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05-09 迷宮の罠

 ガイアリーフたち六人はファルドの街の下水道から伸びる大きな両開きの扉を潜ると、件の地下迷宮へと足を踏み入れた。


「他の入り口を教えてはくれないんだな?」

「他に入り口があるの?」

「無いが。転送装置ならあるな」


 ガイアリーフの問いに、イシュタルがラウトに問い、彼は答える。


「それは使えないのか?」

「使った瞬間、大悪魔数体との戦いをお望みと言うのなら、俺は止めないぜ、ガイアリーフの旦那」


 ラウトは笑う。


「それは……避けたいな」


 ガイアリーフはアリムルゥネらを見渡して、その眼に揺らぎを見、ラウトに言葉を口にした。


「だろう? だから、その他一般の皆さんと同じ入り口を使うわけさ」

「仕方ない。オルファ、灯りを──」


 オルファが松明を灯し、杖の先に魔法の明かりが灯る。


 地下迷宮の闇が晴れ渡る。最早見慣れた光景。

 真っすぐに石壁が伸び、通路の両脇のところどころに扉がついている。

 足元には小動物の骨と松明の燃えかす、そして大勢の人間が行き来した足跡が見えた。


 ──六人はいざ、深部に向けて歩き出した。


 ◇


 壁に等間隔に穴が開いている。


「ラウト、罠解除してきて」

「へいへい」


 音もなく、影のようにラウトが動く。


「罠?」

「そう。石畳を踏むと、壁の穴から矢が飛び出す初歩的な罠」

「なるほど」


 ラウトの体が壁の一部を押して、回転する壁と共に姿が消えた。


「隠し部屋よ。罠の機構があるの」


 やがて、ラウトが戻って来る。


「解除したぜ、イシュタル。罠が戻らないうちにさっさと通り抜けてしまおう」

「ありがとう」

「時間制限付きなのか?」

「そう。一定時間内に通らないと、罠が元に戻る……って、早く行きましょう」

「ああ。そうした方が良さそうだ」


 ◇


「誰だよ急げなんて言ったやつは!」


 誰ともなしに叫ぶ。


「少なくとも俺じゃないぜ、ガイアリーフの旦那!」

「師匠! 次から次へと……うじゃうじゃいます!」

「双頭の毒蛇か……参ったな」


 ジョニエルは毒に備えて下がった。


「炎よ!」


 オルファの声が突き抜ける。炎が後方の一団を焼き、師弟にイシュタルとラウトを含めた四人が前方の蛇を払う。

 脇を抜けた一匹の頭の片方を、ジョニエル司祭が棘突き棍棒で叩き潰していた。


「こうした二段構えの罠、中々効果的でしょう」

「嫌味なだけだ!」

「もっと多段な仕掛け……三段、四段構えもあるとの報告も受けているわ」

「そうかい」


 イシュタルの言葉に、ガイアリーフはこう切り返すのがやっとであった。


 ◇


 床に乱雑に金銀を張ったような文様が描かれている部屋があった。その他、なにかを引っ掻いたような跡が残っている。

 あからさまに怪しい。あからさまに怪しいが……。


「イシュタル、これはなんのマネだ。見たところ、天井が怪しそうだが……」

「ラウト、解除を」

「無理だ、イシュタル」

「無理って?」

「管轄外だ」

「なんとかならないの?」

「まあ、そんな目で見るな。期待しないで待っていてくれ」


 と、また周囲の壁をコンコンと叩いて様子を見るラウト。

 アリムルゥネが見つける。


「あの角、擦って回転した跡が僅かに残ってる!」

「嬢ちゃん、さすが素人じゃないな?」

「えへへ」


 と、ラウトは壁を押す。

 回転し始めた壁に入り込みながら、ラウトはこぼす。


「それじゃ、ちょっと行ってくる」

「必ず解除すること。吊り天上なんてまっぴらよ」

「正体知ってるじゃねぇか!」


 と、騒がしくもラウトは僅かに開いた隙間から、壁の向こうに消えて行く。

 待つこと数分。


「あの金銀の模様は何なんだろうな」

「金貨や銀貨じゃないかしら」

「どうして鉄や骨がないんだ?」

「粘体が食べてしまうからでしょう」

「床の傷は?」

「ダイヤモンド?」

「……なるほどね。だが、ああはなりたくないものだな」


 ガイアリーフは呻く。

 遠くでガチン、と金属音が鳴る。


「お待たせ」


 ラウトが壁の隙間から現れた。どうやら罠は解除されたらしい。


 ◇


 大きな木を挟んで、人間の男女が立つ。

 かの聖印を描いた壁画が描かれた一角に出た。


「この印は……師匠!」

「わかってる。奴らだな。トーロ教団。邪宗が何を企んでやがるんだ?」


 イシュタルが唇の前に人差し指を立てる。「話すな」と言う意味だ。

 皆、耳をそばだてる。

 微かな祈りの声が、うねりとなって迷宮内に木霊していたのである。


「奇襲するか? イシュタル」


 ガイアリーフが問う。しかし、


「そうもいかないみたい」


 と、前方から明かりが近づいてくるのを見、どうやらそれが幾人もの僧衣姿の男女が歩いて来ているらしいと分かったときには、一同は全てが手遅れであると悟ったのだった。


「交渉してみるか?」


 ラウトが問う。


「冗談だろう。相手は邪教徒だぞ」


 ジョニエル司祭は頑として譲らない。そして、アリムルゥネにも選択肢はない。人間至上主義者相手に、エルフの生きる環境などないのだから。

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