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英雄ドルドラス三世  作者: 三国志浪
13/26

武道大会のはずが・・・

その後、ユリアナは早速城に入ることになった。必要な者は、すべてカドリアが用意すると言ったのだが、どうしても持っていきたいものがあるというので、急いで荷造りを始める。その間もカドリアは城が攻められているのではないかと気が気ではなかった。しかし、そんなことはお構いなしのユリアナは悠長に「これはお気に入りだわ♡」とか「懐かし~♡」とか言いながら荷造りをするので一向に進まない。

「女、はやくやれ」

フェンダがイラつきながら促すと、

「やっているじゃない」とユリアナも苛立ったように答える。

「城が落ちてしまっては我が主の帰る場所が無くなる。」

「あ~ら、じゃー、あんた一人が先に行けばいいじゃない?」

「我には主をお守りする役目がある。・・・そうだ、貴様が一人で先に行け。敵が来るとわかっていれば貴様一人の指揮でも大丈夫だろう。」

フェンダがローエルを指さし、命令を下すように言う。

「なんでそうなるかな~。途中、襲われたらどうするんですか。嫌ですよ。」

「大丈夫だ。みすぼらしい格好をして、飲まず食わずでいけば、襲って来る者などいるわけがない。」

「お断りします」

そんな言い争いを見てカドリアが、

「ユリアナさん、私も気が気ではない。必要な物だけで出発しましょう。」

「いや~ん、ユリアナさんだなんて・・・、今日から私は貴方のものよ。そしてカドリア君は私のもの、ユリアナって呼んで♡またはユリたんでもいいわ!」

「では、ユリアナ」

「な~に、ダーリン♡」

ユリアナがカドリアの顔を覗き込むように答える。その顔に満面の笑みのカドリアが

「もう出発しよう」と言うと、

「は~~~~い♡」

と答え、荷物を持ち立ち上がった。どうやら支度は終わっていたらしい。小走りでカドリアの元に駆け寄る時にチラッと馬鹿にしたような視線をフェンダに向ける。

(女め~、いつか殺す)

 一行は王都を目指し出発した。


 その頃、王都で行われている武術大会は騎馬・徒歩部門共にベスト16が選出されていた。ここまではバトルロイヤル方式であったが、ここからは1対1のトーナメント戦になる。そのためくじ引きが行われるのだ。武道会場に32名が揃うとド派手な音楽が響き渡り、その前にカドリアの父である国王ドルドラス2世が現れると全員がその場に跪く。王の左右にはルーガとタイガが護衛として付いている。しかし、王の足元はふらつきおぼつかない為、勇者二人は介護者のような格好になった。タイガが王に「御言葉を」と促す。

