アルとのデート
今日はアルと図書館で会うと約束していた日だが、急遽アルが一日休みが取れたというので、馬に乗って遠出をする事になった。私は訓練場の食堂のアンおばさんと一緒に、おいしそうなカツサンドをお弁当に作った。ユーリには内緒で・・・だ。
ユーリは私が休みの日には、アルと図書館で会っていることを知っている。勿論それを良く思っていないことは十分に表情だけで伝わってくるのだが、ユーリは何も言わない。ただ悲しそうな切ないような目で、図書館に向かう私を見つめている。これは結構地味にきつい。
そうでなくてもユーリの溺愛を一身に浴びて、あっぷあっぷ溺れているところにきて、同じ思いを返せない罪悪感さえ感じている今、他の男に会いに行くのに嬉々としてお弁当を作っている姿を見せるわけにはいかない。
ユーリには今日もいつもの通り図書館に本を読みに行って、いつもの通りアルと数時間会うだけだと思っていて欲しい。
そんな事情を一切知らないアンおばさんが私に言う。
「今日はデートかい?女の子には花をプレゼントするといいよ。それで甘い言葉でも囁けばいちころだ。ちょうどいいからそこにあるお花もっておいき。大事なデートなんだろ・・」
私はアンおばさんにくれぐれもユーリス隊長にはこのことは内緒だという念を押しておいた上で、折角なので花はお礼を言って貰っておいた。
待ち合わせ場所に着くと、まだアルは来ていなかったので、その辺の草むらに腰掛けて時間をつぶす。朝早いので、まだ少し弱めの太陽の光が、木々の間の新鮮な空気に当って反射する。
のどかだなぁーー。ついこの間は肋骨を折って、肺がぺしゃんこになって、気管支から血を吐く、とかしていたというのに・・・。良かった。良かった。
あのままだとアルは死んで、私は微妙に寸前で助かっただろうけど、王国は王子を二人も失って国は荒れて、きっとこんな風にのどかな感じではなかったろう。隣国がこれを好機に攻めて来るかも知れない。
私が平和を噛み締めているときに、馬の足音が聞こえてきた。アルだと思って振り返ると、そこには白馬に乗った王子様じゃなくて・・・アルがいた。私も中学生の頃は、白馬に乗った王子様に憧れたものだけど、まさか本当になるなんて思いもよらなかった。
アルはこの間と同じように両手で私の腰を引き上げて、アルの膝の間に私を乗せてくれる。密着度が100%になる。これが結構恥ずかしい。なんせ私のお尻から頭の先までアルとくっついたままなわけで・・・。アルの息が耳元に当ってくすぐったい。良かったこの角度じゃアルには見えないだろうけど、私は今、真っ赤な顔をしていると思う。
アンおばさんに貰った花束を渡すと、アルが素っ頓狂な声で言った。
「何だこの花は・・・オレにか?」
「まあ・・・そう・・」
食堂のアンおばさんにどうしても持っていけと押し付けられた話をしてしまうと、私がデートで浮かれていたことや、デートの為に特別にお弁当を作ったことやらがばれてしまう。ユーリとアル。どちらも選べない中途半端な状態の私が、無駄に気を持たせるようなことはしたくなかった。
するとアルが口角を上げて微笑んだ。良かった喜んでくれたらしい。だけど通りすがる人たちの視線が痛い。なんせ私は今、見た目は13歳の少年クラマなのだ。その後ろには硬派でイケメンのアルが体をぴったり密着させて馬に乗っていて、あまつさえその青年は少年から貰った花束を見て微笑んでいる。
まあこの世界でもBLは多少認識されているとはいえ、これは公然羞恥プレイだと思われて、留置所に入れられるレベルなのではないのだろうか。背中に当るアルの体温にばかり意識が集中している私は、思考がだんだんおかしな方向にいく。
「大丈夫か?飛ばすぞ」
アルが低い声で耳元で囁いたかと思うと、私の返事も待たずにいきなり馬のスピードを上げた。私の体は上下に揺れてお尻が痛くなってくる。それにも構わず、馬はどんどん城下町をでて山のほうへと向かって駆けていく。
「ちょ・・アルっ・・・スピード落として・・お尻が痛っ!!」
私が思わず叫んだら、アルが私の体をもっと後ろにずらせて丁度アルの下半身の上に乗るようにした。器用に馬を操縦しながら、ずり落ちないように私の両脚をアルの両脚に掛けさせる。
そりゃあ今私はアルの上に乗っている形だから痛くは無いけど、でもこれじゃあアルは私の体重プラス自分の体重で、とても重いんじゃないの?!!!?っていうか密着度100%どころじゃないよ・・これ!!120パーセントだよ!!もう体の一部だよ!!
なんとか言おうと思っても、馬の揺れで口を開けると、即舌を噛む状態なので、観念してこのままでいることにした。
なんとか目的の場所に着いたときには、もう私は脳みそがシェイクされた状態で、すぐには立てなかった。アルが私をお姫様抱っこしてくれて、草むらにそっと寝かせてくれる。
目を何とか開けるとアルが心配そうな顔で覗き込んでいた。私は大丈夫という代わりに、にこっと微笑んで返事の代わりにする。