ユーリスの愛の形
「あのー、ユーリス様。わかっていらっしゃいますよね?」
「なにをですか」
私は今騎士訓練所で雑用係のクラマとして一日の仕事を終え、訓練場の隅の庭で休憩しようと食堂のアンおばさん特製ジュースを手に持ちベンチに腰掛けている最中だった。遠くの方でまだ騎士の方達が日々の鍛錬に精を出しているのが見える。
何故かユーリはいまだに私への溺愛を続けている。今日もまたオリボレンを持ってわざわざ休憩中の私を見つけるためにあちこち探し回った挙句、私の隣にいま腰掛けている。
「僕は・・・いま特定の人ができたので・・・その・・こういうのはまずいと思うんです」
私はなんとか言葉を選びながら本意を伝えようとする。ユーリはそれにも動じずにオリボレンをひと口大にちぎって、私の口に入れる。
「んぐぉ。だからですね・・・もぐもぐ」
私がオリボレンを咀嚼しながら必死の形相でいると、ユーリが突然妙な事を言い出した。
「そこに誰かのケーキがあるとするでしょう?」
は、ケーキ?なんのこっちゃ・・・。ユーリは素っ頓狂な顔をした私に構わず話し続ける。
「とてもおいしそうで綺麗で、どこのお店にも売っていない唯一無二のケーキなのです。でも私には食べる事が許されない。私のケーキではないからです。だけどどうしても私はそのケーキを忘れる事ができなくて、他のケーキなど食べたいとすら思わないのです」
ふむふむ。そんなケーキがあったら私にも分けて欲しいくらいだ。ユーリが再び私の口にオリボレンを詰め込む。
「むぐぐぐぅ。もぐもぐ」
「そこで私のできることは、その誰かがケーキを食べ終わるまで諦めない事なんです。最後まで食べる前に、その人物は死んでしまうかもしれない。途中でその味に飽きてケーキを置いてどこかに行ってしまうかも知れない。その可能性がゼロではないのなら、それを待ちたいとさえ思うのです」
まあ死ぬなんて物騒な台詞をはくなぁ。でもそんなに待っていたらそのケーキは腐ってしまっているのでは?
「それまでは、誰かのもののケーキであっても、見ているだけなら許されるのではないかと・・・」
よくわからないが、ユーリがケーキを大好きなことは分かった。今度有名なお店のおいしいケーキを買ってきてあげよう。私は最後のひと口を咀嚼して飲み込むと、右手で持っていたジュースを飲み干していった。
「あの・・・あまり理解できませんでしたが、僕はいつでもユーリス様の味方なので、そのケーキがどうしても買いたいのなら、何日だって店の前で並びますのでおっしゃってください!!」
そう言って拳を握って力説する私を、ユーリは相変わらずの溺愛マックススマイルで見つめてこういった。
「ありがとう、クラマ。私は諦めないよ。絶対に・・・」
私はユーリの感謝の言葉に機嫌を良くして、早速思いついた新発明のみじん切り機の説明を始めたので、ユーリがそのあと私には聞こえないくらいの小さな声でつぶやいたことに気がついていなかった。
「・・・永遠に愛しているよ・・・サクラ・・・」