ドルドラス3世誕生
国王となったカドリアは、早速、ローエルとユリアナを呼びよせた。
「カドリア君~、おはよう!」
ぶんぶんと手を振りながら常と変わらないユリアナが現れる。それにカドリアも小さく手を振り返す。
「今日はお招きありがとう♡何のご用事かしら?」
ユリアナはスレンダー美人、話すととても女性らしくて可愛い人だ。ただし、フェンダが居るとおかしな様子になってしまうのだが・・・。
「うん、今日はこれからの事を一緒に考えたくてね。」
「これからの事?」
そう聞き返すユリアナの顔がみるみる赤くなる。あらぬ想像をしているのだろう。
するとそこにローエルが尋ねてきたと連絡が入る。
「王様、お呼びでしょうか?」
ローエルが片膝を付き深々と頭を下げる。
「うん、忙しいのにごめんね。今日はこれからのことを3人で考えたくてね。」
カドリアはそう言うと二人を連れて奥の部屋に移動した。近衛兵に、呼ぶまで開けるなと言って扉を閉めさせる。
扉が閉まるのを確認すると、
「ローエルはそこに、ユリアナはここに座って」と二人を座らせる。
「何か飲む?」
そういうとカドリアはポットのある方に向かっていく。それを見たローエルが急いで立ち上がり、
「とんでもございません。王様にそのような事をさせる訳には、私がやります。王様はお座りください。」
「大丈夫だよ。僕は友達にお茶を出したいんだ。それとも、僕と友達になるのは嫌かい?」
そういうとカドリアは不安そうにローエルを見つめる。
「いえ、そんなことはありません。光栄でございますが、あまりに恐れ多い・・・」
「恐れ多くないよ。それから、二人とルーガとタイガ、それからフェンダは、カドリアって呼んでいいよ。5人は特別な友達だからね。」
「いえ、それは・・・」
と言いかけるユリアナが、
「ローエル君、いいじゃないの。カドリア君がそうしたいっていうんだから、そんなだから、あのイカレ変態に馬鹿にされるのよ。」
(うっ、どっかで聞いたセリフ)
ローエルは黙った。
「カドリア君、私、紅茶。できれば、アップルティーがいいなぁ~♡」
「では、私は・・・、コ、コ、コフィーを」
緊張してローエルが注文を伝える。
「コフィー?ローエル、コフィーって飲み物、僕知らないけど?」
小首を傾げるカドリアにローエルは、
「コーヒーです。口が回らなくて、失礼しました。」
「なんだ、コーヒーか。僕の知らない飲み物が存在するのかと思ったよ!」
そう明るく微笑んだ。ローエルはその顔を見て赤面した。
(は、は~~~ん)
ユリアナが好奇の目でローエルを見ている。
「OK、すぐに淹れてくるから少し待ってて」
カドリアが去っていくと、ユリアナはローエルに顔を近づけて、
「ローエル君、カドリア君に惚れてるでしょう?」
カドリアに聞こえないように小声で語り掛ける。
「な、何を馬鹿なことを、カドリア様は男ですぞ!」
剥きになって否定するローエルをユリアナは冷ややかな目で見て、
「隠さなくていいのよ。職業柄そういう人たくさん知ってるから。お金持ちに多いのよー。少年連れてきて、占ってくれっていうの。しょうがないわよねぇ~。好きなものは好きなんだから、でもね・・・」
ここまで言うとユリアナはローエルを睨みつけて、
「わたし、負けないから!」
断言するとそっぽを向き一言もしゃべらなくなった。
(私がカドリア様の事を愛している?そんな馬鹿な、確かにお奇麗だと思うし、先ほどは不覚にもあまりの可愛らしさに見とれてしまった。しかし・・・、これが恋?王に恋心を抱く臣下?姫なら分かるが・・・、いや、姫でもまずいだろ。主筋に恋心を抱くとは不敬だ。違う、断じて違う。これは私がカドリア様に抱く尊敬の想いだ。)
自問自答を続けるローエルの元にカドリアが戻ってきた。
「はい、どうぞ」と言いながらユリアナの前に紅茶、ローエルとカドリアの前にコーヒーを置く。ユリアナがローエルを睨みつけてくる。どうやら、ローエルがカドリアとお揃いのコーヒーだということが気に入らないらしい。
(ユリアナさん、完全に敵になったな)
ローエルはため息をついた。
コーヒーを一口飲み終えるとカドリアは本題に入った。
「今日二人を呼んだのは、人事を考えてもらおうと思って呼んだんだ。草案は作ってみたのだけれど、どうかな?」
カドリアは草案の書いてある紙を二人に渡した。そこには、
総務大臣 ローエル
作戦参謀長官 ユリアナ
騎馬軍団大長官 タイガ
歩兵軍団大長官 ルーガ
親衛隊隊長 フェンダ
その他、ローエルとフェンダが推挙したものが、大勢要所に配属されていた。
「カドリア様がお考えになられたのですか?」
ローエルが驚いて尋ねると、カドリアは、はにかみながら頷き、
「どうかな?」
と逆に尋ねて来た。その姿が誠に愛らしくユリアナの目はすでにハート型になっている。
(これだ、これに見とれてはいけないのだ。私は違うぞ。私の念は尊敬の念、断じて恋などではない。)
「素晴らしい。変更する点は私には見受けられません。」
そう感嘆の声をあげ、カドリアの目を真っ直ぐ見つめた。顔も赤くならない。
「そう、良かった。」
カドリアは安堵し、目を輝かせる。その姿も誠に愛らしい。ユリアナはというとよだれを垂らしそうな勢いになってしまっている。
(ユリアナさん、見ているか?私は違う。私は違うのだよ)
「お見事です。無能な者はすべて排除されている。しかし、旧勢力の反感を買うでしょうね。それをどうするかですが・・・?」
恋などではなかったという自信を持ち、ローエルがカドリアに話しかける。カドリアもそれに頷く。
「カドリア様、私にお任せください。必ずや愁いの無い様に致してみせます。」
「うん、ローエル・・・、いや、総務大臣、よろしく頼む」
カドリアはそう朗らかに言うと、右手を差し出した。ローエルは急いで跪くとその手を両手で掴んだ。しかし、目線は下がり、顔は真っ赤になっている。ローエルの自信は霧散した。
一方、フェンダはルーガを怒鳴りつけていた。
「なぜ我が友を指名手配などしている。即刻取り消し、お前が謝罪をしてお連れして来い。」
ルーガは(あんたに友達いたの?)という言葉をあやうく発しそうになったが、何とか飲み込み、代わりに
「えっ、指名手配と言うと、前王暗殺の?」
「あの者達がそんなことに手を貸すわけがない。もし、あの二人が加わっておれば、前王は殺されていたはずだ。馬鹿め、そのようなことも分からぬのか。だからお前は脳筋男と呼ばれるのだ。」
(いちいちむかつく野郎だぜ。全く・・・)
ルーガは右の拳を思いっきり握りしめ歯を噛みしめて怒りに耐えた。
「兎に角、いますぐに指名手配は解け、もし、捕えようなどとすれば、我が主の兵を無駄に損なうことになる。二人は我が捜す。」
そういうと猛然と走り出していった。
「おい、当てはあるのか?」
そう呼びかけるとフェンダは振り向きもせずに何か言っているが良く聞こえない。
「なに~?」
ルーガが大声で聞き返すと、フェンダは振り向き、
「脳筋馬鹿男!」
と叫び返してきた。
「ふぬ~~~」
怒りのあまりルーガは近くの椅子を叩き壊した。