04-06 最早駆け出しではない
蛇の長い首が襲い来る。
ガイアリーフはその太い首を軽々と焼き切った。
「二つ!」
もう一つ、アリムルゥネは蛇の首を相手にする。
もたげられ、アギトの開いた口からは毒液が垂れている。
「えい!」
とばかりにミスリルの刃を突き込んだ。
飛び散る鮮血、閉じられる口から辛くも逃れたアリムルゥネがいる。
「炎よ!」
大きく広げられた口に、オルファの火炎弾が飛びこむ。爆発。
頭の半分が吹き飛び、血と肉が舞う。
「敵を中途半端に放置すると、逆転を許しかねない!」
ジョニエル司祭が手にした棘の着いた棍棒でその頭を殴りつけ、粉砕する。
ガイアリーフが血と脂に染まった戦場を見渡す。
松明の炎は、首を八つから五つに減らした多頭蛇の巨体を映し出し、揺らめいている。
彼はなおも突貫する。
五つの頭が、一斉にガイアリーフの迫る体を追った。
光の刃が蛇の頭と交差するたび、首が一つ、二つ千切れ飛ぶ。
アリムルゥネは胴体に小太刀を刺すと、縦に割いた。
吹き出す血潮に、跳び退るアリムルゥネ。
「吹雪よ!」
オルファが作り出した氷雪は、多頭蛇の動きを鈍らせる。
ガイアリーフが脚をすくわれ、転倒したところにジョニエル司祭が滑り込み、噛み付こうとする頭を殴る。
残った頭もまた、ガイアリーフに迫るがアリムルゥネが迎撃する。
最後の一つが、無防備なガイアリーフの肩口に──来る前に爆ぜた。
オルファの魔法である。
死闘の開始から数分後、多頭蛇の体は首をすべて失って垂れていた。
◇
「多頭蛇、かなり大きかったな。駆け出しが手間取るはずだ」
「そうだなガイアリーフ。もっとも、お前さんの敵ではなかったようだが」
ガイアリーフの感想に、ジョニエル司祭が答えている。
「いやいや、ジョニエル司祭、危ないところを助けられた。礼を言う」
「礼には及ばんよ。それにしても、あんたの弟子、"群狼の"だが」
「ああ、アリムルゥネか」
話が押し掛け弟子、アリムルゥネに及んだ。
「なかなかの腕だな」
「体重を乗せた戦士の動きができるようになってきた。そろそろ俺も、師匠廃業かもしれん」
ガイアリーフがカカカと笑う。
「そんな、師匠! もっと教えてください!」
アリムルゥネが食いついた。
「聞いていたのかアリムルゥネ。今の動きは良かった」
「ありがとうございます!」
「あとは実践あるのみだ」
「はい、師匠!」
と、気合を入れるアリムルゥネであった。
◇
オルファが一生懸命多頭蛇の解体をしている。
「皮を剥いで、毒袋を取って……牙を頂いて、それからそれから……」
「手伝いましょうか?」とのアリムルゥネに、「傷つけないように注意してください」と、アドバイス。
そして、滑る足場にふらつきながら、お互い血と脂に飽きたのか、「もう良いでしょう」と、作業を終えた。
「蛇の肉、何人前でしょうか」
「食すのか?」とジョニエル司祭。
「酒の肴にどうぞ」とオルファ。「串焼きでも……」と続く。
「牙も革も毒も業者に売ります。もちろん、肉も精肉業者に卸します」
「商売人だな、オルファは」
ガイアリーフが声をかける。
「でも、肝心の魔法の品が売れないんです」
「この間はなにを売った?」
「黒胡椒の瓶詰め、金百。領主様お抱えの商人に。でも、振られてしまいました」
「なんだって?」
黒胡椒なら売れても良いはずだが。値段設定が拙かったのか。
「高いと言われまして。そんな怪しげなものに金は出せないと」
「お前さんの扱う商品は、魔法の品だが、どれも珍奇で高級で使い道が限定されているにもかかわらず、とても高価だな」
「魔法の品は高いのです……」
原因はもっと別のところにあるような気もするが、と言いかけて、ガイアリーフは黙った。
そして、見つめる。
骨だけになりながらも、瘴気を噴き上げながら鎌首を上げて立ち上がる多頭蛇の成れの果てを。
「不死者だ!」
ジョニエル司祭が叫ぶ。
そして、威の一番に棘の付いた棍棒をもって撃ちかかって行った。
アリムルゥネとガイアリーフが背後に回る。
三人で骨を囲む。
撃ちかかるジョニエルとアリムルゥネ。
しかし、骨だけとなった多頭蛇にはほとんど効果がないばかりか、バラバラになった骨が再び組み上がってゆく。
焦る二人に、
「炎よ!」
とオルファが魔法を唱える。
それは塔のように高く高く骨を焼き、炎の返しが迷宮の天井から降りていた。
骨にまとわりついていた黒いオーラが薄くなる。
ガイアリーフが切りかかる。
光の刃は骨を裂いて、砕いて、焼き切った。
組み上がろうにも、粉砕される骨。
それはジョニエルの一撃で。アリムルゥネの小太刀の背で。
骨の再生が止まる。
「火炎の王よ!」
とオルファが極大の魔法を唱える。
炎の渦が巻きあがり、骨と揺らめく黒いオーラを巻き込んで焼き尽くす。
ガイアリーフが骨の残滓に切りかかる。
黒い煤は、今度こそばらけ散って無に還るのだった。




