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04-04 暗闇の怪

 まっくらやみだ!


「燃やしましょう」


 オルファが漆黒の空間に燃える松明を投げ込んだ。


 まっくらやみは、真っ暗闇ではなくなった。

 赤々と、一斉に燃え上がり燃え広がる通路。一帯は一瞬で火の海だ。

 よく見ると、壁と言わず天井と言わず、どこもかしこもあちらこちらから火が上がっていた。


「どうやら、ガス状生物だったようだな」

「そうですね」

「剣が効かない相手もいるんですね」

「そうだぞアリムルゥネ。そういう時は、こうして頭を使わないとな」

「はい、師匠!」


 と、炎の腕がアリムルゥネに伸びてくる。

 大きな手の平で捕まえようという魂胆か。

 アリムルゥネはとっさにミスリルの小太刀で巨人めいた腕の指を切る。


 ──一閃。


 すると、ミスリルの魔力を帯びた刃は見事に怪物の指を断ち切った。


「剣が効いた?」

「魔力がこもっているからな、その小太刀には」


 腕はアリムルゥネに燃える手の平を押し付けようとする。

 彼女は背後へ跳び退ると、間合いを取ってもう一度手の平に切りかかる。


 ──燃え盛る手の平が裂けた。


 炎が割れる。炎が次第におとなしくなってゆく。

 アリムルゥネの剣が振るわれるたびに、炎は小さくなり、やがて消えた。


「よし、これでお前はまた謎の生き物を倒したわけだ」

「謎の生き物……」


 呼吸も荒く、アリムルゥネは息を整える。

 と、一瞬の後、再び視界が闇に包まれた。


「炎よ!」


 オルファの声がする。同時に炎が闇に荒れ狂う。


 喉に軽い火傷。

 アリムルゥネは痛みを覚える。

 それが去った時、アリムルゥネは冷たい汗が額を流れるのを感じるのであった。


 ◇


「帰るか」


 簡単に口にしたガイアリーフ。

 だが、その意見に異を唱える者がいた。


「敵はあの一体だけなのでしょうか」


 オルファである。


「そう何匹もいるものでしょうか?」


 アリムルゥネは首を捻る。


「そうだな、もう少し探索を続けても構わないかもしれないな」


 ガイアリーフはオルファの意見に寄った。


「どう思う?」

「一通り、この階層を見て回るだけでも違うのでは?」

「たしかにそうだ。安心は二倍になるな。どう思う? アリムルゥネ」

「見回りを続けましょう! ですが、先ほどのような恐ろしい目はごめんです。安全第一が良いと思います」

「そりゃそうだ。それじゃ、行くか。オルファ、灯りを頼む」


 オルファが新たな松明に火を点し、魔物探索は続行された。


 ◇


 ミイラ男に火が付いた。

 燃える体をガイアリーフが一閃する。

 跳んできた手を、アリムルゥネが思わず小太刀で払い落す。


「新手は!?」

「後続がいます!」


 燃え上がったミイラ男が、次々に現れる。

 ガイアリーフが光の剣で薙ぎ払うと、一度に五体が上下に分かれた。


「キリがないです!」


 アリムルゥネが小太刀で敵をの手を払い除けながら叫ぶ。


「もっと火力を上げましょうか?」


 派手な魔法を使って良いか、ではなく、使うから注意してね、の意味である。

 そのことは二人、経験的に学んでいた。

 オルファは虚実実行、大嘘吐いてもやろうと思ったことはやり、完遂するタイプの人間なのである。


「ちょっと待──」

「炎よ!」


 拳大の炎の玉が、狭い通路の奥に打ち出されては吸い込まれてゆく。


「かがめアリムルゥネ!」

「はい師匠!」


 言うが早いか、床に伏せる二人。

 続くは大爆発と、炎で吹き飛ばされたミイラ男であった存在の一部の散乱だった。


 ◇


 今や迷宮内は赤々と燃え続けている。

 オルファが例の化け物がいつ来ても良いように、炎の術ばかり使うからである。


 毒の鱗粉をまき散らす蝶に対してもオルファは炎の魔法を叩き込む。

 火がついて、床に次々と落ちる蝶。


「新手、いませんね」


 と人ごとのように言うオルファ。


「粗方見終わったか?」

「はい。ガイアリーフ」

「では、戻るか──」


 と、気を緩めたその時、通路は突然の暗闇に包まれた。


「オルファ、炎だ!」

「……」


 返事がない。

 異変を感じたガイアリーフが光の剣で暗闇を切り裂く。

 アリムルゥネもでたらめに刃を滑らせる。


 ──すると。


 ドサリ、と人の倒れる音が。

 そして、ガイアリーフは光の剣で壁を、天井を切り続ける。


 やがて、闇が晴れた。

 晴れた床には、血を流す一人の魔導士、オルファの姿が。


 駆け寄るガイアリーフ。


「大丈夫か!」


 揺れ動かし、頬を張ると、微かな声。


「油断してしまいました──」

「アリムルゥネ、赤い薬(レッドポーション)だ」

「はい!」


 と、探すも無く、涙目のアリムルゥネ。


「ありません、師匠……!」


 師匠と弟子、お互いに顔を突き合わせる。その間に流れるのは、不安。


「おい、オルファ! しっかりしろ!」

「はい……」


 なんとか意識がある。


「オルファさん!」


 声を聞き、声に張りが戻るアリムルゥネ。

 ガイアリーフがオルファを背負い、アリムルゥネと共に、足早に迷宮を後にしたのである。

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