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05-01 雷光の前の小鬼

 黄金の羊亭、店主、ハーバシルの前で騒ぐ四人。

 前回の敗戦のせいだろうか、今度の勝利は皆に笑顔をもたらしていた。

 ハーバシルも調子を合わせる。


「……で、吸血鬼を倒したわけか」

「聞き出したいことは山ほどあったが、そんな余裕も無くてな」


 とガイアリーフ。


「強敵でした!」

「本当に」

「貫禄があったな、あの吸血鬼には」


 ジョニエルが言うと、皆が静まる。

 今となれば、遠い目をして過去形で言えることが微笑ましい。


「勝てたのはオルファの魔法のおかげだな」


 ガイアリーフが勝負を分けた技を指摘する。


「なんだあれは? 話せるものであれば、話してくれないか?」


 オルファは一瞬口ごもるも、


「秘密です──としてもよろしいのですが、ほんの少しだけ種明かししますと、封印術の一種です」


 ぺらぺらと話し始めた。


「ほう。初耳だ。吸血鬼に効く封印術などあるのか」

「完全に相手を特定してから発動する種類のもので、前準備が要ります。相手を前もって知っておかなければなりません。つまり、初対戦の時は使えない代物です」

「次からは毎回可能なのか?」


 次があることを前提で尋ねるガイアリーフ。

 吸血鬼を滅ぼすことは至難だ。そのためだろう。


「油断して頂ければ」

「つまり、無理と言うことか」

「そうでもありません。かの吸血鬼は一度私たちの前に敗れました。最早二度と私たちの目の前に現れることは無いでしょう。顕れたとしても、敵対行動はとらないはずです。──もし、滅びていなければ、ですけれど」

「どうしてそれを知っている?」


 ガイアリーフは目を細める。


「それこそ、秘密です」


 オルファは笑った。


「あんた、秘密が多すぎないか?」

「このくらい胡散臭くなければ、魔術師を名乗っているわけがありません」

「あんた、自分自自分のことを魔術師と名乗ったか?」

「さて、なんのことでしょうね」


 のらりくらりと良く続くものだとジョニエル。

 アリムルゥネは一人リンゴを齧っている。


「またそれか。結局話す気はないんだろう。な、オルファ」

「どうでしょうか」

「自分自身の事だろ? いい性格しているよ。ま、食事にしよう」


 ガイアリーフは諦めて、戦勝には違いないので戦勝会を始めたのである。


「うちのエールで良いんなら呑んで行け」


 木製のジョッキになみなみと注がれたエール。


「勝利に!」

「おいおい、生還にの間違いじゃないのか?」


 ジョニエル司祭がガイアリーフの脇腹を肘で突く。


「良いんだよ、生還はこの前果たした、今回は勝利だ」

「そうか。ならば我が神に捧げよう。勝利を!」


 ジョッキを持ったジョニエルの腕が上がり、他三人のジョッキも上がる。


「「「「乾杯!」」」」


 ◇


 外では大雨が降り続いていた。

 少なくとも三日前から雨であった。時折、しとしと降りにはなるが、決して止むことのない長雨である。


「でよ、突然稲光が光ったと思ったら、遠くに稲妻が落ちたんだ」

「なんだそれ、この前からこんな天気が続いているんだ、珍しくもない」


 と、職人風の男が商人風の男に話している。


「いや、その稲妻の落ちた木は燃え上がったんだが、俺はその炎の後ろに小さな人影を幾つも見てな……?」

「小さな人影?」


 商人はピンとくるものがあったようだ。大方、小鬼が悪さでも始めようと思っていると感じたのであろう。


「人間じゃないことは確かだ。化け物だと思うんだが……」

「確かめてないのか?」


 職人は飛び上がって周囲を見回す。

 周囲には小鬼などものともしないような屈強そうな冒険者が騒いでおり、店はそれなりに賑わいを見せている。


「誰が確かめるか、恐ろしい」

「まあ、そりゃそうだ。衛視には教えたんだろうな、その話」


 対して何か思うでもなく、商人は話を続ける男に言うのであった。


「もちろん話した。でも、衛視の連中、俺の話を聞く傍から右から左に聞き流したんじゃないかと思うくらい、素っ気ない対応だったよ」

「そうか。地下でも化け物、地上でも化け物、とは思いたくなかったんじゃないのか?」

「地下の化け物はどうなっているんだ? 最近冒険者が増えたように感じるんだが」


 どうやら職人は心配性らしい。


「新顔は増えてる。おかげで店も繁盛してね、命知らずが集まってきているんだ」

「ハーバシルの旦那」


 職人と商人は近づいてきた大柄な男、店主のハーバシルに目をやった。


「と、言うわけで荒事は全部連中に任せておけばいいのさ。俺のお得意様たちにな。その方が、彼らも喜ぶし、街の衆も助かるだろ? 衛視も余計な仕事をしなくて済む。もっとも、酒場の喧嘩は増えるだろうけどな!」


 皆、どっと笑う。「違いない」と。


「なんだ、もめ事か?」

「俺らの飯のタネか?」


 商人が話し始めた。稲妻に照らされた小鬼をこの職人が見たと。


「なんだ、小鬼か。何匹でも相手をしてやるぜ!」


 とある剣士が腰の剣を叩きながら職人の前に立つ。


「なんの。俺がこの槍で相手をしてやるさ」


 と、負けずに別の若者が押しのけて前に出る。


「で、報酬は?」


 引っ込みがつかなくなった職人は漏らす。


「いや、依頼したいわけじゃないんだ。悪かったな」

「なんだ、冷やかしかよ!」

「大事件の前触れかもよ?」

「そんなわけあるか。でも、この雨の中に小鬼か。晴れたら衛兵詰所からでも依頼が出るかもな」

「そうだな。話はそれを見てからさ」


 始めの剣士がにやりと笑う。そして、皆どっと笑った。笑いの輪が、店中に拡散して行く。

 今日も、ハーバシルの店は繁盛していた。

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