05-10 教団の巣
だが、おかしなことに、僧衣の相手はガイアリーフらの姿を認めると、あからさまに動揺し始める。
「増援か?」「このままでは挟み撃ちに」などと聞こえるのだ。
気のせいか、詠唱の音に交じって剣戟のぶつかる音も聞こえているだろうか。
なにか、この先で起こっているようなのだ。
構わずガイアリーフは光の刃を露にする。アリムルゥネもミスリルの小太刀を抜いた。
ジョニエルが棘突き棍棒を構える。イシュタルとラウトもそれぞれ剣の柄に手を添えた。
皆が駆け足になる。
正面の敵集団の動きがあわただしくなり、敵との距離が、一気に詰まった。
ガイアリーフは手前の男を盾で殴って光の剣で切りつける。
その男は一瞬震え、一刀のもとに切り捨てられる。
両隣でも悲鳴が上がる。
アリムルゥネとイシュタルだ。
アリムルゥネは小太刀で喉元を切り裂き、イシュタルは剣にて相手をねじ伏せていた。
奥が見える。
奥は広間だった。先では魔法の光が見える。
乱舞、そして爆発音。
加えて打ち合わされる剣の煌めき。飛び散る火花。
奥で誰かが戦っている。
ガイアリーフは構わず敵陣の傷口を広げるべく切り込んだ。アリムルゥネとイシュタルが剣で切り払いながら側面に入り、その後ろをジョニエルとラウトが武器を構えてついて行く。そしてオルファが最後尾で油断なく歩を進めていた。
「奥には誰が!?」
「不明だ!」
否定の言葉は光の剣を振るうガイアリーフ。
ただ、奥の中央には巨大な魔の気配がする。
他を圧倒する存在。魔性の中の魔性。
──その圧倒的な気配は一人の人間の体から発せられているようだった。
赤い髪と、白磁の肌、緑のローブに身を包み、強大な魔法を唱え続けるその姿。
両手に光の球を持ち。
それが膨らみ次第、目の前の存在──エルフの騎士らに投げつけては弾けさせている。
猛火のごとき光球を食らった騎士らはそのたびに吹き飛ぶも、起き上がっては何度も何度も剣で切りつけていた。
その赤髪の男は告げる。いかに自分を気づつける行為が無意味であるのかを。
「無駄です。私はこのフォルトの住民の力を吸い上げて戦っています。あなたがいかに優れようと、街一つを亡ぼせるほどの力はお持ちではないはず。諦めなさい、無力を悟るのです」
ガイアリーフを押しとどめていた包囲が破れる時が来た。
彼の剣が、敵信徒の戦士をまた一人となぎ倒したのである。
その戦士が男と騎士の間に転び出る。
赤髪の男と、エルフの騎士らはガイアリーフたちに気づいた。
「おや、また客ですか。今日は客の多い日だ」
アリムルゥネとイシュタルが走る。ガイアリーフの両脇の信徒を切って切って切りまくっているのだ。血煙に気ぶる、ミスリルと白銀の剣。
そして、出会い頭に放たれる、オルファの電撃。
電撃は赤髪の男の胸を撃つも、魔法は当たる直前で掻き消えてしまった。
「トーロ教団がこんなところでなにをしている」
「望む世界を手に入れる下準備です。手始めに、異種族に寛容なこの混沌の街を生贄に選びました」
「ラウト、迷宮核は?」
「あいつの後ろの巨大な木だ。だが、見たところ、あの赤髪野郎と同化しているんじゃないか? イシュタル。どう見る?」
「ガイアリーフ、あの男の後ろの木。あれを破壊して欲しいの。もちろん、あの赤髪と一緒に」
「……そういうことか」
「師匠、露払いします」
「私も手伝う。ここ一番で、あなたに世話になることになるけど、こればかりは許して欲しい、ガイアリーフ」
信徒と切り結びながら、鎧と剣で武装したエルフの一団の長がガイアリーフたちに「何者か」と声を掛ける。
「こいつら……トーロ教団の敵だ。お前たちの敵ではないはずだ」
「信じろと?」
「こちらにもエルフがいるのが見えないか」
「ん……? おお! 我が同胞! お前はこいつらの仲間か!」
ガイアリーフが添える。
「アリムルゥネ、お前のことだ」
「はい!」
「ここでたくさんのエルフが犠牲になった。お前にもその恨み、晴らす機会を与えたい。この敵の打倒を手伝ってくれるな!?」
長はアリムルゥネを認めたようで、途端に態度を変えた。
赤髪の男は『木』から膨大な魔力を吸い上げる。
「人間種に栄光を! 人間種のみに栄光を!」
そしてそれは男の周囲を巡る無数の光球となり、光弾となってガイアリーフたちやエルフたち、周囲の者に降り注いだ。
連続する爆裂音。
吹き飛ぶエルフの騎士。ガイアリーフは盾を構えつつ、前進する。
光弾が弾け飛び、ガイアリーフやアリムルゥネの髪を焦がす。
「狂信者め!」
ガイアリーフが光の刃を振り上げる。
アリムルゥネが戦士の胴を薙ぎ、イシュタルが僧服の男を切り倒す。
がら空きになった一直線、今度こそオルファの電光が撃ち抜いた。
そして続けざまに襲い掛かるガイアリーフは、光の刃を男の肩口に埋め込む。
「GRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOAAAAA!!」
おおよそ人間種以外の悲鳴が聞こえた。
ガイアリーフは切り下す。
「き、貴様ぁ!?」
温和だった赤髪の男の顔は、憤怒に染まった。




