ローエル 王都へ着く
一方、カドリアは王都へ無事に戻った。とりあえず王、彼の父であるドルドラス2世に挨拶に行く。
「ルーガ、お前を王に引き合わせよう。付いてこい。」
ルーガを引き連れ、カドリアは王の間に向かった。王の間に入ってみると、王は、酒の杯を持って椅子に座り、うとうとしていた。
(また酒か。情けない男だ)
カドリア2世は、カドリアの祖父の地位を継ぎ王になってからその重圧に耐えきれず、酒にのめり込んでいた。酔っているときは現実が見えないため、物事を考えずに済む。そのせいで父はどっぷりと太り、目は黄色く濁っている。その姿は、体を病んでいるのではないかと思わせた。
(本当にこいつは俺の父なのか?覇気の全くないこの男が・・・。祖父が私の父である方が得心がいく)
心の中でカドリアは毒づいた。しかし、このようなことを考えていても仕方が無い。彼は頭の中から感情を押しやり、
「王様、ただいま戻りました」
片膝を付き頭を下げる。
「おおっ、カドリア。此度は良く敵国の侵略を阻止してくれた。予は満足しておるぞ」
そういうと王は上機嫌で杯を掲げて見せた。カドリアはそれに構わず、
「後ろに控えている男、この男を我が配下におきます。お許し願いたい」
「うむ、許そう。だからカドリアよ。これからも私を守ってくれ。父を見捨てるなよ」
カドリアは目線を上げずに、
「はっ、これで失礼します」といって部屋を後にした。その後姿を王はぼーっと見つめていたが、やがてうとうとし始めた。
次にカドリアは精鋭隊の隊長であるタイガを呼び寄せた。
「お呼びでしょうか?」
赤髪の短髪、タイガがすぐに現れる。
「忙しいのにすまない。新しい仲間を紹介する。ルーガだ。」
ルーガは右手を差し出し、
「あんたがモリーの隊長かい。かなりやるんだろう?今度、手合わせ願いたい」
「あんたがルーガか。モリーが化け物だって言ってたぜ。まあ、あいつは俺のことも化け物扱いしやがるが」
とその手を握り返した。
「二人にはこれから武術大会の準備をして欲しい。武術大会で優秀な人物を登用し、それぞれの隊を強化して欲しいのだ。タイガの精鋭隊とルーガの・・・。」
ここでカドリアは考える仕草をした。
「ルーガの隊はまだ名前を付けていなかったな。精鋭隊と・・・、特選隊でどうだろう。うん、良いな。よし、では精鋭隊と特選隊を強化し、最強の軍を編成して欲しい」
「はっ」二人は即座に武術大会の開催に向けて動き出した。
二人はカドリアの前を辞すると早速話し合うことにした。極秘事項でもないので良いだろうと二人は軍営の食堂で話し合うことにした。時刻は11時になったばかり、まだ人は少ないはずだ。予想通り、店には誰も居ない。タイガは端の方の4人掛けのテーブルに座った。タイガは二人掛けでもいいのだが、ルーガのでかい体を考慮して4人掛けを選んだ。
「広いテーブルが空いてて良かったぜ。」
そう言いながらルーガがどかっと腰を下ろした。タイガは、サンドイッチとコーヒーを注文する。ルーガはというと、いつまでもメニューを睨み続けていた。あまりにも遅いのでタイガは痺れを切らし、
「おい、早く注文しろよ。」
「いや、待て待て慌てさせるな。俺にとって飯は人生の重要な要素だ。ここは慎重に選ばんと・・・」
「あ、そう。」タイガは一つ溜息をついた。タイガは頬杖をついて、指でテーブルをとんとん叩く。
「それ止めてくれ。集中できん。」
ルーガがキレ気味に注意してきた。タイガは唖然として、
(お前が言うか?キレるのは俺だろう)
(こいつとは二度と飯食いには行かない)心の中でタイガは固く誓った。
それから約10分後、ルーガはようやく
「よし、決めた」といってAランチとBランチのボタンを押して注文を終えた。
(そんだけ迷って無難なの選ぶんだな。全く何と迷っていたんだか?)
