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00-02 エルフの少女


 彼の気まぐれが出た。


「親は」


 少女が首を横に振る。


「兄弟は」


 またも横に振る。


「ついてくるか?」


 コクリと頷かれた。


「これを貸しておこう。身を守れ」


 投げたのは小太刀。

 少女は受け取る。


「名は?」

「……アリムルゥネ」

「なにをして暮らしていた」

「……追い剥ぎ(おいはぎ)!」


 少女、アリムルゥネは小太刀を抜いてはガイアリーフの胸を一閃する。

 そして、目を丸くした。


「……かわされた……」

「危ない餓鬼だ」


 アリムルゥネの蒼く残光を放つ峻烈な刃は、ガイアリーフに傷一つつけていなかった。


「冗談!」


 二撃目を撃ちかかって来ると、彼は金属の筒から生えた光の刃でそれを防ぐ。

 これぞ、ライトの打った剣である。


「なにこれ」

「ふむ。さすがにミスリルは切れないか」

「この小太刀、ミスリル! 値打ち物!」


 一転、お金に目がくらんで反転し逃げようとするアリムルゥネを、ガイアリーフは一刀のもとに背中から打ち据える。


「ぎゃっ!?」


 と、アリムルゥネが地に這えば、


「……確かに殺さずの機能もあるな、この剣には。人ではなく、魔を切る剣、か」


 光の消えた金属の筒を眺めやるのであった。


 ◇


 ゆっくりと白の街道をガイアリーフは歩いていた。

 その後ろに、付かず離れず、金髪碧眼の薄汚れた少女が着いて来ている。

 太陽も西に傾き、それそれ野営の準備でもしようかと思いつつ、立ち止まったときのことだ。

 ふと、少女のことを思い出し、声を出してみる。


「どこまで追って来る気だ、追剥。小太刀はくれてやるから去れ」

「薪を集めて来ました!」


 歩いている間に集めたのであろうか、アリムルゥネはどさりと一抱えはあるであろうそれ、枯れ枝を下に降ろした。


「……頼んでいない」

「私に剣を教えて欲しいんです!」


 アリムルゥネの目は輝き澄んでいる。


「断る、と言ったら?」

「そんなことを言わないで、師匠!」

「俺はお前の師匠ではない」

「私の剣をかわしたのはお前……じゃなかった、師匠が初めてなんです!」


 確かにアリムルゥネの剣の腕は凄かった。


「そうか。お前はずいぶん沢山の弱者を切ってきたようだな」

「違います! 強い剣豪だって、強い将軍だって!」

「……嘘はいけないな、嘘は」

「ばれたか!」


 妙に浮ついた声に、虚偽の色を見た。


「ばれるに決まっている。小娘」

「私はアリムルゥネと言います。師匠は? そういえば名前を聞いていませんでした!」

「お前に名乗る名などない」


 ガイアリーフは頑なだった。


「師匠、名前は? 名前くらい教えてくれても良いではありませんか」

「失せろ」


 ガイアリーフはさっさと夕餉の支度を済ませてしまう。

 焚火を囲んで、二人は座った。


「……師匠はどこ出身の人間なんですか? この土地の者じゃないでしょう?」

「さてな」

「タッドの内海です? タッドの内海周辺には師匠と同じ、肌の色が真っ白な人々が暮らしています」


 タッドの内海はラオシャード地方にある内海だ。

 海は青く澄んでいて、波はおだっやか。気候は温暖。

 人が暮らすには良い場所だ。


「ここは内海からずいぶん離れているぞ。お前こそ、どこの生まれだ」

「お。興味がありますか? 興味が出てきましたね? ……良い傾向です」


 アリムルゥネが身を乗り出してきた。


「……知らぬ」


「ケチ」、とアリムルゥネが引っ込む。


「私は冒険者になりたいんです!」

「冒険者なら、どの街でもなれるだろう」


 至極当然の話をしてやる。


「私は盗賊じゃなくて、騎士として名を馳せたいんです。盗賊の英雄なんて、聞いたことない」

「そんなことは無いぞ? 多くのサーガに謳われている」

「戦士や騎士を補佐する役目としてでしょう!」

「そうだな。だが結局はお前はエルフ。エルフは亜人として、人間の補佐役として謳われることになる」


 亜人。人間。

 いったい、いつそのような区別が出来たのであろうか。

 神様がそれを作ったというのなら、それはとても不条理だ。


「良いもん。エルフの盗賊なんて、それこそ補佐役の補佐役じゃないの?」

「それでも英雄の補佐をした人物として名は残る」

「それじゃー嫌ーだー!」


 アリムルゥネは駄々っ子のように跳ねた。


「お願い、剣を教えて下さい!」


 と、言うが早いか、アリムルゥネは小太刀を抜く。

 その目は、獲物を狙う鷹の目。

 だが、動きはガイアリーフの方が早かった。


 ガイアリーフの背後の木。

 そこに大人の腕程はある太さの、大人二人分の身長はありそうな蛇が枝を伝って這い降りて来ていたのだ。

 焚き火の炎に当てられて、その影は蟒蛇(うわばみ)のように大きなものとなっている。


 頭に穴が開いていた。

 ガイアリーフが、視認せずに気配だけを感じて、後ろに投げた金属の筒から生えた刃で突き刺されたのである。

 そして、胴体はアリムルゥネの投げた小太刀に貫かれ、枝に縫い留められていた。


「……また負けました。師匠の勝ちです」

「そうだな、アリムルゥネ。お前の負けだ。武器はそれしか持っていまい? もし、組付かれて締め上げられたとき、どうするつもりだった?」


 アリムルゥネは意気消沈している。


「……ごめんなさい」

「そうだ。冒険者失格だ」

「はい、師匠」


 ガイアリーフは辛辣だ。

 だが、次に意外な言葉をアリムルゥネは聞いた。


「まあ良いだろう。今の気配の読み方は良かった。俺はガイアリーフという」


 ガイアリーフは胸を張る。


「師匠!? それが師匠のお名前!?」


 名を聞いたアリムルゥネは目を丸くした。


「そうとも。ガイアリーフ。これが私の名だ。お前を弟子に取ろう、アリムルゥネ」

「ありがとう、師匠!」


 アリムルゥネは飛び上がって喜んだ。

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