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05-11 迷宮核

 肩口に光の刃を埋め込まれている、赤髪の男が叫ぶ。


「私はこのような事では滅びません……っ! 人間の、人間種の底力を見るが良いでしょう!」


 男の後ろの木が明滅し、捕らえられているエルフがミイラのように萎びていく。

 そして、その命と引き換えたかのような人魂ならぬ光球が男の周囲に浮かび、ガイアリーフに向けて一気に撃ち込まれる。


「師匠!」

「させない!」


 アリムルゥネとイシュタルが二人で光弾に切りかかり、周囲は爆音と純白の光に包まれる。


 ──そして。


「ば、バカな……っ!」


 ガイアリーフは光の刃を赤髪の男の胸に突き刺し、雄叫びを上げて切り裂いた。


「き、貴様に呪いあれ! 貴様が最も心血を注いでいることが、一生できぬようになるが良い!!」


 ガイアリーフは剣を振り抜くと、逆十字に畳みかける。

 赤髪の男は絶叫を残して滅び去ったかに見えた。


 ──カラン……。


 光の刃を失った金属の筒がガイアリーフの手から滑り落ちる。

 ガイアリーフは拾おうとするが、どうしても掴むことが出来なかった。


 ──『呪われている』


 ガイアリーフにはわかる。己が剣を二度と握れぬことが。

 自分の魂とも言える剣を、二度と握れない。

 恐るべきことだった。

 何度も金属の筒を拾おうとして試す。

 だが、手から零れ落ちるのみ。

 カラカラと転がり、それはアリムルゥネの足元へ。

 ガイアリーフは苦渋の決断をする。


「使え。アリムルゥネ。俺の剣を使え」

「はい? 師匠?」


 弟子の目が点になった。


「俺は二度と剣を握れぬ身となった。そうだ。お前の師として教えてやれるのもここまでだ」

「な、師匠! そんな事言わないでください!」


 手をわなわなさせてアリムルゥネ。


「俺に教えられるのはもはや、無手の技のみ。無手の技、学んでみるか?」

「学びます、学びますけど、そんな、師匠が剣を握れないなんて……!」


 信じられない様子。


「呪いだ。先ほどの奴、人間至上主義者の長の呪い。迷宮と一体化していたほどの化け物の呪いだ。恐らく解けまい」

「ですが、解呪の方法を探るという手も!」


 そう。神秘の解呪の泉の噂。


「ある。その手の噂もある。そうだとも。無理ではないのだろう。しかし、俺は無手の技を鍛え直さねばならぬ」

「師匠……」


 アリムルゥネに言葉はない。

 ただ、師匠を慕い心配する目があるのみだ。

 ガイアリーフは思う。

 一生でただ一人、鍛え上げようとしている弟子。

 なんとか、もっと強くしてやりたい──だから、こう言う案も出す。


 ガイアリーフは傷の手当てをしているエルフの騎士の一団にアリムルゥネを連れて近づく。


「エルフの騎士殿」

「先ほどは見事な腕前。だが、その身に呪いを受けられたご様子。お察し申し上げる」

「一つ頼みがあるのだ」

「なにか?」

「この者、アリムルゥネと言うのだが、彼女をこの剣の持ち手に相応しいかどうか、腕前を見てあげて欲しいのだ。そして、叶うことなら騎士になれるかどうか、相も見てはくれまいか」

「待たれよ」


 彼らはしばらく仲間内で話していたようだが、年長格らしき者が出て来ては微笑む。


「相を見るのは不可能ですが、剣を交え、技を競うのはこちらからもお願いしたいところ。ええと」


 ガイアリーフはアリムルゥネの背中を押した。


「アリムルゥネです」

「アリムルゥネ。こちらからもお願いする。手合わせ願えないだろうか」

「師匠……」


 アリムルゥネがガイアリーフを見る。


「やれ。お前のためだ」


 ガイアリーフの答えに、アリムルゥネはエルフの騎士へと向き直り、


「はい、試合、お受け致します!」


 と元気に答えるのだった。


「その剣を使えねば、迷宮核……その迷宮核に深く食い込んでいる魔法装置を破壊することが出来ない。アリムルゥネさん、お願いできる?」

「イシュタルさん、あなたが持てば……」

「いいえ、もう、その剣はあなたの剣。でしょう、ガイアリーフ」

「そうだ。その光の刃はもうお前のものだ、アリムルゥネ」


 ◇


 血臭漂う広間で、アリムルゥネとエルフの騎士が向かい合う。

 アリムルゥネの手には、金属の筒か握られ、光の刃が立ち上っている。

 一方のエルフの騎士の手には長剣が握られているのだ。

 お互い睨み合い、間合いを計る。

 左回り……。

 エルフの騎士が前方に踏み込んだ。

 アリムルゥネは突き出された長剣を光の刃で押し除けると接近し、蹴りを胸に叩き込む。

 咽た騎士をそのままに、脚を膝に絡めて転倒させる。

 騎士はアリムルゥネの脚を剣で薙ごうとするも、バランスを崩してあらぬ方向へと刃は抜けた。

 そして彼女は光の刃を相手の首へ。


「降参だ。君は強いな。妖精騎士の私を倒した君は充分に闘士だ。これからあなたは妖精騎士を名乗ると良い」


 エルフ騎士は頭を掻いた。アリムルゥネは微笑む。


「さあ、アリムルゥネ。その剣で迷宮核に食い込んだ魔法装置を破壊してください。迷宮核を壊すと迷宮のほとんどの機能が停止するかもしれないけれど、それはそれで」


 アリムルゥネは『木』に向けて光の刃を振りかぶる。

 そして、一思いにそれを振り下ろした。


『木』が裂ける、砕ける。

 赤毛の男が目を覚ます。そして彼は血走った眼で叫んだ。


「人間種万歳!」


 輝ける光の光弾が十重二十重と生まれたかと思うと、それが一気に四方八方へと撃ち込まれる。


「な!?」


 驚いたのも一瞬の事、彼女の切り替えは早かった。

 アリムルゥネは光弾を光の刃で迎撃しつつ、踏み込む。


「これで!」


 アリムルゥネの剣が男の首を刎ね、背後の『木』を両断する。


 ──轟音。


 白、白、白に輝く。

 輝ける光は空間を満たす。

 砕けた破片は赤毛の男の体を押し潰し、周囲の者にも降り注いだ。

 ガイアリーフが盾を掲げ、イシュタルが剣で迎撃し、オルファが魔法で防ぐ。


「脱出だ!」


 ガイアリーフが叫ぶと、彼を最後尾に、みんな広間を出、迷宮の出口を目指したのである。





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