どんな話をしているのか
何が良くて何が悪いのか
聞きたい
僕のいる此処は
人間から見てどう見えているのだろう・・・
4
日に日に外の景色は変わっていく
外では多くの人間が生活し、生まれ、消えてゆく
“死”と言う言葉を聞いた
どういうモノなのだろう
言葉は多くの人が泣いている所で聞いた
“涙は悲しいときに流すもの”
誰かが言っていた
“カナシイ”・・・どういう感情だろう
“シ”…“セイ”…どういうモノなのだろう
“ヨロコビ”は?“ウレイ”は?
僕には
言葉としては知っていても
それを意味するところがよく解らない
僕はただ
人間を監視しているだけの存在
5
ある日
僕は僕のいる此処の近くの森の中に
僕と似ていて
少し違う存在に気が付いた
森の上に掛かった雲
その中から湧き出る水が
幾筋もの線を引いて
滝となる
その中に
僕と同じように
外に興味を持つ少女がいた
6
僕が少女に話し掛けると
彼女は特別驚きもせずに
返事を返してきた
彼女は
自分は水の神の跡継ぎで
外には出られないのだと言った
同じような望みを持つ僕達は
適度な距離を保ちつつ
ゆっくりと
互いを理解していった
7
ある日
一人の少年が此処に近付いてきた
彼は何をするでもなく
こっちを見上げたり、周りを調べたりと
長い間そこにいた
暗くなると少年は帰った
彼は翌日また来た
次の日も、その次も・・・・
少年は一日も欠かさず通い
必ず暗くなるまでいた
何日も、何年もそれは続いた
8
彼と話したいと思った
彼は此処に興味を持っている
僕も彼に興味を持っている
彼に聞きたい
僕は此処にいる
僕は此処から出られない
だから
彼を招きたい―――
9
一瞬何が起こったのか分からなかった
突然
何もかもが真っ白な光に包まれて
僕は上も下も分からなくなった
やっと光が収まって
辺りが見えるようになると
映像がひとつ増えている事に気付いた
彼がいる
先程まで外にいた彼が
僕と同じ此処にいる
僕は彼を
僕の所まで導いた
誰かに教えられた訳ではない
僕は自然とどうすればいいのか
解っていた
10
僕は入ってきた彼に話し掛けた
けれども彼は
声だけしか聞こえないようだ
僕は僕の形を作った
彼をひとつの面からしか見られなくなった
彼は僕を見た
僕達はたくさん話した
彼は初め
驚き、戸惑っていたが
そのうち心を開いてくれた
彼との付き合いは
何年も続いた
11
年を重ねる度に
彼の姿はどんどん変わっていった
“君のように変われずにいられたら”
彼は何度もこぼした
しだいに
彼は会いに来る回数を
減らしていった
12
彼は来るのを止めてしまった
何日も待った
たとえ彼が何日も来れなくても
必ず顔を見せてくれると思っていた
彼が来なくなって
何日が経っただろう
一人の少女が訪ねて来た
しばらく困ったようにこちらを見上げて
何度か口を開きかけたが
結局何も言わずに走り去った
その手には
紙が大切そうに握られていた
13
少女は次の日も来た
僕は彼を懐かしく思い
少女を招き入れた
少女は彼と同じように
初めは驚き戸惑い
そして心を開いた
少女は彼の子供の子供で
彼に頼まれて此処へ来たと言った
僕は少女から紙を受け取り
ゆっくりと
彼の字に目を這わせた
彼は、謝ってばかりだった
自分の老いて行く姿を見られるのが怖く
足を運ぶことが出来なくなってしまった
自分はずっと遠くの
帰って来られない所へ行ってしまう
だから
“ごめん”そして“ありがとう”と
14
僕は少女に
彼はどこへ行ったのかと尋ねた
少女はお空の、うんと高い所へ行ったと
そう答えた
お空の星になって
僕達を見守っていると・・・
僕の目からは
暖かいような、冷たいような
水が溢れ出てきて
何がなんだか解らず拭う僕の手を
いつまでも濡らし続けた
15
それから何度も
彼のように僕に興味を持ってくれる
人間は現れた
僕は何度も悲しみというものを味わった
苦痛も、死も、恐怖も、悩みも
今の僕には
どういうものかよく解る
人間は
僕にそれらの感情を教えてくれた
逆に
喜び、楽しみ、歓喜、おもしろみ
そういう事も
教えてくれた
16
どれほどの時が
過ぎたのだろう
何人かの人間と接してきた僕は
だいぶ人間らしくなってきたと
思うようになってきた
表情も、しぐさも、話し方も・・・
けれどもそれは
ただの見せ掛け
僕はどこまでも人間らしく
そして
人間ではない
17
昔の言葉が
幾つか使われなくなった頃
僕は一人の科学研究者に出会った
彼は利発で優しく
話しやすい人だった
その日一日しか話さなかったが
僕達は互いを深く理解し
親友と呼び合うほどに
仲良くなった
彼は僕の苦しみを解ってくれ
しかし慰めるなんてことはしなかった
僕達は
またいつか会おうと別れを告げた
18
その数年後
僕は二人の少女に出会った
一人はこの町の子で
一人はどこか知らない世界の子
アルケモロスとその見届け人
詳しいことは解らない、けれども
僕は二人を道と導いた
二人はこれから
長い旅をするのだろう
そして僕も・・・・




