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03-06 トーロ教団の牙

 敵の魔術師の雷電が飛び交う。

 オルファが対抗魔術──こちらも紫に迸る雷電だ──を放ち、トーロ教、奈落の青銅の家教会教徒の攻撃を無効化する。


「突入!」


 ガイアリーフの掛け声一つ、アリムルゥネがミスリルの小太刀を一本引き抜くと、七色の光を放つその得物を手におびただしい数の敵に肉薄する。


 切る。

 ──切る。

 断つ。切り裂く。


 アリムルゥネは片足を芯に、コマが回るように回転し、敵を討った。

 傷ついた敵は怯み、前後が交代する。

 新たな敵らは怒りに燃えて、我先にとアリムルゥネに掴みかかる。

 一方で、ガイアリーフは光の刃を振り回し、敵の幹部と渡り合っていた。


「人間種こそ至上!」


 だからどうしたと言わんばかりの無表情でガイアリーフは敵の剣を捌く。

 敵の剣はそれなりに鋭く、相手の腕は立ったが、相手の剣の刃が光に触れると、剣は刀身を溶断されてゆく。

 どんどん短くなる剣に、敵は慌てた。


「オルファ、援護を!」

「マナよ、我が手に集いて混沌の名の元に破壊の王となれ。ファイヤーボール!」


 途端、火炎球が生まれ、隅に放り込まれるとそこから爆炎が生じた。

 アリムルゥネの目の前に広がっていた信徒たちが一斉に爆発の炎に巻かれて倒れ込む。

 アリムルゥネも巻き添えを食らって大怪我を負うところであったが、ギリギリのところで飛び退き難を逃れる。


「師匠!」

「なんだ」

「みんなやっつけちゃって構わないんですか!」

「皆お前の敵だ」


 ゆらゆらと立ち上がり、呪いの言葉を吐きながらアリムルゥネに迫る信徒たち。

 アリムルゥネが伸ばされた短剣を弾き、その隙に胸に一撃を食らわせる。

 相手は倒れた。

 しかし、直ぐに次の相手が現れる。

 相手はいささかも戦意を失ってはいない。

 その眼は、エルフへの憎しみに爛々と輝いていた。

 アリムルゥネは間を縫って、ミスリルの小太刀で一人づつ相手をしていったのである。


 ガイアリーフの剣が相手の喉を貫き、場が静かになる。


「オルファ、調べることは出来るか?」

「少し時間を……ん、この手紙……ああ、ここは一支部に過ぎないようです」


 本部? あるいはほかの支部からの手紙が多数だ散在していた。


「俺たちが襲撃を掛けたことは全国に知れ渡るぞ」

「裏社会からのお尋ね者ということになります、私たち全員が」


 オルファがあっけらかんとして言う。


「えー!? そうなんですか!?」

「黙れアリムルゥネ、お前は以前から彼らのお尋ね者だ」

「ううう」


 アリムルゥネは凹んだ。


「それに、追い剥ぎは縛り首だぞ」

「ううう」


 ガイアリーフに指摘され、アリムルゥネは泣くしかない。


「どれほどの速度で知れ渡ると思う?」

「電光石火で」

「ならば、下手に拠点を移す必要もないか」

「この街、フォルトを引き払うつもりだったのですか師匠?」

「そのつもりだった。だが、ここまで大事件にした以上、その必要もないだろう。官憲を呼べ。邪教徒を根絶やしにしたと伝えろアリムルゥネ」


 邪教徒……確かに、人間至上主義を実行に移そうとした邪教徒だ。


「邪教徒?」

「違うのか?」

「いいえ、彼らは邪教徒です。それも立派な」

「だろう。だったら早く衛視を呼んで来い。俺たちは少し調べものがある」


 ◇


 衛視の一人は、松明で照らされた部屋の惨状を見て、吐いた。

 衛視のもう一人は、さめざめと泣いた。

 衛視の隊長は、トーロ教団の名前を聞いて、納得した。


「彼らは降伏しなかったのですね?」

「ああ。特に勧めはしなかったがな。申し出は無かった」


 ガイアリーフは嘘は言っていない。

 淡々と事務的なやり取りが続く。


「彼らの遺体から何か取りましたか? 拾得物は?」

「この聖印だ」


 木に男女が絡まった聖印。銀製のものだ。

 あと、刃を黒く塗った刃物が数点。


「明らかに暗殺用のものだな」

「違いない」

「ガイアリーフ殿」

「ん」

「我が街フォルトの治安維持に協力していただき感謝します。そちらの女性二人は? ああ、"群狼の"……それに、魔術師殿ですか。ガイアリーフ殿のお仲間で?」


 知らずとアリムルゥネも有名になっていた。


「ああ」

「この炎の痕はファイヤーボール……」

「この痕は……刺し傷だな」

「この連中……全員が武器を持っている……全員が戦闘員か!」


 衛視たちはまだなにごとか調べているようだったが、ガイアリーフら、アリムルゥネたちは解放された。


 ◇


 黄金の羊亭、ハーバシルは事のあらましをガイアリーフから聞いていた。


「大変だったようだな」

「なんのことは無い。ただの下水道の掃除さ」

「えー!? 大変でしたよぅ」

「お前のためなんだぞ?」

「……ごめんなさい師匠」


 なんだか、後を引くもの良い。なんとなく、すっきりしない。

 都市の暗部、社会の暗部に触れたことが、歯切れの悪さを演出しているのかもしれない。


「とはいえ、アリムルゥネ、お前は頑張った。どうだ、リンゴでも食うか?」

「はい、いただきます!」


 真っ赤に熟れたリンゴが投げられる。

 アリムルゥネはそれをガイアリーフから受け取ると、貪るように歯を立てて食べるのだった。


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