タイガは不思議に思ったが、どうせこいつと飯を食いに来ることは二度とないと思い余計なことは聞くまいと無視することに決めた。そんな事よりも、
「武術大会の事だが」
そう切り出したタイガにルーガが、
「募集する期間は1か月後の10日間でいいだろう。騎馬部門、徒歩部門、飛矢部門の3つの募集、そうとうな人数が集まるだろうから、予選はバトルロイヤル方式で行おう。その後トーナメントだな。賞金は、結構ド派手にしないと優秀な奴は集まらんからな・・・、まあ、そこは王子と相談という事でいかがかな?」
「ああ・・・・・・・・、いいね」
(何だこいつ、さっきの優柔不断が嘘のようだ)
驚いてタイガがルーガを見つめていると、注文したものが届いた。
「さあ、食おうぜ」
ルーガはうれしそうにナイフとフォークを持った。
早速、カドリアは王の許しを得て、武術大会の実施を国中に知らせた。優勝賞金は、破格の500万である。この額は平均所得の約20年分にあたる。この情報は瞬く間に広まり、300名を超える武術家が集まった。しかし、この武術大会は敵国のスパイや暗殺者を招き入れる恐れもあるため、タイガとルーガは絶えずカドリアを護衛した。
武術大会は10人一組によるバトルロイヤル方式で予選を行うことになり、勝ち残った32人によるトーナメント戦を行い優勝者を決めることになった。また、優勝者は、それぞれルーガとタイガと戦う権利が得られることも決まった。ただし、飛矢部門はどれだけ遠くから正確に素早く的を射抜けるかを競うため、全く違う競技方法になる。これで用意は整った。いよいよ明日から武術大会が始まるという時に、カドリアの元にローエルが到着したという連絡が入った。
「何、ローエルが・・・?」
カドリアが考えていたよりもずいぶん早い帰還である。
(おかしいな?)カドリアは心の中で思い、
「一人か?」と尋ねると、お一人ですという答えが返ってきた。首をひねりながらもローエルの元に向かう。
カドリアが現れると、ローエルは片膝を付き頭を下げた。
「ローエル、ご苦労でした。」
「はっ、ありがたきお言葉、しかしながら、帰還したわけではなく、今日はお願いに上がりました。しかも恐れながら至急でござます。」
カドリアは驚いて、
「申してみよ」と短く言う。
「はい、私とフェンダの人材収集は順調でございました。それを続けて行くと「良く当たる占い師」の噂を聞くようになりました。私どもは、その占い師を尋ねると、最初は占なわないと言われたのですが、・・・ここら辺は長くなるので割愛しますが、最終的にはフェンダの将来を占い、王都にお前の道を示すものが居ると申したのです。しかもカドリア様のお姿までも言い当てたのです。」
「なるほど、それは凄い。」
カドリアは素直に驚いた。
「で、私に願いとは?」
「はっ、その占い師、ユリアナという女ですが、その~、えっと~・・・」
ローエルが言いづらそうにしているので、構わぬから申してみよと水を向ける。
「はい、ユリアナが申すには、「奇麗な子ね。惚れたわ~一目惚れよ~」と言い出しまして、「この子を連れてきて~、そうしたらいくらでも占ってあげるわ~」という訳でございます。」
とユリアナの真似を含めて説明をした。それを聞いたカドリアは笑い出し、
「それで私は生贄にされる訳か」
ローエルは激しく首を左右に振り、
「生贄などと滅相もない。ただ、フェンダとも話したのですが、この女を敵に取られたら大変なことになる、至急カドリア様にお越しいただくしかないということになり、私が参上した次第でございます。」
「それでフェンダは?」
「女を見張っているはずです」
「ふ~ん、では至急行かなくちゃね。ここの指揮は、ジルドに任せるとして・・・、護衛だよね?タイガとルーガは武道大会があるから連れて行けないし、やっぱりモリーしか居ないな。」
ジルドは祖父の時からの参謀であり、50才を過ぎる宿将で忠誠心の篤いしっかり者の老将、彼ならば不測の事態にも適切に対処できるはずだ。また、タイガとルーガも居るので、例え隣国が攻めてきてもそう簡単にはやられないだろう。カドリアは早速出発の準備を整えた。そして、ジルド、タイガ、ルーガを集め事情を説明した。タイガは、自分を護衛として精鋭隊を連れて行って欲しいと懇願したが、カドリアは
「私は精鋭隊を世界最強の騎馬隊にしたい。ここはやはりタイガ自身が人物を見て、慎重に選んで欲しい。また、今は武術大会を利用して敵国のスパイなどが入り込んでいる。精鋭隊を動すなど大げさに動くべきではない。3人なら目立たないし、もしもモリーに手が負えないような者が現れたら、私が仲間にして帰って来るさ。ルーガのように!」
そのカドリアの朗らかな笑顔を見てタイガは引き下がった。
「出来るだけ早く戻る。本当は私も大会を見たい。」
そういうとカドリアとローエル、モリーは占い師の元に馬を走らせた。