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03-09 新たなる二つ名

 ガイアリーフとアリムルゥネが魔化された鋼鉄を売却しようとした、その時である。


「待ってください!」


 オルファが商人との間に入って止めた。

 商人が怪訝な顔をする。


「加工するんですよね、職人と直接取引しましょう」


 以前にもあった。

 あれは革の鎧を作る時だったか。


 ◇


 煙たなびく、鍛冶屋横町へ向かう。


「俺はこの工房の主、ライフンだ。これは鋼鉄の牛……あんたが"牛殺し"か?」


 さっそく知れ渡っていて、うつむくアリムルゥネ。

 でも、ここは開き直り、


「そう! 私が群狼の、そして牛殺しのアリムルゥネ!」


 そうか。しかし……細いなあ、娘さん」


 付け焼刃のアリムルゥネの威光は通じなかった、


 屑鉄を渡して、防具への加工を依頼する。

 重い防具だ、ガイアリーフ専用と言えよう。


「盾を作ってくれるか?」

「余った材料を討ちで引き取っても良いんなら、ただで作ってやるぜ」


 親方、ライフンは言う。


「ありがたい」

「お? この条件で良いのか? ならば、いやいや、俺の方こそありがたい」


 ライフンは頭を撫でた。


「それと、革の盾の周囲を鉄で補強した者も用意できるか? こちらは、なるべく軽くなるように作って欲しい」

「ああ、エルフの娘さん用だな?」


 ライフンとガイアリーフ、二人の視線がアリムルゥネへ行く。


「そうだ」

「わかった。両方で一週間ほど待ってくれるか?」

「良いだろう。期待している」


 ライフンはカカカと笑った。


「ああ、期待してくれていい。このライフン工房の誇りに賭けて、闘技場の星、"群狼の"じゃなかった"牛殺し"の盾をこしらえて見せる」

「頼む」


 ◇


「ガイアリーフ、仮にも魔化した鋼鉄、もっと取れましたのに」

「いいやオルファ、欲張りは良くない。相手にも利益の出るような取引でないと、満足のいくものは造っちゃくれない」

「それもそうですね」


 食い下がるかと思えば、あっさりと引き下がったオルファ。


「それにしてもガイアリーフ。どうして盾なのですか?」

「この前、鎧を作ったので今度は盾だ」


 対して考えてはいない理由のようである。


「師匠、考えなしの行動はダメなんじゃなかったのですか?」

「俺はいつもお前に合った特訓方法を考えているんだがな?」

「それにしては今の発言、適当さがにじみ出ていたのですが」

「アリムルゥネ、なにを疑う、決して、そんなことは無いから」

「そうでしょうか」

「そうとも」

「剣に誓えますか?」

「誓おう。棒を拾え、アリムルゥネ」

「はい」


 お互い、道端に落ちていた木切れを取り構える師弟。


「いざ」


 摺り足のアリムルゥネ、棒を振り上げ一気に脳天を叩き割りに行く。

 軽くかわしたガイアリーフ、小手を狙うと見せかけて、その筋は胴へ。

 横っ飛びにアリムルゥネ、強引に体を立ちあげて棒を掃う。

 ガイアリーフは予想していたのか、そんなアリムルゥネの鼻先に棒を突きつけるのだった。


「勝負ありだアリムルゥネ」

「負けてませんもん」

「ならば来い」


 と二回戦。


 お互い軽く棒で打ち合えば、お互いに引く。

 そしてアリムルゥネは後ろ脚で蹴って加速する。

 ガイアリーフも前に出る。

 アリムルゥネがガイアリーフの目前から消えた。

 空中である。

 回転するアリムルゥネに、ガイアリーフは棒の先で軽く払ってアリムルゥネの重い一撃を脇にどける。

 かわされたアリムルゥネは大地に立つと、雄叫びを上げてガイアリーフに切りかかる。


「えい!」


 大振り。

 しかし、ガイアリーフの防いだ棒切れは、アリムルゥネの棒に負けて折れていた。


「やった!」

「隙あり」


 こつん。


 ガイアリーフはアリムルゥネの頭を叩く。

 折れた棒切れで叩いたのである。


「あ痛」

「勝ち名乗りが早すぎる」

「むー」


 納得がいかないアリムルゥネだったが、彼女は唇を尖らせ、むくれるにとどめた。


「リンゴ、食うか?」


 道端の石に座り込んでしまったアリムルゥネにガイアリーフが一言。


「いただきます!」


 と元気にアリムルゥネ。

 続く白い歯による咀嚼音。

 弟子。機嫌はたちまちのうちに直ったようであった。

 師匠は安心した。

 しかし、今回は棒を折られた。

 アリムルゥネの剣威は増しているような気がしてならないガイアリーフであったが、気のせいに違いないと思い込むことにした。

 弟子が独り立ちするには早すぎるような気がしたからである。

 実際、今能天気にリンゴを食べているアリムルゥネならば、刺客の手にかかればたちまちのうちにやられてしまうであろうと思えた。守ってやらねば。

 そう、ガイアリーフは思うのである。


 物欲しそうに、見上げる顔が一つある。

 ガイアリーフは仕方なしにもう一つリンゴを取り出す。


「もう一つ食うか?」

「いただきます!」


 と、破顔するアリムルゥネであった。

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