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03-03 装備と戦術

 ランディス司祭が地を蹴った。

 短剣が走る。黒い刃が二枚、立て続けにアリムルゥネを襲った。

 翻る黒マント。

 アリムルゥネは短剣を小太刀で受け止める。

 重なる金属の響きが打ち鳴らされ、滑る刃があの時のようにまた、アリムルゥネに力比べを強いていた。

 押されるアリムルゥネ。

 下がり続けるアリムルゥネ。

 蹴る。ランディスの脚は動じない。

 蹴る。ランディスの脚は動かない。


 ──そしてついに、


 アリムルゥネは唾を吐く、相手の目に向かって。

 一瞬鈍るランディスの力。

 アリムルゥネはその隙に重なり合った刃を解いては後ろに大きく下がる。


 ──まただ。騎士の戦いではなかった。


「おわかりでしょう。あなたには素養がありません。騎士の素養」


 アリムルゥネは小太刀を逆手に持って、ランディスに迫る。右に飛び、左に跳んで、右を蹴る。


「ですが──」


 言いかけたランディス。

 見事に虚を突かれたランディスは振り回されて、短剣を持ったままたたらを踏む。

 好機と見たアリムルゥネが突っ込む。

 二人の刃が交差した。

 黒いマントがはらりと脱げる。

 緑色の貫頭衣が顔を出す。

 ランディスの脇腹が裂けていた。

 僅かに赤い色が滲んでいたのである。


「あなたには騎士の素養は無い。でも、冒険者としての素養はある」


 ランディスは戦いの構えを解いた。

 呆けたアリムルゥネは小太刀を握ったまま離さなかったが、「姉ちゃん、姉ちゃんってば」とのウシュピアの一言で小太刀を仕舞った。


「冒険者の技を磨きなさい、アリムルゥネさん。──あなたにはその道が似合ってる」


 ランディス司祭は腹に鈍く光を放つ手の平を当てつつ、踵を返して去ってゆく。

 その背中は、アリムルゥネにはなんだか小さく見えた。


 ◇




 あれから一週間の後。

 革細工工房、コンライド工房に出向いた三人は、店主のコンライドから歓迎を受けた。


「できてるぜ、ええと、ガイアリーフの旦那」


 奥へ向かい、


「これだ」


 と鎧一揃えを示す。


「おお、これが革の鎧(ハードレザー)か! 出来上がったんだな?」


 ガイアリーフが胴を、小手を手に取り顔が綻ぶ。

 それをオルファが覗きこんでいる。


「アリムルゥネ! お前のもあるぞ!」

「私のも! やったー! ありがとうございます!」


 さっそく着てみた革の鎧(ハードレザー)

 体を色々と曲げ、伸ばし、動かしてみる。

 窮屈でもなく大きすぎることもなく、体の動きに合わせて程よい造りとなっていたことを確かめた。


「良いんじゃないかこれ。この品、良いね」

「気に入りました師匠!」


 ガイアリーフの横蹴り。

 アリムルゥネは肘甲で受ける。

 ガイアリーフの握りこぶしがアリムルゥネの胴に当たる。

 どちらも結構大きな音がしたが……。


「二人とも、良い動きしてるわ」


 オルファの言葉に、


「痛くない! ……痛くないです!」

「よし、上々かな、この鎧」


 と、二人。


「気に入ってくれたかい」


 コンライドはカラカラと笑う。


「ああ、ありがとう」

「ありがとうございます!」


 真新しい鎧を着た二人と、連れの一人は、店主に礼を言い去って行った。


 ◇


「アリムルゥネ、棒を持て」

「はい、師匠」


 アリムルゥネが木の棒を用意する。


「今から防具を効果的に使った戦い方の練習をする」

「防具を効果的に使う?」


 弟子が首を捻った。


「そうだ。防具を信頼して、少々の打撃なら体で受けるんだ」

「えー!? 怖くないですか!?」


 アリムルゥネが目を丸くする。


「怖い。怖いと思うお前は正常だ。だが、勝負はいつだって真剣勝負。次の一撃を封じるため、あえて自分の肉を切らせてでも相手に止めを刺さねばならない時がある」

「えー。痛そうです師匠」


 半眼。


「物の例えだ」

「ですよねー。安心しました」


 あからさまに安心して見せるアリムルゥネ。


「安心するな。練習するぞ」


 木の棒を構えて対峙するガイアリーフとアリムルゥネ。

 ガイアリーフが少しよろめく。あからさまに作られた隙だ。

 だが、アリムルゥネとしてはそれに乗るしかない。弟子は動いた。

 弟子の木の棒が走る。見えない!


「少しはやるように……くっ」


 結果を言えば、アリムルゥネの木の棒はガイアリーフの胸を掠った。

 そして、アリムルゥネは頭を殴られてたんこぶを作った。


「わかったか? アリムルゥネ」

「わかりました、肉を切らせて骨を断つ……私はマネをしたくないです」


 頭を押さえて涙すら見せるアリムルゥネである。


「そうか。だが、覚えておけよ?」

「はい、師匠」


 泣く泣く頷く弟子であった。


「泣くな。ほらリンゴだ」

「やったリンゴ! ありがとうございます師匠!」


 さっそくかぶりつくアリムルゥネ。その目尻にはもはや涙の跡は見えなかった。


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