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英雄ドルドラス三世  作者: 三国志浪
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求道者 フェンダ

ローエルとルーガ、それと彼らの仲間47名はカドリアの直属の配下になることに決まった。これに感激したローエルが、

「王子、推挙したい人物が居ます。」

「それはありがたい。どのような人物なのだ?」

「私が兄と敬愛している人物で、名をフェンダと申します。彼は頭脳明晰、また武芸の達人でもあります。すべての道の探究者でそのこと如くに通じています。世界平和の理を探求なさろうとしている王子とはきっと気が合うでしょう。」

「それは凄い。是非会いたい。」

「早速、ルーガと共に行って連れてまいります。夕方にはお引き合わせできるかと思います。」

「では、宿屋で待つとしよう。楽しみにしている。」

「吉報をお待ちください。」

ローエルは片膝を付き一礼をする。カドリアはローエルの屋敷を後にした。


 フェンダは街を抜けた森の奥に住んでいる。二人は大急ぎでフェンダの住居へと向かった。

「兄貴、居るかい?」

ローエルが戸口でバカでかい大声を張り上げる。フェンダの家は奥に広いため大きい声でなくては届かない可能性がある。

「うるさい。」

戸口がすぐに開き、金色短髪の男が立っている。

「さすが兄貴だ。俺たちが来ることを予測していたのか?」

驚いた表情でローエルが尋ねる。

「誰が兄貴だ。フェンダ様と呼べ。出かけようと思って戸口で靴を履いていたところだ。そしたらお前のバカでかい声が聞こえたから、近所迷惑になる前に飛び出したという訳だ。そんな子供の様な大声を出してよく恥ずかしくないな。」

ルーガが辺りを見回したが家らしきものは一軒もない。

「近所迷惑って、迷惑になりそうな家はなさそうだが・・・?」

ルーガが不思議そうに言うと、フェンダは憐れむような口調で、

「だから筋肉だけの脳筋男はダメなんだ。我レベルの者になれば人間を主と考える愚かな思考はない。辺りには動物の巣や植物の住処がある。これすべて我が隣人だ。」

 脳金ダメ男と言われたルーガが右手を震わせ憤慨している。それをローエルが必死になだめた。

「それで何の用だ?我は忙しい。手短に話せ。」

「兄貴、・・・」

すぐにフェンダが右手を突き出し制止する。

「誰が兄貴だ。次、兄貴と言ったら話は聞かぬ。」

ローエルは仕方なくフェンダ様と呼び直した。そして、カドリアに会い臣従することを手短に話し始めた。

「ちょっと待て、カドリア王子に会ったのか?ドルドラス王国第一継承者であるカドリア王子に?」

ローエルは頷く。

「信じられん・・・。詳しい話を聞こう。二人とも家に上がれ。」

3人は向かい合って話し始めた。ローエルが詳しく今までの流れを話す。話を聞き終わったフェンダの表情は輝いていた。

「なるほど、平和のためには国が邪魔か。言われてみれば確かにそうだな。そのために世界征服をする・・・。壮大過ぎて考えがつかない。」

フェンダが輝いた顔でローエルを見詰める。ローエルも同じく頷く。

「思考の柔軟さ。そのスケールの広大さ。まさに英雄と呼ぶに相応しい。それでお会いできるのか?」

「兄貴のことは話してある。すぐにでもお会いして頂ける。」

「よし、すぐに向かおう。準備をする、少し待ってくれ。」

(よし、これで今後は兄貴と呼べる)

話の流れでたしなめずらい時を選んで兄貴と呼んでみた。ローエルは確信犯である。準備に向かおうとするフェンダが振り向いた。

「今は気分がいいから許してやる。次は殺すぞ。」

ローエルは首を竦めた。


 カドリアが宿で休んでいるとウルドが得意満々で戻ってきた。

「坊ちゃん、約束通り一廉ひとかどの男を見つけてきたぜ。」

言いながら目の前の椅子に座る。

「モリー、ちょっと外してくれ。」

モリーが一礼をして出て行くのを待って、カドリアは話し始めた。

「ほう、どんな男だ?」

「ここらのゴロツキを束ねている男で名をガエルと言う。スパイや汚れ仕事をやらせるにはうってつけの男だ。」

「察しが良いな。さすがは俺が見込んだ男だけのことはある。」

ウルドは破顔し、

「だろうと思ったぜ。俺に期待されてるのは汚れ仕事だ。今までも金で汚ねえ仕事も多くこなしてきたからな。そういうことに向いている奴を選んで来たぜ。」

「で、何人使える?」

「15人」

「ほう、なかなかだ。これはボーナスだ。」

金貨の小袋を渡す。

「こりゃありがてぇ」

ウルドの顔が輝く。

「人が足りない。倍は欲しい。もっと集めてくれ。」

「任せてくれ。すんげぇ情報機関を作ってみせるぜ!」

ウルドが勢い込んで言う。

「当然、私のことは?」

「そんなへまはしねぇ。頭は俺だと言い含めてある。」

「素晴らしい。完璧だ。では、一人当たり3万の給金を出そう。うまく使ってくれ。」

ウルドは少し考えてから、

「3万は多すぎる。その半分でいい。」

「1万5千、いくら何でも少ないんじゃないか?」

ウルドはかぶりを振って、

「いやいや、そうじゃねぇんだ。その手の輩に金を渡すと碌なことにならねぇ。あいつらに余分な金を渡すと何に使うと思う?」

カドリアは考えたが答えが浮かばない。

「俗に言う、女、酒、博打だ。聞いた事あるかい?坊ちゃんはわからなくて当たり前だ。若いからどれもまだ知るまい?いや、その美貌だ。女は知ってたりしてな?」ここでウルドが下品な笑い声をあげる。

