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03-05 下水道

「下水道は遺跡と繋がっていて、完全な地図は無い」


 黄金の羊亭店主、ハーバシルの親父はこう言ってガイアリーフに謝った。


「魔法の無効化地帯があるようです」


 と、オルファは魔法の目(ウィザーズアイ)を飛ばした結果を伝える。

 そして、今、使い魔に追わせているとも。


 都市フォルトの地下深くに広がった下水道。

 古代の浄化システムは、今なお健在で都市の水質を一定に保っていた。

 そして、多くの古代遺跡にあるように、この下水道も未知の領域が多い。

 都市を追われた犯罪者や住む場所の無い下層民の格好のねぐらとして、それなりの需要はあった。

 そのうえ、汚水に群がる数々の生き物からも、好かれていたのである。


 ◇


「アリムルゥネ」

「はい、師匠」


 ガイアリーフはアリムルゥネを卓を挟んで正面に座らせていた。


「お前に知らせることがある」

「なんでしょうか」


 アリムルゥネが力んで言う。


「お前の敵の正体がわかった」

「え!?」


 飛び出す。


「お前、危険だが、自ら運命と戦ってみる気はあるか?」

「……」


 目を閉じたり開いたり。


「例の、邪教徒だ」

「……」


 無言が続く。


「うん、迷うよな。それは」

「戦います」


 だが逡巡は一瞬。

 言い切った。


「なんだと?」

「戦って運命を自ら切り開きます!」


 今度は身を乗り出していた。


「良く言った。だが、本気か?」

「本気です! 正気です!」


 卓を叩いて言い切るアリムルゥネ。


「よろしい、ならば、戦といこうか」

「はい師匠!!」


 握り拳にミスリルの刃が光っている。


 ◇


 水晶玉を前にしたオルファの横に来て、ガイアリーフは言い放つ。


「敵の本拠をオルファに追わせている……!」

「そうなんですか?」


 半信半疑のアリムルゥネ。

 だが、そうしている間にもオルファは答えを出していた。


「ガイアリーフ、猫さんが見つけました……増設区のストーンゴーレムの先が怪しいです」

「あからさまに怪しいな」


 十分に怪しいだろう。


「敵は?」

「トーロ教団。 奈落の青銅の家教会。家族ごと入信させるという噂のカルトだ。いろいろと噂がある。どれも良くない噂ばかりが先行し、特に人間種を最上のものとし、異種族を忌避する傾向が強いことで知られている。……怖気づいたか? アリムルゥネ」


 アリムルゥネの手先の震えを見てガイアリーフは言い放つ。


「いいえ、武者震いです!」


 強がりにしても上出来だ。

 アリムルゥネ。その眼は嘘を言っていない。真っすぐにガイアリーフを見つめる目。真摯と言えた。


 ◇


「うぇっぷ、鼻が曲がりそうです!」

「下水道だからな。オルファは大丈夫か?」

「ローブが汚れそうですので、防護の魔術を……」

「そんなものまであるのか」

「備えあれば患いなしです」


 お世辞にも綺麗とは言えない。

 下水道。ここは都市フォルトのあらゆる意味での掃き溜だ。


「粘液状の……ブロブか。奴ら、俺たちを敵と認識するかな?」


 プルンと震えるゼリー状の粘体がいた。

 彼らがごみを食べ、そして正常な物質として排泄物を出すのである。

 掃除屋。

 それがブロブであった。


「どうでしょうか」

「アリムルゥネ、敵対行動をとられた場合、中央の核を突け。そこ以外は切り付けても効果は無いぞ?」

「わかりました師匠! ……って、揃ってこっちに来ますぅ!」

「泣くな、剣を抜け!」

「はい師匠!」


 との散る粘液にも拘らず、アリムルゥネは善戦した……様な気がする。


 アリムルゥネの一撃!

 核を狙ったミスリルの小太刀の一突きは、勝手気ままに動いていたブロブを硬直させた。


「やった!」


 ブロブが一気に凍結する。

 下水に落ちて、大きな染みをアリムルゥネは被ったのである。


「で、こいつか……ストーンゴーレム!」

「こうしてみると、(せき)ですね」

「そうだな、堰だ。一気に壊すぞ? 全力で殴れ、力こそが正義だ!」

神の一撃(ゴッドフィスト)!」


 オルファの掛け声とともに、巨人の拳が石のゴーレムを殴りつけた。

 ゴーレムに大きなひびが入る。


「食らえ!」


 ガイアリーフが光の刃で切りつける。石のゴーレムの体は一気に溶断された。


「よし、アリムルゥネ、あとは任せた」

「はい師匠!」


 ぺち。

 ぺちこ。

 ぱち。

 ぷち。

 ぱち。

 ぺち。


 ……。


 いかなるアリムルゥネの攻撃にも関わらず、一向に石のゴーレムが傷つく気配がない。


「おい、アリムルゥネ」

「はい、師匠!」

「反省の言葉は」

「……ごめんなさい」


 純粋に力が足りないのであった。


「やっ!」


 ガイアリーフが光の刃で切りつける。

 石のゴーレム、ストーンゴーレムは体を二つに断ち割られ、その残骸、瓦礫を晒した。


「師匠、できることなら私が倒したかったです!」

「そうだな、できることならな」


 なだめるガイアリーフ。

 そして、


「できることから始めるんだぞ」と言うのであった。


 時に、戦いの終わった戦場を蠢く影が一つ。


「ん? オルファ?」

「ゴーレムの核を探しています。高く売れますので」

「……つくづく商売人だな、あんたは」


 ガイアリーフは溜息を吐き出すように息をした。

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