「ふむ、儂は戦いは好かぬがカドリアが武術大会をどうしても開きたいというからなぁ~。」

ここまで言うと王は溜息を吐いた。当然ながらその息は酒臭い。

「優勝者には褒美を授ける。精々頑張れ」

そういうと王は踵を返した。

32人の猛者たちはあっけにとられた顔をしている。中には皮肉な笑いを浮かべている者もいる。しかし、一人の者が、

「王子はどうされました?一目お会いしたいとやってきたのですが?」

その言葉にタイガが、

「無礼者、ここへ出てこい」

凄い剣幕で叫ぶと同時に得物の偃月刀を構える。しかし、王は

「カドリアは人に会うとか言って旅に出ている。そのため儂が来たのじゃ。カドリアに会いたいか・・・。だろうな、儂に会いたいものなど誰もおらん・・・。」

激昂するわけでもなく自嘲しながら静かにそういう王をルーガが促し奥に連れて帰った。

それを見届けるとタイガは、32名に向き直り、

「王へ直にお声を掛けるのは無礼であり、罪となる。今回は大目に見るが次はしかるべき罪を与えるから心して置け」

次にタイガはトーナメントのルール説明などをし、くじ引きを行った。最後に質問はあるかと言うと、やけに小さい男が進み出てきた。その男は、タイガの前で敬礼すると、

「質問があります。馬は自分の馬でよろしいでしょうか?」

やけに甲高い声で質問してきた。タイガは男の小ささにあっけにとられていたが、

「ああ、それでいい。何か問題があれば軍の馬を貸すこともできる。」

「わかりました。ありがとうございます。」

小さい男は、再度きれいな敬礼をすると元の場所に小走りで戻った。するともう一人長身の男が声を掛けてきた。

「コマルが質問したなら俺もする。この後もバトルロイヤル方式にしてもらおう。こいつらでは相手にならん。時間の無駄だ。一騎打ちは隊長さんたちだけで十分!」

にやけながらボルシェが言い放つ。ボルシェとコマルのデコボココンビは勝ち残っていた。「ほう、大層な自信だな。しかし、今回の武道大会の狙いは優れた者を軍に招くことだ。別に最強を決めるだけの目的ではない。もっとも、最強は俺で決まっているがな。しかし、お前は徒歩の部ではないか?俺とは戦えん。残念だったな」

そう言うとタイガは不敵に笑った。

「あんたも相当な自信家だ。もしもあんたがコマルに勝てたら・・・、いいぜ、俺より強いと認めよう。」

「コマルとは・・・?」

「さっきの小さいのだ。小さいからってバカにすんなよ。馬に関してはあいつは天才だ。」

ボルシェも同じく笑い、話しは終わった。他に質問は出なかったのでタイガの「散会」と言う掛け声で、32名は王城内のあてがわれた宿舎へと引き上げて行った。

「よ~し、部屋行くか。コマル、俺の部屋に来いよ。」

ボルシェが呼びかけると、はいっと言ってコマルが右肩に飛び乗る。ボルシェが歩き出そうとした時に話しかけてきた男がいた。

「おい、あんた、凄い自信だな。ちょっと顔貸してくれねぇか?あっちであんたの事を呼んでいる方がおられるんだ」

「あー、用事があるんならてめぇから来やがれと言っとけ。」

ボルシェはそう言うと歩き出す。

「ちょ・・・、ちょっと待ってくれ。それじゃ、俺が困るんだよ。人助けだと思ってちょっとついてきてくれよ。」

「どうする?」

右肩に乗っているコマルに尋ねると、

「人助けは大事です。」

とコマルが神妙に答える。

「お前、コマルに感謝しろよ」

「ありがとう。コマルさん、ありがとうございます。こっちです」

そういうと男が歩き出す。付いていくと途中で男が、

「あのー、重くないんですか?いくら小柄とはいえコマルさんも40kg位はあるでしょう?」

「お前案外鋭いな。コマルは身長142cm体重は40kgある。しかし!」

そういうとボルシェは右肩をぐるぐると回し始めた。

「重くないんだなぁ~、不思議と!」

コマルが体を小刻みに動かしながら、

「144cm」と訂正してきた。

「えー、この間、142cmって言ってたじゃん。まだ身長伸びてんの?コマル何歳だっけ?」

「33歳です。」

「エ~~~!!!」

驚きのあまりボルシェの動きが止まる。するとコマルの動きもぴたりと止まった。

「人間やればできるもんだね~。よし、俺も頑張ろう!」

そう誓う長身のボルシェを見て呼びに来た男は、

(あんた、それ以上でかくなって、化け物にでもなるつもりかい?)

と心の中で思ったが、余計なことは言わなかった。

「さあ、ここです。」

男は部屋の前で立ち止まると、変なリズムをつけて扉をノックした。すると中からドアが開き、中に居る若い男が「さあ、お入りください」と促してきた。言われるがままに部屋に入ると奥には一人の中年の男が椅子に座っていた。

