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05-12 包囲

 ここは黄金の羊亭。

 店主のハーバシルがガイアリーフらに木製のジョッキに注いだエールを振舞っていた。


「それでガイアリーフ。お前は剣を持てなくなったと。その上、魔王軍の包囲が続いているのはどういうことだ?」

「さてね。ラウトやイシュタルとは別れたし、何がどうなっているんだか。例のダークエルフは影も形も姿を見せなかったし、あちらはあちらさんの都合があるんじゃないのか?」

「ご領主様の依頼だったんだろう?」

「なんの、その部下の方からのご依頼だとも」

「街に平穏が戻っていないが、どうしてくれるんだ?」

「さてね」

「迷宮の旨味もなくなって、こっちも上がったりなんだが」

「それも知らん」

「お前、剣が持てなくなって、ヤケになってないか?」

「別に」

「おいおい、ガイアリーフ……」

「おい、アリムルゥネ。無手の技の稽古をつけてやるぞ」

「はい、師匠!」


 ◇


 アリムルゥネが木の枝を構える。


「来い、アリムルゥネ!」

「はい!」


 と、アリムルゥネが打ちかかる。ガイアリーフは腰を落としては下にもぐり、下半身に取り付いたかと思うと手で小手を握り武器を己から逸らす。

 関節に足を絡めたかと思うと引き倒し、両膝でアリムルゥネの両腕を押さえつけた。


「勝負ありだ、アリムルゥネ」

「これしき!」


 アリムルゥネが利き腕を脇から抜く。

 そして、木の枝をガイアリーフの喉元に突き付けたのであった。


「やるようになったな、アリムルゥネ。もう俺から学ぶことはほとんどあるまい」


 ◇


「領主の使いが来ているぞ、ガイアリーフ」

「また?」

「今度は手紙だ」

「手紙……見せてみろ」


 ガイアリーフはハーバシルから手紙を奪うように受け取ると、封を切って読み始めた。


「なになに……?」

「なんとある」

「ちょっと待て……」


 ガイアリーフは文面へ目を走らす。

 そして、手紙を投げだすのだった。


「あいつらと交渉して街の包囲を解いてくれ、だと! そう簡単に行くなら、わけないのにな!」

「師匠」


 アリムルゥネがいた。


「師匠、行きましょう。みんな、それを待ってるんです」

「だが、お前……どうしようというんだ?」

「私達が行かないと、少なくともラウトさんやイシュタルさんは話を聞いてくれると思うんです」

「そう上手くいくか?」


 試しても良い。

 だが、ガイアリーフは剣を使えない。

 戦力にならないのだ。

 それで、どう戦う? あの連中と。

 まさか、無手で戦えと?


「師匠が行かないなら、私たち三人で行ってきます」

「無茶言うな」

「ならば、付いて来てくれますか?」


 ガイアリーフは考えた。

 ガイアリーフは考える。

 無謀だ。どう考えても無謀だ。


 ──見下ろすアリムルゥネの真摯な視線が突き刺さる。


 アリムルゥネはガイアリーフを信じて疑わない。

 まるで勝利を確信しているかのよう。

 勝機は薄い。

 だが、このままでは干からびて終わるだけなのだ。


「盾をよこせ。俺が二枚の盾を使うから」


 ガイアリーフはついに声を吐き出した。


「わかりました」


 ガイアリーフは革の盾を受け取ると、ジョニエルとオルファに声を掛ける。

 魔法の盾と皮の盾。二枚使えば、ある程度の打撃力は期待できるだろう。

 幸い、盾は例外なのか、剣やほかの武器と違って取り落とすこともない。


「魔王軍の陣に行く」

「ガイアリーフ……?」


 オルファが目を丸くする。

 ガイアリーフは声を張り上げた。


「店のみんなも聞いてくれ! 今から俺たちは魔王軍の陣に行く! お前たち全員の力が必要だ! 頼む、力を貸して欲しい! ただし、賞金はどこからも出ない! いや、追い返すことに成功したならば、領主が少しは払うだろう!」

「そこは俺から掛け合ってみよう」


 とハーバシル。


「敵陣?」

「魔王軍の陣だってよ……?」

「ほら、街を包囲している……」


「どのみち、あの包囲を破らない事にはどこにも行けず、食料は手に入らず、その内に不便を来すようになるだろう。みんなで魔王軍を叩くぞ! 迷宮で鍛えたその腕、見せてやれ!」


「わかった。ガイアリーフ、他の店の連中にも声を掛けてくる。城門で会おう」


 鱗の鎧を着た一人の若者が剣を取っては店を飛び出してゆく。


「お前達はどうする!?」

「……仕方ない、付き合うぞ、ガイアリーフの旦那」

「よし、城門に集合だ!」


 ◇


 総勢、五十人は集まっただろうか。

 思い思いの武器を持ち、装備もばらばらの勇者たち。

 これから魔王軍に挑もうとするには、ちょっと人数が足りないような気もするが、仕方がない。


「まずは交渉してみる。敵が一騎打ちを受け入れてくれたら儲けものだ。一騎打ちは俺が受ける。その時は、みんな俺の戦いを見守っていて欲しい」

「ガイアリーフの旦那、一人で戦うのか?」

「話がついたらな」


 そこで、はるか向こうに霞のように見える魔王軍を仰ぎ見た。

 もはや彼らは森から出て、ぐるりとこのフォルトの街の周囲を囲んでいるのが見えるのだった。


 ガイアリーフは叫ぶ。


「聞いているんだろう!? イシュタル! あるいはドラウグル―スとやら! 俺と勝負しろ!! 俺が勝ったら軍を引け!」


 なんの反応もない。が、ガイアリーフは続けた。


「魔王軍は腰抜けぞろいか! 俺と勝負しろ! 大将同士の一騎打ちで勝負をつけるぞ!!」

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