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明日の天気は曇り空

作者: 夜桜てる

『今日の天気は、全国快晴の予報です。お出かけの際は日差しに十分にお気をつけ……』


 テレビから聞こえる声を聴いて、つい顔を(しか)めてしまう。今日は木曜日。会社へ出勤しなければいけない。

 出勤ならば晴れの方がいいと、以前までは考えていた。でも今はもう、そうは思えない。


出勤すると、いつものように(・・・・・・・)後輩が挨拶する。


「先輩、おはようございます」

「あ、ああ。おはよう……」

「? なにかありましたか?」

「いや、なんでも無い」


 その日も、何も無いように過ぎていった。いつもと同じ日常だと、何故かそう思ってしまうのだ。

 俺も、以前までは気づいていなかった。


 手帳に不自然にできた空白に、違和感を覚えなかった。

 

 事実に気づいたのは2年前。

 その日は久々に同窓会のために集まっていた。


 ところどころで互いを懐かしむ声が聞こえる。

 さて、俺も……と思った時あれと、思った。


 俺は、誰と仲が良かった? 鈴木君とは仲が良かった。田辺君とも笑いあって話した覚えがある。だけど、違う。


 ……あの登下校の時、あの修学旅行の時、あの……花火の時。俺の隣にいた人は誰だった……?


 全く、思い出せなかった。


 嬉しい時も楽しい時も辛い時も悲しい時も、俺の隣にいてくれた人。君はいったい……誰なんだ……?

 それを思ってふと気づいた。一人暮らしの家に何故かある二つのマグカップ。何故かある予備の布団。何故か何も入っていない写真立て……。


 瞬間、涙が奥から奥からあふれ出した。


 周りの同級生たちは皆、急にボロボロと泣き始めた俺に驚いている。

 鈴木は大丈夫かと背中をさすってくれる。田辺はおいおいどうしたと、心配しながらもいつもの調子で笑いかけてくれる。


 大丈夫だと答えて、どうにか涙を止めてから、俺は彼らに尋ねた。


「綾川成実という女子を知っているか」と。

 すると彼らは一瞬不思議そうな顔をしてから首を横に振った。


 その日、その後どうしたのかは、覚えていない。

 だが、翌日からは必死だった。


 また忘れるのではないか。いなくなるのではないかと。


 おびえておびえて、おびえ続けて。

 そのうちに人が消えるのが晴れの日だと気づいた。


 それからは晴れの日が来るたびに震えて過ごしていたのを、覚えている。



「先輩、おはようございます」

「あ、ああ。おはよう……」

「? なにかありましたか?」

「いや、なんでも無い」


 不思議そうにしている後輩の社員を見て、ああやはりと思った。


 俺を先輩と呼ぶ後輩なんて、昨日まではいなかった。〝先輩〟の呼び名は俺の同期の、もう一人のやつの呼び名なはずだ。


 そして自然とその事実を突きつけられる。


 『また一人いなくなった』



 段々と慣れていく感覚を味わった。「ああ、アイツが消えたか」と、ただ事実として認識するだけで、それになにかを思うことも無くなっていくのだ。

 その人間味を失う感覚に恐怖を覚え、いつしかその恐怖すらも忘れていく。


 こうして心は壊れていくのだろうかと、なんともなしに、ただ感じた。



 数年経ったある晴れの日のこと。朝、起きた時ああと気づいた。


 次は、俺だ。



 明日の天気はくもりだろうか、晴れだろうか。

 日が隠れなければ、どうなるのだろうか。



「あした天気になあれ」


 そんな子供の無邪気な声が、外から聞こえた。

Twitterのいいね・RT企画で唐突に書いた短編。

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