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03-10 勧誘

「アリムルゥネ」

「ひゃい」


 店主の呼びかけに、アリムルゥネは間抜けな返事を返した。

 口に飯が入っているのである。


「お前さんに客だ。本来ならば、ガイアリーフを通せというところなんだが、奴はどこに行った。……困ったな」

「師匠はオルファさんと一緒に盾を受け取りに」

「なるほど」


 見れば、店内に目つきの悪い男が一人、やってきている。


「そいつが"牛殺し"かい?」

「"群狼の"とも言うがな」


 どうやら、アリムルゥネは自分のことが話題であると気づいたようである。


「簡単に言うぜ。あんたに用心棒になって欲しい」

「……護衛依頼?」


 アリムルゥネは眠たげに聞いた。


「違う。朝から晩までどこへ行くときも身の安全を守って欲しいんだ」

「……誰の?」

「聞いたらこの仕事、引き受けることに同意したことになるが、それでも良いかい?」

「良くない」


 はっきりと断る。


「どうして。礼金はたっぷりとはずませてもらう」

「師匠の許しがいる」


 その通りである。


「ああ、ガイアリーフと言う男か。面倒だな」

「それに、敵がいる。影からつけ狙ってきている敵」


 きっと迷惑をかける。それもたくさん。


「どうにも俺には、お前さんがやりたくない理由を列挙しているようにしか思えないんだが」

「そういうことであれば、本心はやりたくないということ」

「そうだよな」


 男は変に納得しては、うーんと唸って考え込んだ。

 そんな時。


「おい、俺の弟子に何か用か?」

「ああ、師匠」

「ガイアリーフ、良いところに帰って来た」


 アリムルゥネを説得していた男の目に光が戻る。


「あんたがガイアリーフか。俺はルミナン商会の人間だ」

「ルミナン商会。薬剤商がなんの用だ」

「いや、あんたのところの弟子をウチの用心棒に欲しい」

「アリムルゥネは首を縦に振ったのか」

「いいや。あんたの許可がいるんだと。もちろんくれるよな。金十でどうだ?」

「断る」


 男は矢継ぎ早に言う。しかし、ガイアリーフはにべもない。


「金二十」

「金の問題じゃない。こいつはまだ一人前じゃない。それに、こいつには夢がある。騎士になるんだと。用心棒で終わらせては、騎士にはなれまい?」

「……残念だ」

「ああ、諦めてくれ。アリムルゥネもそれで良いか?」

「はい、師匠」

「この通りだ。ルミナン商会には悪いが、諦めてもらう」


 ガイアリーフはアリムルゥネの回答に男を促し、


「仕方ないな」


 との台詞を引き出させる。

 男は昼寝している猫の尾を踏みながら店を出て行った。


 ◇


「ほら、頼んでおいた盾だ。アリムルゥネ。お前の盾は革張りの盾だ。軽くて使いやすいはずだ」

「ありがとうございます師匠!」


 しかし、ガイアリーフは表情を一変させて言う。


「あの男、絶対ルミナン商会の人間じゃないな」

「え?」

「裏がありそうだ。近づかなくて正解だったぞ、アリムルゥネ」


 と、バンバンと背中を叩くガイアリーフ。


「そうでしょうか」

「当然だ」


 と、目を丸くする。

 そんなことも分からないのか、といった目だ。


「信用無いんですね、私」

「あると思っていたのか? 元追い剥ぎ」

「追い剥ぎは廃業です……」


 ガイアリーフはカカカと笑うと、店主にエールを注文した。


 ◇


 盾は軽くもなく重くもなく、ちょうど良い重さだった。

 円形の盾である。


「師匠」


 アリムルゥネがガイアリーフを呼び止める。


「なんだ」

「盾、ありがとうございます!」


 再び礼を口にする彼女。


「そう何度も礼を言われてもな。それに、元々の材料はお前が拾ってきた鋼だぞ?」

「それはそうですが、お礼を言いたい気分なんです!」


 アリムルゥネはニコニコして言った。


「そうか。ならば存分に礼を言うと良い」

「はい、ですからありがとうございます!」


 終始、アリムルゥネは機嫌がよかった。

 そのうち、ガイアリーフもつられて機嫌がよくなったことは秘密だ。

 もっとも、そんなガイアリーフの心の内は、魔導師オルファにはまるわかりだったらしい。

 オルファはルミナン商会を調べていた。

 すると、やはり店で見かけた例の男が出入りしている様子は全くなく、口から出まかせか、たんなる嘘だった可能性が強まった。

 どちらにせよ、怪しげなスカウトの話であったのだ。

 このことを二人に告げると、ガイアリーフはため息一つ、アリムルゥネは神妙に聞いていたという。

 それでもアリムルゥネは度胸が据わっているのかどうなのか、今度勧誘に来たら、どうしますか? などと師匠のガイアリーフに聞いていた。ガイアリーフもガイアリーフで、適当にあしらっておけばいいんじゃないのか? などと、物の役にも立たない助言を返していて、当のオルファは絶句するのである。

 オルファは今度勧誘に来たら、個人的には締め上げて、例の教団との関係がないかどうか、しっかり尋問したいなどと思っていたのであった。二人には、秘密の話である。

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