神の眼を持つ女 ユリアナ
それからカドリア達はユリアナの家に向かった。途中、賊に会うこともなく順調に旅は進む。
(治安が安定している)
二人が推挙してくれた人物を配置した効果をカドリアは旅の間強く感じた。
(本当にフェンダとローエルを味方にできて良かった。)
カドリアは心からそう思った。旅を続けること7日目、カドリア達はユリアナの家の近くに到達した。すると、道端に小柄な男が畏まっている。ユリアナの監視を続けていたフェンダだ。
「我が主よ。お久しぶりでございます。」
「フェンダ、久しぶり。元気だった?」
「オ~ッ、恐れ多い。この通りでございます。」
そういうと近くの岩を殴りそれを砕いた。
「・・・そう、それは良かった」
唖然としてカドリアが呟く。
「兄貴、ユリアナに変わった動きは無かったかい?」
嬉しそうにローエルが尋ねる。
「・・・・・・」フェンダは顔すら向けようとはしない。
「フェンダ様、ユリアナに変わった動きはありませんでしたでしょうか?」
今度は部下のような慇懃さで尋ね直した。
「特にない」フェンダはにべもない。しかしローエルは、機嫌を損ねるどころか答えてもらって嬉しそうにしている。
(この二人の関係は不思議だな?)心の中でカドリアはしみじみと思った。出発するとほどなくユリアナの家に着いた。
「我が主よ。あの女、どんな無礼を働くか分かりませぬ。まずは我が会って粗相の無い様に言い含めて参ります。」
フェンダはそういうとドアに向かおうとする。
(あっ、話がこじれる)
とっさにローエルは、
「フェンダ様、わざわざあなた様が行かれることはありません。私が話をつけて参ります。ここは私で十分でございます。」
ローエルがカドリアにフェンダを止めろと目で訴えかける。
「いや、あの女、首を打ち落とす勢いで言わんと通じんぞ。」
その言葉を聞いてカドリアは、
「フェンダの気持ちはありがたいがここはローエルに任せよう。」
「主のご命令とあれば・・・、貴様!絶対に舐められるなよ。」
凄い顔で睨みつけてくるフェンダに敬礼をすると、ローエルはドアを開けて中に声を掛けた。
「こんにちは~、ユリアナさん。いらっしゃいませんか?」
「は~い。御予約の方?」
中から明るい声が聞こえ、前回同様に赤い下着のような服を身に着けたユリアナが現れた。
(占い用の服なのか?)
その刺激的な格好にまたもやローエルは目線を上げることができない。
「あら、あなたは?」
ユリアナは怪訝そうな顔でローエルを見ていたが、
「あなたは・・・ってことは、カドリア君居るの?」
ローエルは目線を下げながら、
「はい、いらっしゃっています。」
と答える。その瞬間ユリアナの顔がぱっと輝き、体をくねらせ始めた。
「やだ~、来るなら来るって言っておいてよね。昨日髪セットするんだった。行こうか迷ったのよね~。ちょっと待ってて、すぐに戻ってくるから、どこにもいっちゃだめよ。すぐだから」
そういうとユリアナは奥に引っ込んでいった。
(どうしよう?)
