10倍の敵と精鋭隊(1)
作戦会議が終わるとタイガは急いで精鋭隊に戻り召集をかけた。召集は本来、モリーの役目なのだが、モリーはカドリアの護衛をしているのでタイガ自身が招集をかけた。
程なくして全員が集まる。
「隊長直々の召集とは懐かしいな」
古参の隊員が懐かしそうにタイガに話しかける。
「モリーは王様の護衛だからな。俺がやるしかない。」
そのタイガの言葉にギライトと言う男が、
「あっちの方の護衛も頑張ってたりしてな」
と下品な声を上げた。その刹那、タイガはギライトに猛然と向かうとその左頬を殴りつけた。ギライトが吹っ飛ぶんだまま動かなくなる。タイガが起こせと命令すると近くの隊員がギライトを揺り動かした。ギライトが目を開くとその前には屈んでいるタイガの顔があった。
「おい、二度と訳の分からねえ下品なものの言い方をするな。今度は殺すぞ」
ギライトが必死で頷く。タイガは立ち上がると、
「俺たちは以前の俺たちじゃねえ。王様直属の世界最強の騎馬隊になるんだ。いつまでもならず者のような言動をしていちゃいけねぇ。わかったか?」
「分かったぜ、隊長」
「おう」
とあちこちで分かったという声が上がる。タイガはギライトに右手を差し伸べると引っ張り起こした。
「なぁー、ギライト。俺たちが最強だろう?」
タイガはギライトを見据えた。
「隊長、変なこと言って悪かった。許してくれ」
「良いんだ。分かってくれればな。で最強は誰なんだ?」
ギライトは大声で、
「俺たちだ。」
と叫ぶ。その声に、「そうだ!」「俺たちに勝てる奴は存在しねぇ」と賛同する声があちこちで上がる。タイガはそれに右手を上げて答えながら、
「そう、最強は俺たち精鋭隊、その意気を忘れるな!今度の敵はランド国正規軍大連隊、今から一時間後に出陣する。用意して集まれ。散会」
「・・・・・」
その場が一瞬で凍り付いた。誰も動こうとしない。
「俺の聞き間違いか。隊長、大連隊と言いましたか?」
「そうだ」
と事も無さげにタイガが答える。
「そうだ・・・って、俺たちは一個中隊ですぜ。しかも相手は正規軍だ。そこらのチンピラとは訳が違う。」
あちこちでひそひそと話始める声があがる。それもそうだろう。今回の出陣は数の上では無謀でしかない。
ここで、この世界の軍隊について説明することをお許し願いたい。
この世界の軍隊は、
・小隊(軍隊の最小単位、約10名で構成される。戦闘ではなく偵察などの特殊工作などを行うことが多い)
・中隊(約50名~150名で構成) ・大隊(約150名~400名で構成)
・大連隊(大隊が複数で構成される。軍隊の最大の単位で約1000名以上で構成)
ドルドラス王国では最大三個大連隊、約3000名の兵士を用意することが出来る。世界最大のフェデラー王国であれば、1万名の兵士を用意することが出来る。幸なことに最大の強国フェデラーはドルドラスからもっとも遠い北に位置している。今回侵攻してくるランド王国は、ドルドラスとあまり変わらない規模の国である。それでは話を戻す。
タイガはあちこちで起こる不安の声を聴き、顔を左右に振りながら、
「情けない奴らめ、それでも世界最強を自負する者達か?お前ら、口先だけか?」
と大げさに嘆いてみせた。
「でもよ~、10倍以上の敵だぜ。全員が隊長みたいな化け物だったら勝てるかもしれねぇが、俺たちはそこまで強くねえ。」
「そうだ。囲まれて殺られちまう。」
その声にあちこちで賛同する声が沸き起こる。
「誰が化け物だ。何も真っ向から突撃するわけではないぞ。王様の研ぎ澄まされた策がある。俺はそれを聞きこの戦い絶対に勝つと確信した。」
そう言いながら、精鋭隊のメンバーの顔を見回したが不安な顔をしているものが大勢いた。タイガはため息をつくと、
「まあ、いいや。怖い奴は来なくていいぜ。さっきも言ったが、俺は今回の戦い必ず勝つと思っている。しかし、臆病風に吹かれている奴が居ちゃー、勝てる戦も勝てなくなるからな。むしろ邪魔だ。尻尾を巻いて逃げ出し二度と俺の前に姿を見せるな。俺と王様を信じられる奴だけでいい。1時間後」
そう言うとタイガは時計を見た。
「15時に集合、散会」
タイガはその場を後にした。