05-02 敵陣強襲
長雨続くフォルトの街。
天にはどんよりとした黒雲が立ち込め、なんとなくすっきりしない日々が続いている。
ここはそんな中でも、繁盛の色を失わない酒場、黄金の羊亭。
彼らはここで、今日も集っていた。
「妖魔の集団?」
「この雨の中良く見つけられたな」
ガイアリーフとジョニエル司祭は店主のハーバシルの言葉に顔を見合わせる。
「衛視の依頼で小鬼討伐に向かった連中が目撃したそうだ。ゆうに百を超えていたらしい。そこでお前たちに相談なんだが、こいつを片付けて来てはくれないか」
戦闘は数だ。
数で押し切られれば、強固な個も倒れる。
「相手が集団で固まっていてくれれば、物の数ではないと思うが……」
「魔法で焼きましょう」
オルファが呟く。
「でも、それにしては数が多い」
「並みの妖魔なら数分で片付く」
「本当にそうなりますか? 師匠」
「俺とお前で掛かれば討ち漏らしなどほぼ皆無だろう」
「私の強さをやっと認めたわけですね、師匠も」
「お前はまだまだ未熟だアリムルゥネ」
「まあまあ。お前たちに掛かれば敵ではないことぐらいわかる。だが、数が数だけに、他の連中には任せられない」
ただ、ここでハーバシルは言いよどむ。
「しかし、お前達にも強くお勧めできない理由があってな」
「もしかして、報酬ですか?」
オルファがズバリ切り込んだ
「その通りだ。金は出せない。が、僅かばかりだが領主から報奨金が出る」
「そうか」
ガイアリーフの素っ気ない返事。
「……そうだろうと思いました。報酬は期待できなさそうですもの」
「やってくれるか?」
「俺達以外適任はいないんだろ?」
ガイアリーフの決意を込めた視線が上がる。
「おお、ガイアリーフ!」
「アリムルゥネ、一体多の戦闘を身に付けろ。試練と思え」
そしてビシリとアリムルゥネを指差した。
「はい、師匠!」
◇
雨に打たれつつ森へ向かって野を歩む。
革のマントに雨が打つ。次第に音が激しくなってくる。
「師匠、このまま進むんですか? 絶対気づかれますよ?」
「音を消す魔法るか? オルファ」
「音どころか気配も消してしまいましょう」
不可知の魔法を四人に掛けるオルファ。
途端に音は消え、姿も薄くなる。
だが、雨は体に当たり、流れ集った水滴が足元へ落ちることは無い。
「完全に透明化しているのではなく、姿を消しているだけですからご注意を。さぁ、移動しましょう」
「ああ。充分だ。行くぞ」
ガイアリーフは皆を促す。
そして、彼を先頭に進んでいった。
そして森近くの茂みに身を隠す。
森の中に異形の影を見つけたからである。
尖った耳、長い鼻、紫色の皮膚、枯草色のマント。そんな影が、無数に見えた。
そして彼らは、思い思いの武具を手にしているようである。
「強襲するか? どう見る? ジョニエル司祭」
「氷で焼き、その後襲撃するか」
「奴らの目的が知りたいな……オルファ、なんとかなるか?」
「今使い魔のお話を……掴みました」
『はやく、にんげんの、まち、こわす、まだ?』
『めいれい、ここ、うごくな』
『まおうさま、もっと、あつめる』
『まだ、あつめる?』
「……ろくなこと話してないな」
「魔王軍……早めに片付けておきましょう」
「厄介ごとの芽は早めに摘むに限る」
とジョニエル司祭。ガイアリーフは応じて、オルファに尋ねる。
「それもそうだな。大将はいるか?」
「いえ。指揮官らしきものはいますが、先日の吸血鬼の様な強者の影はありません」
「そうか」
ガイアリーフは一瞬考え、
「先ほどのジョニエル司祭の案を採用する。オルファが魔法を唱えた後、アリムルゥネ、お前は俺と突撃だ。ジョニエル司祭、あなたはオルファを守ってくれ。では頼む」
ガイアリーフの合図とともに、オルファが立ち上がり、
「氷雪よ、氷雪の銀狼よ。舞い踊れ、吹雪と共に!」
途端、敵集団の中心から凍てつく刃が襲い来る。
赤の花が咲き、それはすぐに凍り、そして雨に融かされてゆく。
敵の動きは鈍り、絶叫と悲鳴と怒号の中で、混乱は広まりつつあった。
「行くぞ、アリムルゥネ!」
「はい、師匠!」
光の刃が現れる。ミスリルの刃が雨に濡れた。
透明な剣士が敵を蹂躙してゆく。影から刃が伸び、敵の急所を確実に突いて行った。
敵はガイアリーフら襲撃者を探すも、姿が見えず、混乱はさらに拡大する。
そして、吹雪の第二波が彼らを襲い、彼らのほとんどが濡れた大地に倒れ伏す。
「まだ討ち漏らしが……」とオルファ。
残敵をガイアリーフとアリムルゥネは掃討し、闇雲にふるわれる凶器を避けながら、二人は敵を倒していった。
舞い上がる落ち葉や、揺れる枝葉を頼りに敵はガイアリーフらを探すも、結局のところ二人の相手ではなかったのである。
そして、二人が見つける指揮官らしき巨体。
「片付けるぞ、アリムルゥネ」
「はい、師匠!」
「なに!?」
指揮官の首が左右に振れた。
この指揮官にも見えていなかったらしい。
指揮官の足元の落ち葉が僅かに飛んだ。
次の瞬間、ガイアリーフが指揮官の首を、アリムルゥネが胴を薙ぐ。
指揮官は赤を引いて倒れた。
勝負は一瞬でついたのである。




