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XV-2 ........




バシャンッ!!









「冷たっ!?」



 突然、わたしは首まで水に浸かっていた。

 立ち上がると、闇の中にうっすらとアーチ状の影が浮かんでいる。


 「セリナ」


 ナギがいた。手はつないだままだ。

「ここって……」

「ラービニだわ。そういえば今、海から水が入り込んで来る時期ね」

「「…………………」」

「戻って、来たのね」

「うん……。ここ、初めてエナさんに会った場所だ」



 そう、この橋の下だった。

 こちらの世界に突然来たときの事、昨日のように覚えてる。

 あれからもう、1年近く経ったんだ……



『セリナ』



 耳飾りから、懐かしい声がした。

「ディスティニー」

『時が来たよ。“巨大な力”から指示が来た。2人とも、ケイを出して』

ポケットから、ケイの入った袋を取り出す。落とさないように縛っていたヒモも外して。

  水のティーイア・ケイ

  風のリーブス・ケイ

  火のムレイフ・ケイ

  土のイバレン・ケイ

  木のレトスフォー・ケイ

  ぞんざいに渡された闇のルイラート・ケイ

  いつの間にか入っていた光のクルイトゥン・ケイ……


 今まで集めた全てのワグナー・ケイが、淡く光を発していた。


『―――始まるよ』


  リ―――ン ・・・


 氷でできた鈴が鳴れば、こんな音がするのだろうか。


 ひどく涼しげで、ひどく悲しみを誘う音が私たちの掌の上で奏でられた。


  リ―――ン ・・・


 14個のケイがすうっと宙に浮く。


  リ―――ン ・・・


 向き合ったわたしとナギの間に、空間の歪みが生じた。


  リ―――ン ・・・


 渦が、どんどんおおきくなっていく。


  り―――ン ・・・


 2人の間に、言葉はなかった


  リ―――ン ・・・


 ふわりと足が地上から離れる。

 ナギが浮かぶケイを放って、抱き付いた。


「ナギ・・・」

「さようなら」

「・・・・さようなら」


  リ―――ン ・・・


 渦の回転が速くなる。


 ナギの温もりが離れてしまった。


  リ―――ン ・・・


「忘れない」


 歪みに引き込まれる。


「絶対に!ナギの事も、ディスティニーもエナさんもディムロスも!皆みんな、絶対に忘れないから!!」


 歪みの向こうで、ナギが泣きながら頷いてくれた。


  リ―――ン ・・・






「さようなら!!」







 はたして、聞こえたのだろうか。

 確かめる事もできないまま、彼女の姿は見えなくなってしまった。





















 無数の星空を、体ひとつで航海していた。


 体の中を、星が通り過ぎていく、



 ああ……わたしはこの中の1粒でしかないんだ


 けれども

 

 その1粒がなければ 世界は 全ては成り立たない




           忘れないで




 遠くで声がした



「忘れないよ」


「忘れない。ずっと」







 ずっと・・・

























「―――な  り    りな             セリナ」


 呼んでる・・・              だれ?


「セリナ!!!」


 耳元で叫ばれて、ハッと意識が浮上した。

 ガバッと身を起こすと、そこは薄暗いツタのびっしりと這ったトンネルだった。


「よかったぁ。目ぇ覚まさなかったらマジでどうしようかと思った」

横へ視線をスライドさせる」

「ヒサ・・・」

 小学校からずっと一緒にいる友達・・・


            戻って・・・・来た・・・?


「わたし、どれくらいいなくなってた?」

「何言ってんの?もしかして、頭とか打った?」

「・・・?今日何日?」

「×月×日×曜日」



 あの日だ。


 あちらの世界へ飛ばされた、あの日。しかも、時間もあまり経っていないらしい。


 じゃあ、今までの事は―――


「ゆ・め・・・・・・?」

 そう思うと、なんだか胸が締め付けられるように痛んだ。

「とりあえず、保健室行こう。顔色悪い。立てる?」

 頷いて、彼女の手を借りて立ち上がった。

 多少目眩がする。けど、体調が悪いせいじゃない。


 覚えてるんだ。

 夢だろうが何だろうが、ちゃんとわたしの中に蓄積されているのに……。

 ゆっくりと歩き出すと、スカートのポケットが妙に重いことに気付いた。さり気なく手を入れると―――


「――――!」


 つるりとした感触が指先から伝わってくる。

 ハーディスへ向かう船の中、ずっと眺めていたもの。ずっと手の中にあった、深い絳の留め具。見なくても、わかる。

「貧血かな?この頃疲れてた?倒れるなら道端じゃなくて家にしなよ。心臓に悪い」

「ははっなんで家ならいいの?――うん。貧血じゃないと思う。ちょっとね、長い旅に出てたから」

「・・・・・・ふうん?」

当然のことながら、変な顔をされた。けれども、突っ込んで聞く事はない。いつもの事だ。



 暗いトンネルを抜けると、向かいから帽子を目深に被った人が、よろよろと危なっかしげな足取りで歩いてきた。

「おはようございます」

軽く頭を下げてあいさつすると、その人もしわがれた声で返してくれた。

「今、誰に言った?」

「へ?今通った人」

「え!?・・・ユーレイ?」

振り返ると、ついさっきすれ違ったばかりの人は、どこにもいなかった。







                        忘れないで・・・




 わたしの旅は、終わったんだ・・・。










ノストイ〜帰還物語〜 完


長々とお付き合いくださいまして、ありがとうございました。

この話は、実際に自分がセリナと同じ年齢のときから書き始めた物でした。書き上がるまでだいぶ時間が掛かりましたが、完結する事ができてよかったです。

ご感想など、お待ちしております。

番外編もいくつかありますので、興味のある方は、覗いてみて下さい。

ご愛読、ありがとうございました。

次回作にもご期待ください。

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