この事を伝えればフェンダが怒りだすに決まっている。
(ユリアナの「すぐ戻る」という言葉を信じて、ここは黙っておこう)
そうローエルは判断した。しかし、10分経ってもユリアナは現れない。外では、フェンダが騒ぎ出しているようだ。それをカドリアが宥めている。15分経った。流石にローエルも痺れを切らして、
「あの~ユリアナさん、そろそろお願いできませんか?」と奥に声を掛けると、
「前髪が決まらなくって、もうちょっとだから」
という声が返ってくる。
(仕方が無い・・・)
ローエルはため息をつきながらカドリアの元に戻り、ユリアナは支度をしているのでもう少し時間が欲しいという旨を伝えた。
「何!!!」
(あっ、殺される)
案の定、フェンダが凄い目つきでローエルを睨みつけてくる。
「女め~。だから、あれほど言ったのに、貴様の覚悟が足りんのだ。貴様、そこに座れ。貴様の首を撥ね、のちにあの女を血祭りにあげてくれよう。」
いきり立つフェンダをカドリアが必死に宥めている。すると、モリーが家の中に上がり込み、ユリアナを連れ出してきた。
「お待たせ~。」という軽い女の声が聞こえてきた。3人がそちらを見ると、にこやかに手を振っている女性が居る。勿論、ユリアナであった。ユリアナはピンクのワンピースに赤く大きい宝石が付いたネックレスを身に着け、ブロンドの髪、瞳はトパーズ色で長身の美しい女性である。ユリアナはカドリアに近づくと、
「初めて見たときからファンです!」
と言うと、顔を赤らめくねくねし始めた。
「そう、ありがとう!」
カドリアは、ユリアナににっこり笑ってみせた。その笑顔を見て、ユリアナの顔はさらに赤くなり、目はハートの形に変わった。
(さすが女ったらし、こりゃー完全に逝っちゃったね)
モリーが心の中で思う。
「ユリアナさんの占いは良く当たると聞いたのですが?」
カドリアが話しかけると、ユリアナは、
「そうなのよ。当たるっていうか見えちゃうの。それでカドリア君は何をしているの?」
そう聞き返すユリアナにフェンダが、
「女、カドリア様とお呼びしろ」と怒鳴りつけた。ユリアナは、
「あら、イカレ金髪、あんた居たの?」
一瞥し、今、気が付いたように言う。それにいきり立つフェンダをカドリアが抑える。
「私は王子をしている。」
「そうねぇ、私の王子様だわ♡でもね、本当は何をしている人なのかしら?いいわよ、言わなくって。私には見えちゃうんだから・・・、私ねぇ~「神の眼を持つ女」なんて言われてるのよん♡」
そう甘えた声で楽しそうに言うとユリアナはカドリアを見つめた。そしてすぐに、
「えっ、本当に王子様なの?」と驚いた声を上げる。
「そうだよ。」とカドリアが笑いかけると、ユリアナはとろけるような表情になってしまう。
「う~ん、でも王子様。急いでお城に帰った方が良さそうよ。この後、城が襲われるわ」
それを聞いてもカドリアは驚かない。
「いつ襲われるんだい?」
「私には細かい時間は分からない。けど最近襲われるのは間違いないわ」
「凄いね!本当に未来が見えるんだ。それじゃ、急がないとね。ユリアナさん、僕の城に来てくれないか?」
それを聞き、ユリアナは耳まで真っ赤になった。
(何?いきなりのプロポーズ・・・、そりゃ~奇麗で王子様、最高よ。最高の男の子だけれども一つ確認して置かなくっちゃ)
「行くわよ。でも、一つだけ確認させてちょうだい」
「何?」
カドリアが尋ねると、ユリアナは顔を真っ赤にして、
「家の中で話すわ。カドリア君だけ付いてきて、後の人はここに居てちょうだい」
そういうとカドリアの手を引き、家の中に入ろうとする。
「女、待て。カドリア様をお一人にする訳にはいかぬ。我だけでも連れて行け」
そう言うとフェンダが立ちふさがった。立ちふさがるフェンダにユリアナが激昂して、
「なんであんたの見てる前でやんなきゃならないの。この変態」
「女、話が見えぬ。お前は何を確認したいのだ?」
そう尋ねるフェンダにユリアナは苛立ったような大声を上げた。
「体の相性よ。」
それを聞いたローエルとモリーの顔が赤くなる。
「占いの本に書いてあるのよ。相性の悪い男女は長く続かないって、大事なことでしょ?」
「なるほど・・・、女、我は求道者だ。気にするな。」
そう言うと、フェンダは二人と共に中に入ろうとする。
「ストーップ。無理、あんたが居たんじゃ絶対無理」
「気配は完全に消しておく」
「そういう問題じゃないのよ。まったく」
そういうとユリアナはカドリアを見つめる。その表情がすぐにとろける。
「いいわ。カドリア君も急いでることだし、ハグで確かめましょう。さあ、カドリア君、私を優しく抱きしめて!」
そういうとユリアナはカドリアの胸に飛び込んだ。しかし、ユリアナの方が背が高いので、カドリアの顔がユリアナの首筋に当たる。どちらかというとカドリアが抱きしめられているような格好になった。二人はしばらく抱きしめ合っていたが、やがてどちらからともなく離れた。
「うん、合格!カドリア君、不束者ですがどうぞよろしくお願いします。」
そういうとまたもやカドリアに抱きつく。こうしてユリアナが仲間になった。