「来てやったぜ」

ボルシェが座っている男に話しかける。

「大きいね。何cmあるんだい?」

椅子に座った男は親しげに話しかけてくる。

「う~ん、2m15cmだったかな?」

「そんなに大きくては素早くは動けないだろう?」

「そう。俺はあまり早くない」

「では力が強いのかな?」

「いや、そうでもない」

「こりゃー驚いた。では、隊長さんの前で放った大言は大法螺かい?」

「おっさん、あの場に居たのかい?」

その言葉を聞き、最初に応対に出た若い男が、

「貴様、先生に向かってなんと無礼な」

と激しく激昂する。

「グレイ、怒るな。儂は紛れもないおっさんだ。もう50に近い。ボルシェ君は何も間違ったことは言っとらん。」

「そうだぞ若いの、おっさんの態度を少しは見習え」

このボルシェの言葉がグレイと呼ばれた若者の反感をさらに高める。

「で、おっさん。俺に何の用事?」

「いや、こちらの要件を言う前に聞かせてくれ。貴方が言った先ほどの言葉は真実か?儂たちが束になっても貴方には敵わないという言葉は?」

「ああ、本当だぜ。強い奴は、対峙すると嫌な感じになるもんだ。しかし、あんたらにはそれが無い。例えば・・・、フェンダっていう男知っているかい?」

中年の男は、しばらく思い出すようなしぐさをしてから、

「求道者フェンダか?立ち合ったものすべてを打ち殺すという、伝説の求道者」

「そうだ、彼と出会った時はやばかった。全身の毛が逆立つとかいうだろう?まさにそんな感じだった。」

「フェンダ・・・。求道者フェンダとは伝説の人物ではなかったのか?」

「いやいやいやいや、普通に居るから、今は友達だし・・・。もっともあいつと手合わせして生きてる奴いないからなぁー、伝説扱いも分からなくないがね」

「オオッ!」

それを聞くと中年男は嬉しそうに感嘆の声を上げた。

「こちらのことは話したぜ。次はおっさんの番だ。」

「儂の名前はザリガロ、自分で言うのもなんだが結構名の通った武術家だ。」

「名前は知ってるぜ。優勝者の賭けで1番人気だった人だろ?」

「そうだ。儂には一人息子がいた。その子がな、17歳になる時に軍に入ったのじゃ。武術の才はなかったが心の優しい息子だった。」

「おい、おっさん。こっちも忙しいんだ。昔話なら他所でやってくれ。」

「すまない。では手短に話そう。その子がなクレアという土地で飾られているんじゃよ。見るも無残な格好でな。戦だから死ぬのは仕方が無い。しかし、あれはないじゃろ。何故死んでからも辱められなければならんのだ。それを見た時、儂は誓ったのじゃ。この国の王を殺すと」

「なるほど、それで俺に手伝えと?」

ザリガロがボルシェを強い目で見つめながら頷く。

「嫌だね。今時、珍しい話でもない。おっさんの気持ちも分からなくはないがね。まあ、好きにやってくれ。邪魔はしねえよ。」

部屋から出ていこうとするボルシェ達を、

「おい、先生の話しはまだ終わってないぞ」

そう言いながらグレイが立ちふさがろうとする。

「止めろ」

それをザリガロが鋭く制止した。

「邪魔はしないという言葉を頂いた。それで十分。ボルシェさん、お時間を取らせてしまいましたな。どうぞお帰り下さい。そしてここから出られた方がよろしいかと思います。」

「おう、ザリガロさん。別の機会があれば酒でも飲もうぜ。じゃあな」

そういうとボルシェは部屋を出て行った。


「コマル、ザリガロさんは、今日の遅くに殺るつもりだね。飯食ったら俺たちはここを抜け出すか?」

「はいっ」

「旨いものが出るっていってたから楽しみだ。それまでチェスやろうぜ」

二人はボルシェの部屋へ入っていった。


 次の日、武道大会は中止になった。延期ではなく中止である。噂によるとどうやら昨日遅くに出場者による王暗殺があったらしい。護衛のルーガにより3人の男が殺され、それは阻止されたが、大会の出場者は拘束されて厳しい取り調べを受けることとなった。しかし、ボルシェとコマル、二人の姿はどこにもない。当然ながら二人には指名手配がかかり、捜索をしたが消息は分からなかった。

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