急遽クレアへ
「ユリアナ、お待たせ」
「カドリア君、遅い♡」
甘えるようにユリアナが駆け寄ってくる。
「ごめん。じゃあ、出発しよう」
そういうと馬車に二人で乗り込む。親衛隊長代行のモリーが先導をする。そのモリーに、
「クレアに行ってくれ」
と声を掛ける。それを聞いたユリアナは、
「えっ、クレアに行くの?」
「ちょっと事情が変わってね。もうすぐランド国が攻めてくるらしいんだ。」
「危ないじゃない。カドリア君が行くこと無いわ。私とモリーで十分よ。」
「いや、今回は僕が先頭に立たないと駄目なんだ。各国がドルドラスの新しい王の動向を探っている。先頭に立ち、相手を殲滅して僕が勇敢であることを他の国に示さないと、他の国にドルドラスは総攻撃されかねない。」
そこまで厳しい顔で言うカドリアだったが、不意に優しい顔になって、
「心配してくれるのは有難いけどね。大丈夫だよ。心配なら僕の未来を占ってみたら?」
その言葉にユリアナは首を振って、
「占うのも、結構疲れるのよ。それに私が止めてもどうせカドリア君は行くでしょう?」
その言葉にカドリアが頷く。
「だったら、無駄なエネルギーは使いたくないわ。」
カドリアは、出発を告げた。供には急遽、タイガの精鋭隊を随行させる。また、この事をローエルに伝え、敵が出陣したという情報を掴んだら軍隊をクレアに向かわせるよう連絡をした。カドリア達は6日でクレアに着き、ユリアナに戦場となる地を見てもらった。ユリアナは暫らく戦場を見渡していたが、突然振り返ると、
「カドリア君、ごめんなさい。私、見えない。」
舌を出して微笑んでいる。
「???」カドリアは少なからず驚いたが、彼女の占いは人を通して未来を見ることが出来るらしい。だから敵を直接見る事が出来ればその未来を知ることが出来ると言う。しかし、敵の大将を直接見ることは容易ではない。どうするか?カドリアは考えたが、上手い考えはすぐには浮かばない。
「ユリアナが男だったら無敵なのになぁ~」
「何故?」
カドリアは微笑みながらユリアナを見つめて、
「だって、相手の攻撃が予知できるだろう。だったら無敵じゃないか」
「そうか!だったら女戦士になるわ。そしてカドリア君の事、護ってあげる♡」
それを聞いてカドリアはあははと笑った。その笑顔を見たユリアナは、
「私、頑張る!」
と嬉しそうに言うと、
「モリー、武術教えて~」と言いながらモリーの元に走っていった。ユリアナをモリーに任せて、カドリアはタイガと供に地形を見回し、敵の動きを考えた。
カドリアはじっと戦場を見据える。そのまま10分以上が経った。
(まだ見るのか?)
じっと戦場を見据えて微動だにしないカドリアの美しい顔をタイガは遠慮がちに見た。なんとカドリアは目を閉じている。
(何をされているのだ?)
声を掛けようかと思ったが、何か侵しがたいものを感じそのまま待つことにした。タイガは空を見上げる。
(それにしても良い天気だ。だけど、雲の動きが速い。あっ、鳥が流されている。こりゃー上は風が強いな~。もしかしたら天気悪くなるかな?)
そんなことを考え、ぼーっとしていると、やがてカドリアが声をかけてきた。
「タイガ、お待たせ。行こうか。」
そう言うと、ユリアナ達の元に戻ろうとする。
「えっ、他の場所は見なくてもいいのですか?」
驚くタイガに
「うん、シュミレーションは終わったよ。」
振り返りながらカドリアが言う。
「そうですか。わかりました」
タイガはあっけにとられたが、急いでカドリアの後を追いかけた。