「そしてそれにのめりこむ奴は使い物にならねぇ。まあ、一時のめりこんでも復活すりゃーいいんだが、結構な時間がかかる。だから余分な金は渡さない方がいい。」

「そういうものか・・・」

カドリアは不審な顔で呟く。

「ああ、そういうものだ。」

「任せる。好きにしてくれ。」

そんな話をしていると、ローエルが尋ねてきたとモリーが報告に来た。通すように指示する。すぐにローエルとルーガ、その後ろに金色短髪の男がついてくる。

(あれがフェンダか。武術の達人?全く強そうに見えないな)

カドリアが見るところ、フェンダは瘦せた小男である。ローエル、ルーガは片膝を付き、カドリアとウルドに頭を下げる。ウルドもぺこりと頭を下げる。しかし、フェンダは両腕を組みそこに突っ立っていた。その態度が気に入らなかったウルドが、

「おい、お前。何で挨拶しねぇ。」と突っかかった。

「何故頭を下げなければならない?我はお前なぞ知らぬ。頭を下げる道理が無い。」

フェンダはウルドを見もせずに言い放つ。

「何だと」

声を荒げ椅子を倒しながらウルドが立ち上がった。その剣幕に初めてフェンダがウルドの顔を見る。

「おっ、我と死合おうというのか?」

そういうとフェンダは嬉しそうに、にた~と笑う。唇がめくれ上がり尖った歯が剥き出しになる。

「よいぞ。次の攻撃がお前の最期の一撃となる。悔いのないように人生最高の一撃を仕掛けてこい。我が道を究めるための生贄となれ。」

そう言うとウルドに無造作に近づく。

「馬鹿にしやがって」

ウルドは毒づくが向かってはいかない。それどころか後ずさりしていく。

(な、なんだこいつ。隙だらけだが、何かがおかしい。何か打てねぇ)

多くの戦闘を経験している彼には独特の勘がある。その勘がウルドに警報を伝えていた。

(こいつはやべぇ、謝っちまおうか)

そう思った時、

「フェンダ殿、失礼いたしました。しかし、その男は私の大切な将、許していただけませんか?」

カドリアがフェンダに話しかける。フェンダはくるりとカドリアに向き直ると、

「なんの、この片目男の傲慢な態度をたしなめるため、我は本気ではない。」

フェンダは真顔に戻っている。

(嘘つけー、本気だったろーが)ウルドは心の中で毒づいたがそれを言う勇気はない。

「面白くもねえ、俺は部屋で休むぜ。」そういって部屋を出るのが精一杯だった。

 フェンダはそんなウルドに一瞥もくれず、

「お前がカドリア王子?」

カドリアは少なからず驚いた。彼を王子と知りながら「お前」と呼んだのは祖父だけである。

「はい、私がカドリアです。」

「我が名はフェンダ、そこの男から面白いものを探求していると聞いた。詳しく知りたい。」

フェンダはローエルを顎で指し示す。

(どうやら慕っているのはローエルだけ、片想いらしい。)

そう思ってカドリアはおかしくなり小さく笑った。それを見咎めたフェンダが、

「なにを笑う。」と気色ばんだ。

「いや、私を王子であると知りながら「お前」と呼ぶのは祖父以来だと思ってな。ちょっとおかしくなった。ではこちらも遠慮はしまい。フェンダよ。天命を信じるか?」

「天命か。それを見つけるために我は道を追求している。いつか、すべてが解けるものと信じ、日々努力しているが、いまだに道は続いている。」

「俺は見たぞ」

「何?」

「俺には見えた。道の終わりが・・・、ただ、それを進むには人が足りない。フェンダ、俺と共に道を進んでくれないか?」

「いや、話が見えない。もうちょっと詳しく話せ。話によっては手を貸してもいい。」

カドリアは頷く。

「俺の探究する道は世界平和だ。来る日も来る日もどうしたら戦争のない平和な世界が訪れるのか、俺は必死で考えた。そしてある日、その答えを見つけた。いや、答えが頭の中に降ってきたと言った方がいい。何故だか分からないが、それが答えだと確信できた。自分の中で道がつながり、世界平和までの道筋がしっかりと見えたのだ。」

ここで言葉を切りフェンダを見てみると、彼は興奮した面持ちでじっとカドリアを凝視している。

「お前にこのような経験はあるか?」

「これが答えかと思ったことは少ないがある。しかし・・・、悔しいがそのような絶対的な思いは無い。」

フェンダは残念そうに首を振りながら答える。

「フェンダよ。そんなあやふやなものでは無いのだ。疑う余地の無い絶対不変の答え、それが自分の中に降り立ち、血となり進むべき道を指し示す。」

「それだ。我が求めているものはそれなのだ。」

フェンダが殺しそうな眼付きでカドリアを睨みつけ身悶えする。

「ならば俺に従え。さすれば見えるかもしれぬぞ。」

「本当か?お前に従えばこの求道を終わらせることができるのか?」

今度はすがるような眼でカドリアを見詰めてくる。

「確約はできない。しかし、俺の血がお前を求めている。きっとこの血がお前の求道の道筋を照らすだろう。」

「おおっ」

フェンダは感嘆の声を短く上げると、跪く。

「カドリア王子、今から貴方は我の主、存分に我の力を引き出し道をお示し下さい。」

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