ローエルの策略
ユリアナが超ご機嫌でカドリアの元を訪ねるとそこにはすでにローエルとルーガが居た。
「ちょっと~、何であんた達が居るのよ~。」
ユリアナが頬を膨らませる。ローエルは至急カドリアに尋ねたいことがあり来たのだとユリアナに謝った。
「あっ、まさかイカレ変態は居ないでしょうね?」ユリアナが急いで辺りを見回した。
「兄貴は居ませんよ。」
笑いながらローエルが答える。それを聞きユリアナは胸を撫で下ろした。
「あんた達だけなら、まだましか。いい、用事が済んだらすぐに帰ってよ。私たち今から家デートなんだから♡」
「そうでしたか?それは失礼しました。」
あくまでも慇懃な応対をするローエルにユリアナは、
(まあ、ローエル君は良い人だから許してやろう)と心の中で思った。
「さあ、それじゃもう一回!」カドリアが楽しそうに言う。
「ではいきます!」
ルーガが咳ばらいをすると、
「息子よ。王位をカドリアへ譲れ。さもないと不幸がおこるぞ」
変に威厳のあるしわがれた声でセリフを読んだ。
「う~~~~ん、惜しい。私の祖父は・・・、もうちょっとアップテンポだったかな?」
カドリアが首をひねりながら、感想を口にすると、それを踏まえてルーガが同じセリフを繰り返す。たまにルーガがおかしなことになり、4人の爆笑がおこる。ユリアナは楽しそうに笑うカドリアを嬉しそうに見つめた。
(カドリア君、楽しそう。今日はこれでいいっか!)
ユリアナは今日カドリアとの相性を確かめることを諦めた。
その後も、物まねは続き、結局カドリアのOKが出たのは8時をまわったころだった。
カドリアは二人にも食事をするように勧めたが、ユリアナに遠慮して辞退しようとした。
「あんた達、カドリア君のお誘いを断るなんて打ち首もんよ。それに私もこんなに笑ったのは久しぶりだわ。4人で食べましょう!」
ユリアナがそう言うのではと4人は揃って夕飯を共にした。カドリアが御馳走を用意すると言っただけあり、料理はどれも抜群に美味しかった。最後のデザートとコーヒーが提供されたときに、9時を知らせる時計の音が鳴った。それを平らげたルーガが10時から王の護衛になるということでカドリアに暇を告げる。それを機に二人も立ち上がった。三人はそれぞれカドリアにお礼を述べると去っていった。
それから三日後、至急、王の所に来るようにという連絡がきた。
「分かった。すぐに参るとお伝えしろ」とカドリアはそれに返事をした。
(ルーガの奴、やったな!今度は私がしっかりしないと!)
カドリアは気を引き締めて王のいる部屋に向かった。カドリアが現れると、王様は相変わらずベッドの中であったが、前とは違って上半身は起き上がっていた。
「カドリアです。ただいま参りました。」
「おおっ、カドリアよ。よく来てくれた」
王のその言葉とは裏腹に表情は猜疑心に溢れている。
(一人息子さえも疑うのか?もっとも、殺す話しはしていたから、的は外れていないがな)とカドリアは心の中で苦笑した。
「王様、何用でございましょうか?」
「うむ、カドリアよ。お前は幽霊を信じるか?」
これを聞きカドリアはあやうく吹き出しそうになった。しかし、ここで吹き出してはルーガやローエルの苦労がすべてが無駄になる。カドリアはそれをぐっと堪えて自然な笑いに作り変えた。
「いや、それにはまだ出会ったことがありません。」
「笑うな。儂もそんなものが居るわけは無いと思っておったが、しかし・・・」
ここで王は言葉を切って恐ろしそうに辺りを見回した。そして何も感じないと判断したのだろう。小さな声で、
「父の声が聞こえるんだ。お前の祖父、ドルドラス一世の・・・」
(そら来た!)
しかし、今度はカドリアの心の準備も整っている。彼は完全に演技に入った。
「それは、お懐かしい。」
「懐かしくなどあるものか。儂は毎夜恐ろしくてしょうがない。」
「それはお気の毒に・・・、しかし私ではお役に立てそうもありません。」
カドリアがすまなそうに言うと、ためらいがちに声を掛けてきた人物がいた。
「私の知り合いにそれに詳しい者が居りますが?」
それを聞きカドリアは烈火のごとく怒ってみせた。
「貴様、私と王との会話に入ってくるとは・・・、誰かこの無礼者を牢にぶち込め」
しかし、それを王が止めた。
「カドリア、発言をした者はルーガぞ。彼は儂の命の恩人、儂と直接話をすることを許してある。そう怒るな。」
ルーガは暗殺者三人を殺したことで、王の絶対の信頼を得ている。今はカドリアよりもルーガの方が信頼されているだろう。カドリアが予想した通りの展開、「王がそうおっしゃるなら」とカドリアは引いてみせた。
「ルーガよ。その詳しい者とは?言ってみよ」
「はい、私の親友でローエルという者が居ります。ローエルは頭脳明晰で様々なことに精通しているのですが、特に心霊に強い興味を持っておりまして、彼ならば王様のお悩みを解決できるかもしれません。」
王は、これに飛びついた。早速そのものを連れてこいという王命が降る。「はっ」と返事をするとルーガは飛び出して行った。
(これで良し。後はローエルが上手くやるだろう。)
カドリアは、心の中でほくそ笑んだ。
「ご用事は済んだようですので、これで失礼いたします。」
そう言って頭を下げ出て行こうとする一人息子に王は、
「王子よ。ルーガが戻るまでここにいてくれ。儂は一人が怖い。」
(なるほど、近衛兵よりは私の方が信頼できるか。それにしても無様な男だ。)
カドリアは一瞬、怒りと侮蔑の混じった感情に捕らわれ、嗜虐的な酷く好戦的な気分になったが、
(もうこの男と関わることは今後ないだろう)と自分に言い聞かせ、
「ではそういたしましょう」
と短く言うとその場に残った。それからローエルとルーガが現れるまでの数分間は、カドリアには酷く長いものに感じられた。やがて、ルーガに連れられたローエルが現れるとカドリアは、
「参ったようです。王様、私はこれで失礼いたします。」
と背を向けるカドリアに王から掛けられる言葉は無かった。
それから二日後、カドリアのもとに「王位を譲る」という王命が突如舞い込んだ。
(ローエルとルーガ、よくやってくれた。これで自由に兵を動かせる。世界統一に動き出せるんだ。)
カドリアは高らかに笑った。
その後、王位継承の儀式は滞りなく済み、正式にカドリアがドルドラス三世となった。
ここからドルドラス王国の快進撃が始まる。